2023 年 112 巻 p. 97-118
本研究では,ある高等専修学校を事例として,コロナ禍における学校行事の中止・縮小が教師に何を気づかせたのかについて検討することを目的とした。事例の高等専修学校の教師たちは,学校行事の中で生徒が豊かな経験が得られるようにさまざまな工夫を凝らしてきた。こうした事例を研究対象にすることには,教師が学校行事を重要視し積極的に関与する課題集中校に生じた一つの姿と,そうした研究対象だからこそ浮かび上がる学校行事の今後の発展可能性を描き出せるという意義がある。
ベテラン教師3名へのインタビューからは,学校行事の中止・縮小によって生徒にさまざまな経験の喪失や不足が起き,それによって生徒の様子が例年の「あるべき姿」に達しなかったという認識が見出せた。それらの語りからは,教師たちが学校行事に対して,経験を通して生徒の多面的な成長を促す重要な機会であるという意義を再確認していることが示唆された。一方で,教師たちは予期せぬ収穫として,生徒たちが経験の喪失・不足があるにもかかわらず,事前準備の取り組みや生徒間での関係構築に自主性や主体性を発揮している姿を見出していた。これらの知見からは,教師の精緻なデザインと生徒の自主性・主体性への信頼を組み合わせながら生徒の多面的な経験と成長を支えていくという,学校行事の今後の発展可能性を導き出すことができる。