教育社会学研究
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論稿
相互行為のなかの「知っている」ということ
──社会化論が無視してきたもの──
森 一平
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2011 年 89 巻 p. 5-25

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抄録

 本稿は,「知っている」ということがいかなることであるのか,このことを,それが成立するための条件を問うことで,明らかにしようとするものである。この条件とは,「知っている」という記述が,状況において適切なものであるための条件である。本稿ではこの条件を,相互行為の組織のされ方のなかに見出していく。
 本稿ではこの問いをとりわけ,IRE 連鎖に着目することで解いていく。IRE 連鎖は,「知識の確認」のために用いられることが知られており,そのときそれは,「知っている」ということを前景化する装置になる。この場合,IRE 連鎖の成立条件を問うことが,「知っている」ということの成立条件を問うことと重なるのである。
 本稿では,「概念分析としての相互行為分析」という方針のもとで,相互行為が分析される。概念分析とは表現同士の結びつき方の分析であり,相互行為の分析も,行為の記述表現同士の結びつき方を明らかにすることによって検討することができる。この点で,概念分析と相互行為分析の方針は一致することになる。
 相互行為の分析を通して明らかになるのは,「知っている」ということが,「知らない」ことの可能性を条件として,初めて成立する現象であるということである。「知らない」ことの可能性は,さまざまな実践的課題に導かれながら,多様なあり方で現出することで,「知っている」という言語ゲームを多重的に構成している。

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© 2011 日本教育社会学会
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