2023 年 112 巻 p. 5-29
この論文は,実際にコロナ禍で実施された文部科学省委託調査の実施過程とその研究成果を事例として,教育社会学の実証研究が政策過程とかかわりうる可能性を論じるものである。その際に一つのレファレンスとするのは,政策分野においてこの20〜30年間ほどで使われ出したEBPM(evidence based policy making)である。しかし,先行して議論されてきた欧米ではEBPM にはすでに様々な批判もなされてきた。そして,このような批判を背景に,研究知の利用(knowledge use)の可能性を,厳密な因果関係を重視するEBPMよりも緩やかにとらえ直そうという議論が始まっている。この論文でもEBPMを緩やかにとらえ直すEIPM(evidence informed policy making)のあり方を議論する。
具体的には,そうした政策調査の実践と考察の中から私たちの間で共有されてきた3つの論点,①エビデンス形成における研究者の役割,②効果の異質性への着目,③探索的エビデンス収集の意義,を提示していく。そのうえで,厳密な因果推論のみを重視するEBPMではなく,さまざまな研究知を政策に生かしうるEIPM―とりわけ相互学習の過程を組み込んだEIPM―を志向する研究の可能性を示す。