抄録
今日われわれのフィールドワークという営みには調査による地域貢献の課題がつきまとっている.フィールドが海外になると,地域貢献は容易に達成できるものではない.われわれ地理学者が地域的差異の究明を研究目的に掲げているように,海外でのフィールドワークの成果を還元しようとすれば,地域社会の特性に応じて社会文化的な差異を越えなければならないからである.そこには,科学者の形づくる知の性質,還元を計る空間的な内実とスケール,還元を意識する研究者の立ち位置など,克服しなければならない数多の問題点がある.本稿は,それらの問題点の基本的な側面に検討をくわえ,望ましい知の還元への方途を模索する試みである.