E-journal GEO
Online ISSN : 1880-8107
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最新号
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調査報告
  • 小池 野々香
    2026 年21 巻1 号 p. 1-17
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/19
    ジャーナル フリー

    本稿は,利根川下流域の複数市町村の祭礼で実践される山車・囃子文化を事例に,地域間や祭礼間にみられるネットワークが地域一帯の祭礼文化にもたらす影響について考察することを目的とする.対象地域は利根川水運によって河岸を中心とした地域経済が発達し,地域間で人や物資の移動が盛んであり,今日に至るまで市町村間の緩やかな結びつきが見られる.こうした人の移動を背景に,利根川下流域には,祭礼時に用いられる山車・囃子に共通性がみられる“佐原型文化圏”が発展した.祭礼時以外の日常的な移動によって生まれた個人間の縁は,祭礼時において地域間や祭礼関係者間のネットワークの形成に寄与し,越境的な山車の曳き手参加や下座連の活動,祭礼の見物行動として機能する.佐原型文化圏では,祭礼文化が発展した時代からこのような祭礼への越境的な参加行動が見られることが特徴的であるが,その中で芽生えた地域間の文化的共通性を背景に,今日においても祭礼関係者間のネットワークが個別の祭礼を支えている.

解説記事
  • 荒木 一視
    2026 年21 巻1 号 p. 18-43
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/19
    ジャーナル フリー

    2024年,食料・農業・農村基本法が四半世紀ぶりに改正された.本論では改正に際しての新しいキーワードである食料安全保障と食料システム,および人口減少に着目し,地理学における議論の整理と展望を行った.まず,食料安全保障に関わっては食料アクセス,食料貿易に加え,不測時対応に焦点を当てた.次に食料システムに関わっては環境との調和という側面と価格形成および関係者の位置付けという側面から検討し,最後に人口減少に関わっては農業の持続的な発展と農村の振興という側面から,それぞれ検討した.環境との調和と国民への食料供給をになう合理的な価格形成を実現する食料システム像が具体性を欠き,食料安全保障を実現する上で不明瞭なことを指摘するとともに,その具体化のためには地理学の研究成果を活用することを提案した.あわせて,その際にモデルケースという手法からの脱却も提起した.

地理教育総説記事
調査報告
  • 中田 輝男
    2026 年21 巻1 号 p. 56-74
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/19
    ジャーナル フリー

    本研究では,古代東山道の碓氷峠を事例に,山間部の歴史的交通路を通る人々の経路選択行動を論じる.従来の研究では碓氷峠越えの経路として碓氷峠旧道と入山道の2つの説があり,中世以降は主に碓氷峠旧道が選択された.なぜ標高が高く歩行に不利とみられる碓氷峠旧道が主要道として選択されたのか.この理由を道路の地形に起因するエネルギー消費量と地形の険しさから分析する.対象の両経路での分析の結果として,身体にかかる負荷であるエネルギー消費量には大きな差はないが,地形の険しさでみると特に入山道の危険性が大きいことがわかった.それゆえに安全に通過できる碓氷峠旧道が選択されたと考えられる.本稿では,山間部を通る交通路での長期にわたる一般の人々の経路選択の理由が,地形に起因する合理的な判断であるとして,碓氷峠を越える経路の歴史的経緯からみても妥当な結論を得た.

  • 矢ケ﨑 典隆, 高橋 昂輝
    2026 年21 巻1 号 p. 75-93
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/19
    ジャーナル フリー

    アメリカ合衆国のポルトガル系人口は,マサチューセッツ,カリフォルニア,ハワイに偏在する.本稿は,19世紀に捕鯨に伴って展開したポルトガル人の移住と現代のポルトガル系人口の分布やその地域社会について,現地調査の成果を踏まえて考察することを目的とする.ポルトガル人,特にアゾレス諸島の出身者は,アメリカ合衆国の捕鯨に重要な役割を演じた.マサチューセッツでは,捕鯨基地を出港する遠洋捕鯨船に乗り組んだ.カリフォルニアでは,季節的な沿岸捕鯨に独占的な影響力を及ぼした.ハワイでは,捕鯨船を降りた人々がポルトガル系社会を築いた.捕鯨の時代が幕を下ろした後も,19世紀に形成されたポルトガル系人口の分布は基本的に変化しなかった.今日,ポルトガル系ディアスポラは,偏在する人口分布に加えて,捕鯨博物館,移民博物館,エスニック祝祭と宗教施設,エスニックレストラン・料理,壁画,エスニック組織などから確認することができる.

