学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
研究報告
化学療法中のがん患者を対象とした小容量・高たんぱく質・EPA含有栄養補助食品の官能評価
吉田 和馬高橋 加奈白井 由美子守田 俊介岩本 洋田中 光司宮地 一裕
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2022 年 4 巻 4-5 号 p. 195-200

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Abstract

【目的】化学療法中のがん患者を対象に,小容量・高たんぱく質・エイコサペンタエン酸含有栄養補助食品『小さなEプリン』(スイートポテト味,紅茶味)の官能評価を実施した.また,非がん患者の評価と比較し,がん患者に特に適した食品かを調べた.【対象および方法】化学療法中のがん患者50名および非がん患者74名を対象に「おいしさ」「風味属性」「食感」「容量」「継続性」に関する官能評価を実施した.【結果】スイートポテト味が好評で,76%の患者が「おいしい」と評価した.容量を「ちょうどよい」と評価した患者は約65%,「栄養補給のために毎日続けられると思う」と評価した患者は62%だった.また,がん患者は,非がん患者よりも「風味属性」「食感」「継続性」の一部の項目で有意に評価が高かった.【結論】『小さなEプリン』は,化学療法中のがん患者に適した栄養補助食品と考えられた.

目的

食欲不振をきたしやすいがん患者では,栄養補助食品のアドヒアランスの低さが課題となる1).栄養補助食品の継続にはおいしさに加え,食感,製品の容量などが影響する2,3).また,炎症を伴うがん悪液質には,抗炎症効果を有するエイコサペンタエン酸(eicosapentaenoic acid;以下,EPAと略)の摂取が有用といわれている4)が,EPAを配合するために栄養補助食品に魚油を添加すると風味に影響する.これらの要素ががん患者の嗜好性に合った,継続しやすい栄養補助食品の開発が望まれる.

がん患者は化学療法の副作用等により,非がん患者と嗜好性が異なることが報告されている5,6).したがって,食品の官能評価においてがん患者が非がん患者よりも高く評価する風味や特性は,がん患者の嗜好性に合ったものであり,そのような風味や特性を持つ栄養補助食品は,がん患者に適していると考えられる.

本調査では,化学療法中のがん患者を対象に,小容量・高たんぱく質・EPA含有の栄養補助食品『小さなEプリン』の官能評価を実施した.また,非がん患者にも同様の調査を実施し,がん患者の結果と比較して,がん患者に適した食品かを検討した.

対象および方法

1. がん患者調査

2020年4月~6月に伊賀市立上野総合市民病院に来院した化学療法中のがん患者50名を対象とした.来院時に調査の内容を説明し,書面で同意を得た後,『小さなEプリン』(クリニコ)の2つの風味(スイートポテト味,紅茶味)について官能評価を実施した(表1).評価項目はおいしさ,風味属性(甘味の強さ,香りの強さ,魚臭の有無,毎日続けやすい味か),食感(べたつき,舌触りのなめらかさ,飲みこみやすさ,硬さ),製品の容量(半分程度食べた量の印象),継続性(栄養補給のために毎日続けられると思うか)とした.おいしさの項目は7段階,それ以外の項目は5段階で,アンケート用紙に自己記入することで評価した.また,味覚・嗅覚変化の自覚の有無も調査した.異なる2種類の風味を半量ずつ摂取してもらい,摂取の順番が均等になるよう,最初にスイートポテト味を摂取する者,同紅茶味を摂取する者25名ずつとした.各風味の摂取前には水を飲用し,口をゆすいでもらった.なお,調査食品は一般食品であり,たんぱく質やEPAの配合量は各種基準7,8)に照らしても日常の食生活の範囲を超えるものではないが,倫理面,安全面への配慮から慢性腎疾患などたんぱく質摂取制限が必要な患者は除外し,管理栄養士の監督下で調査を行った.

