教育社会学研究
Online ISSN : 2185-0186
Print ISSN : 0387-3145
ISSN-L : 0387-3145
最新号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
論稿
  • ――会話データの分析――
    本田 由紀
    2022 年 111 巻 p. 5-24
    発行日: 2022/12/30
    公開日: 2024/06/04
    ジャーナル フリー
     2022年度から高校で実施される「総合的な探求の時間」(探究学習と略記)の目的として,学習指導要領は「高度化」と「自律性」を掲げている。その実現可能性を検討するため,首都圏の公立高校の探求学習の授業で生徒個々人がテーマを設定する場面において博士課程大学院生のTAが行う指導の録音データを分析した。
     分析課題は,第一に指導場面の会話における行為連鎖にはいかなる特性が見出されるか,第二に指導者は生徒にどのような内容を指導しているか,の2つである。
     第一の課題に対しては,次の知見が得られた。①指導者の質問に対して生徒は考えの表明(M)の形で答える。②それに対し指導者は「方向づけ」(O)で応答する。③指導者の発話には提案(S)も含まれ,「方向づけ」も提案もさらなる質問を伴う。④指導の終了時に,指導者はオープンな励まし(P)を述べる。これらの行為連鎖はI-M-(Q-M-)(OQ-M-)(SQ-M-). . . Pと集約される。
     第二の課題に関して,コーディングにより分析した結果,指導者は生徒の探究テーマに関して⑴動機・目的・興味,⑵対象,⑶方法・データ,⑷問い・仮説・スタンス,⑸既存研究,⑹経験・スキルを明確化するように質問と提案を行うこと,⑴~⑹は相互に抵触すること,指導者による肯定的・否定的な表現が感覚的であること,「調べ学習」との差異化が不分明であること,それらの解決は生徒の責任に委ねられていることを指摘した。
     これらの知見は,学習指導要領の掲げる探求学習の目的が過度に理想的なものであることを示唆する。
  • ――学級での活動を成り立たせる教師の教育実践に着目して――
    平井 ⼤輝
    2022 年 111 巻 p. 25-44
    発行日: 2022/12/30
    公開日: 2024/06/04
    ジャーナル フリー
     本稿では,小学1年生の学級でなされた,学級の活動方針を「みんなで決める」実践に着目し,教師- 児童間の相互行為から,いかに教師が児童を学級の活動に参画させているのかを分析することで,学級における制度化の過程の一端を明らかにした。
     分析の結果,児童が従う「みんなで決めた」という事実を構成する際には,教師は一貫して提案者として振る舞い,すべての児童が意見を述べることを可能にする状況を構成した上で,個々の児童の意見と活動方針の決定を明確には結びつけずに,学級の活動方針を決めていた。そこでの「みんな」とは,個々の児童の総和ではなく,学級の成員であれば含まれることが当然のこととして扱われる規範的なものであった。規範的なものとして「みんな」が成立することで,決定事項に不満をもつ児童も含め,児童を強制的に従わせることが可能となっていた。また,「みんなで決める」過程においては,あえて児童に否定的な意見を述べさせることで,個々の児童が抱える問題を,学級で解決し得る/すべき問題とし,学級においてすべての児童が共通の方針のもとで活動できる状況を構成していた。
     以上の分析を踏まえ,「みんなで決める」過程は学級における制度化の初期形態であり,児童は「みんなで決める」過程において単に抑圧されているのではなく,「みんな」に統制されることで,学級の一員として参画することが可能になっていることを指摘した。
  • ――教師と生徒による不活化過程の相補的達成――
    梅田 崇広
    2022 年 111 巻 p. 45-64
    発行日: 2022/12/30
    公開日: 2024/06/04
    ジャーナル フリー
     生徒間トラブルに対処するうえで,教師には,トラブルへの「適切」な介入と,教師の「都合の良い解決」とならないよう生徒主導のトラブル解決が要請される。このとき,何らかの方法や実践がいかに有効で役立つものであるかという議論に加え,教師や生徒たちが直面する「現実」を分析的・批判的に捉えつつ,生徒間トラブルへの対処のあり方を議論していくことが必要である。
     しかしながら,先行研究ではトラブルの問題化過程での教師や生徒の解釈や意味づけに焦点化されてきた一方,トラブルの不活化過程には十分な関心が寄せられてこなかった。そこで本稿では,トラブルの不活化過程が維持・達成される教師・生徒のローカルな解釈実践を解釈=記述することを目的とした。
     分析結果は次の通りである。第1に,問題状況の継続とみなす筆者に対し,生徒らは「嫌い」「関わりたくない」という感情を問題視せず,また,「仲良くせんでもやっていける」と語ることで,複線的なリアリティの複合の結果としてトラブルを不活化させていた。第2に,他方で,教師がそれを生徒たちによる「自治的解決」として解釈し,教育的にトラブルに介入することを回避していた。トラブルの不活化過程は,こうした異なる解釈実践を通じて,相補的に維持・達成されるものであった。
     以上の知見を踏まえ,トラブル解決において教師の実践が有する特質と,トラブルの対話的な解決を再考する視点を提示した。
研究レビュー
書評
feedback
Top