地理紀行
提言
  • 鈴木 晃志郎
    2026 年21 巻1 号 p. 101-114
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/03/19
    ジャーナル フリー

    査読制ひとつをとっても性善説の上に成り立っている学術界は,その前提が成り立たない場合を想定しておらず,未知の攪乱要因に対して脆弱な側面がある.本研究は,国際的な承認を経ずに画定された国境線が,アカデミアにおいていかに無批判に受け入れられているのかを検証する目的のもと,Elsevierが運用するScienceDirect上の地理学に関連する分野の代表的な国際誌5誌の掲載論文25,144報から中華人民共和国(以下,中国)および南シナ海周辺が描かれた地図242葉を抽出して九段線の有無を二値化し,九段線の描写が論文著者の属性によってどれほど説明されうるのかを検討した.中国国内の中国人研究者,中国出身の在外研究者,中国と関わりの深い台湾,シンガポール,香港などを除いた国外研究者の著者数で3群を構成し,九段線の有無を目的変数とするロジスティック回帰モデルを用いて調整オッズ比とその95%信頼区間を計算した結果,中国人研究者の調整オッズ比は2.44(95% CI: 1.77–3.38, p<.01),国外研究者は0.08(95% CI: 0.01–0.65, p<.05)となり,前者に正の,後者に負の関係が検出された.以上の分析により,地図表現の裁量権を著者に委ね内容に踏み込まない現行の学術誌の投稿規定は,結果として特定の国や地域の「力による一方的な現状変更」を黙過する潜在的なリスクを内包していることが示された.

2025年秋季学術大会シンポジウム
百周年記念イベント助成事業報告
調査報告
  • 山本 健太
    2026 年21 巻1 号 p. 148-161
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/05/28
    ジャーナル フリー

    本稿は,東京の美容専門学校生を対象とするアンケート調査の結果から,かれらの進路やキャリア選択とその空間構造における親同居の影響の一端を明らかにしたものである.回答した専門学校生は東京圏内に親と同居する者が多い.親と同居する者では,実家からの通学圏内の学校が自ずと選択されていた.一方で,親と同居しない者の多くは地方出身者であった.かれらが進学先を選択する際には,学校の所在地が東京であることや学校の知名度があることなどが影響していた.アンケート回答者の就職先希望地域は,情報の取得が容易で選択肢も多い,いわゆる美容院激戦区に集中していた.親と同居していない者の中には,いずれ実家地域へ戻ると考えている者もおり,その際には,地縁関係が重要であると捉えていた.すなわち,キャリアのステージによって重視される資本の種類が変化している.またかれらが想定するキャリアの空間構造は,美容師の再生産が大都市内のみならず実家地域とのつながりのなかでなされる可能性があることを意味する.

  • 松山 洋, 齋藤 仁
    2026 年21 巻1 号 p. 162-173
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/05/28
    ジャーナル フリー

    阿蘇火山北部では,晩冬~早春の日曜日に「野焼き」が実施されるところが多く,その実施には天気が重要である.2007~2024年の2月第4日曜日と3月第1・第2日曜日の野焼き実施記録を分析した結果,以下の傾向が明らかになった.(1)前日および当日に降水がない場合に野焼きは実施される,(2)前日または当日の午前に降水があった場合に野焼きは延期される,(3)当日午後に降水予報がある場合に野焼きは実施される.これらに基づき,1978~2024年の2月・3月の日曜日について,AMeDAS阿蘇乙姫の気象データを用いて野焼き実施状況を推定した.2月第5日曜日(0%,n=1年)を除いて,野焼き実施確率は2月第1日曜日が最高で(66%),2月第3日曜日と3月第1・第4日曜日が最低であった(40%).最高確率と最低確率の差は統計的に有意であった(p < 0.05).最高確率日と最低確率日の海面更正気圧を当該週の長期平均値と比べたところ,野焼き実施前日の気圧偏差に大きな違いがみられた.

2025年度サマースクール
2025年秋季学術大会巡検報告
2025年秋季学術大会公開講演会
第17回日韓中地理学会議
調査報告
  • 川村 壮, 橋本 雄一, 谷岡 勇市郎, 島田 勇気
    2026 年21 巻1 号 p. 190-199
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/05/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,2025年7月30日に発生したカムチャツカ半島付近の巨大地震での北海道釧路市における津波避難を事例に,津波警報の発表に伴う住民の避難行動と自治体の対応の実態把握と課題の整理を行った.まず,地震発生後の釧路市役所の情報発信や避難場所開設などの対応状況を確認したところ,今回の地震に伴う避難行動および自治体対応の課題として,想定より多くの避難場所を開設しなければならなくなったことや,Lアラートによる避難指示の発令に時間を要したことなどが判明した.次に,住民の避難行動を地図上で可視化した結果,津波警報で想定される浸水域を大きく超える範囲で避難行動がみられたことが確認できた.適切な避難行動を促すための解決策として,GISを活用した防災教育によって住民の防災に関する空間的認識を涵養することや,防災関係システムの改良などにより行政の防災担当職員が災害対応に専念できる体制を構築することが考えられる.