表1. 調査食品の標準組成
『小さなEプリン』標準組成表
1個(54 g当たり)
エネルギー(kcal) 100
たんぱく質(g) 10.0
脂質(g) 4.0
炭水化物(g) 6.0
ナトリウム(mg) 97.0
 食塩相当量(g) 0.25
水分(g) 33.2
EPA(mg) 500
DHA(mg) 330
カルニチン(mg) 50.0

2. 非がん患者調査

2020年7月~8月に,性別,年齢層の構成比をがん患者と合わせたモニター74名を対象とした.森永乳業株式会社研究情報センターにて募集した女性モニターに対し,書面で同意を得た後,同センター内にてがん患者と同様の官能評価を実施した(味覚変化・嗅覚変化の項目は除く).化学療法中のがん患者が含まれないよう,医療機関を受診して常用している薬剤があるかを書面で確認した.男性モニターは女性モニターの配偶者を対象とし,女性モニターから調査内容を説明してもらったうえで書面にて同意を得た後,自宅にて同様の調査を実施した.同意書および調査用紙は郵送で回収した.調査データはがん患者,非がん患者ともに匿名化し,回答者を特定できないようにした.調査食品は室温で提供した.

3. 統計解析

がん患者と非がん患者の比較では,おいしさの項目は7点,それ以外の項目は5点満点で点数化し,対応のないt検定で比較した.統計解析ソフトはSPSS® Ver. 23.0(IBM)を用いた.なお,味覚・嗅覚変化自覚者は人数が少なかったため,非自覚者との比較は行わなかった.

結果

1. 対象者背景

がん患者は平均年齢65.2歳,男性23名,女性27名だった.非がん患者は平均年齢63.5歳,男性32名,女性42名だった(表2A).がん種は大腸がんが,レジメンはS-1療法が多かった(表2B).味覚変化自覚者は15名,嗅覚変化自覚者は7名だった.薬剤を常用している非がん患者は33名だった.

表2A 対象者背景
がん患者 40代 50代 60代 70代 80代
男性 0名 3名 5名 12名 3名 23名
女性 7名 5名 8名 6名 1名 27名
合計 7名 8名 13名 18名 4名 50名
非がん患者 40代 50代 60代 70代 80代
男性 0名 6名 12名 13名 1名 32名
女性 8名 10名 13名 10名 1名 42名
合計 8名 16名 25名 23名 2名 74名

表2B がん種,レジメン
がん種 大腸21名,乳13名,食道・胃・十二指腸7名,胆膵6名,肺2名,原発不明1名
化学療法のレジメン ・S-1療法6名[+ベバシズマブ(BEV)3名,+ゲムシタビン(GEM)1名,+トラスツズマブ(HER)1名]
・FOLFIRI療法5名[+ラムシルマブ(RAM)2名,+BEV 1名,アフリベルセプトベータ(AFL)1名]
・SOX療法5名(+HER 1名)
・Weeklyパクリタキセル(PTX)療法4名
・Capox + BEV療法3名
・mFOLFOX療法3名(+パニツムマブ(PANI)2名,+BEV 1名)
・mFOLFOX6療法3名(+BEV 2名,+PANI 1名)
・sLV5FU2療法3名(+BEV 2名,+PANI 1名)
・BEV + PTX療法2名
・Cape + BEV療法2名
・HER療法2名
・ニボルマブ(NIV)療法2名
・mFOLFIRINOX療法2名
・その他の療法8名

2. がん患者調査

「おいしい」(非常においしい,おいしい,ややおいしいの合計)と評価した割合は,スイートポテト味で76%,紅茶味で46%と,スイートポテト味が特に好評だった(図1).風味属性に関して,「甘味が強い」(強い,やや強いの合計),「毎日続けやすい味だと思う」(そう思う,ややそう思うの合計)と評価した割合は,スイートポテト味が紅茶味より高かった(表3).「魚臭がある」と回答した割合は,紅茶味で16%,スイートポテト味で2%だった.食感の評価では,スイートポテト味と紅茶味に大きな差は見られなかった(表4).容量に関して,どちらの風味も約65%のがん患者が「ちょうどよい量」と評価した(図2).継続性に関して,どちらの風味も62%のがん患者が「栄養補給のために毎日続けられると思う」(そう思う,ややそう思うの合計)と評価した(図3).

