2015 年 96 巻 p. 303-323
本稿の目的は,子どもの視点からひとり親家庭研究に新たな理論的視角を提示することにある。これまでのひとり親家庭に関する研究は,彼らの生活を経済的な不利に収束しがちであったこと,子どもを主体として捉えることがなされてこなかったことなどの課題を残していた。そこで本稿はひとり親家庭の子どもに対する聞き取りから得られたデータを基に,ひとり親家庭という構造の中で子どもが主体としてどのように生き抜こうとしているのかについて検討した。
調査より明らかにされたのは以下の二点である。第一に,彼らは自己の家庭経験にアンビバレントな感情を持ちながらも自己の家庭経験を肯定的に理解しようとしている。第二に,同居親との関わりには多様性があったが,同居親以外のつながりを豊富に持ち,それを活かしながらうまく生き抜こうとしている。
このことから二つの次元における承認の重要性が導き出された。第一に,ひとり親の子どもたちにとって,自己の複雑な家庭経験を正当なものとして理解するために自己・他者からの承認を要している。そしてその役割を果たしているのが,同じひとり親の子どもであった。第二に,ひとり親家庭であることに対して周囲から承認を得ることによって,彼らは家庭外の豊富なつながりを持つ基盤を獲得している。
以上より,本稿は従来から指摘されてきた経済的な再配分に加え,承認の観点が必要であることを提示した。