  • 宍野 亜唯, 岡村 宰, 岩嵜 優波, 小林 新拓, 鈴木 修斗
    2026 年21 巻1 号 p. 200-212
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/01
    ジャーナル フリー

    本稿では,神奈川県松田町寄地区における寄ロウバイまつりを事例として,行政,地域住民,祭りの出店者への聞き取り調査や広報冊子の分析から,農山村における地域祭りの創出とその発展要因を明らかにした.寄地区では,荒廃地対策と地域振興を目的としたロウバイの植栽を契機として,2012年からロウバイまつりが開催されている.来場者は年々増加傾向にある.その発展要因としては,広報効果と主催者の対応の2点が挙げられる.広報効果としては,ロウバイのディスプレイ展示,ポスターやチラシの配布,マスメディアによる取材,主催者の対応としては,出店数の増加やイベント内容の充実が重要であった.

  • 中山 玲
    2026 年21 巻1 号 p. 213-232
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/01
    ジャーナル フリー

    本稿は,京都府宇治市において,伝統的な手摘み碾茶(抹茶の原料)の生産がどのように維持・継続されているのか,その存続戦略を明らかにした.宇治市内における茶の栽培は,都市化や茶園管理の担い手の高齢化と減少などにより,縮小傾向にある.宇治市では,棚と寒冷紗を用いた覆い下栽培や手摘みによる茶葉の摘採によって,高級な碾茶の生産が伝統的に行われてきた.しかし,摘み子の高齢化や減少により,手摘みによる摘採の継続が難しくなってきている.その結果,手摘みの代わりに,機械刈りによる茶葉の摘採によって碾茶生産を継続している農家が増えてきている.行政や生産組合は,連携して摘み子確保のために様々な取り組みを行っている.

解説記事
  • 王 子豪, 夏目 宗幸
    2026 年21 巻1 号 p. 233-244
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,中国における都市化の過程を詳細に分析するため,2000年・2010年・2020年の地級行政区境界データを構築したものである.地理学において境界は,空間的広がりを持つ地域を区切る重要な要素であり,行政区画は国家の歴史や制度的変遷を反映する可変的な構造である.中国では,改革開放政策以降の経済成長と都市化の進展に伴い,行政区画の再編が頻繁に行われてきたため,過去の境界データの整備は都市化の分析に不可欠である.しかし,既存の公的データでは地級行政区の時系列的変遷を十分に追跡できない.そこで本研究では,国家地理情報センター(NGCC)の県級データ,民政部の行政区画変更履歴,各年代の地図資料を用いて,境界データを作成した.その結果,特に2014年以降における県級行政区の合併が顕著となり,都市・農村一体化政策の影響が示唆された.作成した境界データは,今後の中国における都市化,人口移動,経済発展の分析に有用な基礎資料となる.

調査報告
解説記事
  • 小野 有五, 斉藤 海三郎
    2026 年21 巻1 号 p. 260-285
    発行日: 2026年
    公開日: 2026/07/01
    ジャーナル フリー

    国の原子力規制委員会は,独立した意思決定機関として原子力発電所の安全対策に関わる審査を行い,2013年の北海道電力泊発電所3号炉の新規制基準適合性審査の申請に対し,2025年7月に「合格」を表明している.本論文では,その12年間にわたる審査について,インターネットを通じて入手可能なすべての資料を調査し,その内容を自然地理学的な手法により分析,評価した.第四紀の環境変化や年代論において地形発達史の観点が不足しているため,とくに活断層や火山に関して,事実認定と解釈が適切になされていないと結論される.その原因は規制委に自然地理学分野の専門家等が欠けていること,また専門性の不足を外部有識者の意見で補う体制もないことにある.結果的に現状の審査結果には科学的に不適切な部分がある.また長期間の審査過程で,政治的な圧力が働いた可能性も排除できないことから,審査の中立性,科学性,公共性の確保の重要性を指摘せざるをえない.

日本地理学会百周年記念事業実行委員会事業
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