図1.がん患者おいしさの評価
表3. がん患者風味属性の評価
「甘味の強さはいかがですか」
強い やや強い どちらともいえない やや弱い 弱い
スイートポテト味 10% 26% 56% 8% 0%
紅茶味 0% 26% 54% 20% 0%
「香りの強さはいかがですか」
強い やや強い どちらともいえない やや弱い 弱い
スイートポテト味 4% 30% 60% 6% 0%
紅茶味 2% 32% 48% 12% 6%
「毎日続けやすい味だと思いますか」
そう思う ややそう思う どちらともいえない あまりそう思わない そう思わない
スイートポテト味 20% 38% 26% 14% 2%
紅茶味 14% 28% 30% 20% 8%
「魚臭はありますか」※紅茶味で1名未回答
ある ない わからない
スイートポテト味 2% 78% 20%
紅茶味 16% 65% 19%
表4. がん患者食感の評価
「舌触りのなめらかさはいかがですか」
なめらか ややなめらか どちらともいえない あまりなめらかでない なめらかでない
スイートポテト味 20% 34% 18% 24% 4%
紅茶味 26% 34% 16% 20% 4%
「食感のべたつきはいかがですか」※紅茶味で1名未回答
ある ややある どちらともいえない あまりない ない
スイートポテト味 12% 40% 8% 36% 4%
紅茶味 10% 31% 18% 35% 6%
「飲み込みやすさはいかがですか」
飲み込みやすい やや飲み込みやすい どちらともいえない やや飲み込みにくい 飲み込みにくい
スイートポテト味 30% 40% 16% 12% 2%
紅茶味 30% 40% 18% 10% 2%
「硬さはいかがですか」
硬い やや硬い どちらともいえない やややわらかい やわらかい
スイートポテト味 4% 36% 26% 28% 6%
紅茶味 4% 32% 26% 28% 10%
図2.がん患者容量の評価
図3.がん患者継続性の評価

3. がん患者と非がん患者の比較

がん患者と非がん患者のおいしさの評価に有意差は認められなかった(図1,図4).また,がん患者は非がん患者よりも,どちらの風味も「毎日続けやすい味だと思う」「やわらかい」「べたつきがない」「栄養補給のために毎日続けられると思う」と評価していた(表5).一方,がん患者で非がん患者よりも有意に評価が低い項目はなかった.

図4.非がん患者おいしさの評価
表5. がん患者と非がん患者の比較
スイートポテト味 紅茶味
風味属性(5点満点) 非がん患者 がん患者 非がん患者 がん患者
 甘味の強さ(+5強い~+1弱い) 3.07 ± 0.87 3.38 ± 0.78* 2.89 ± 0.92 3.06 ± 0.68
 香りの強さ(+5強い~+1弱い) 2.96 ± 0.90 3.32 ± 0.65* 3.08 ± 1.03 3.12 ± 0.87
 毎日続けやすい味だと思う(+5そう思う~+1そう思わない) 2.91 ± 1.21 3.60 ± 1.03* 2.64 ± 1.21 3.20 ± 1.16*
食感(5点満点)
 食感のべたつき(+5ある~+1ない) 3.81 ± 1.06 3.20 ± 1.18* 3.92 ± 0.98 3.04 ± 1.15*
 硬さ(+5硬い~+1やわらかい) 3.50 ± 0.78 3.04 ± 1.03* 3.53 ± 0.78 2.92 ± 1.08*
 舌触りの滑らかさ(+5なめらか~+1なめらかでない) 3.31 ± 1.32 3.42 ± 1.18 3.09 ± 1.29 3.58 ± 1.20*
 飲み込みやすさ(+5飲み込みやすい~+1飲み込みにくい) 3.49 ± 1.22 3.84 ± 1.06 3.43 ± 1.18 3.86 ± 1.03*
継続性(5点満点)
 栄養補給のために毎日続けられると思う (+5そう思う~+1そう思わない) 2.99 ± 1.26 3.72 ± 1.18* 2.80 ± 1.30 3.64 ± 1.16*

平均点 ± 標準偏差,* p < 0.05(対応のないt検定)

考察

本調査は化学療法中のがん患者を対象に栄養補助食品の官能評価を実施した数少ない検討であり,がん患者と非がん患者で同一の栄養補助食品に対する評価を比較した恐らく国内で初めての報告である.

本調査食品のおいしさに関して,スイートポテト味が特に好評だった.化学療法中のがん患者は,治療の経過に伴って甘味嗜好が増すと報告されており9),調査食品のスイートポテト味は紅茶味よりも「甘みが強い」と評価されたことから,甘味嗜好が増しているがん患者から高評価を得たと考えられる.また,スイートポテト味は魚臭を感じにくかったことも高評価の理由と考えられる.EPAの供給源である魚油の添加は,その臭気がしばしば摂取アドヒアランスを低下させる原因になることから,魚臭のマスキング効果のある風味特性は重要である.

食欲不振を呈したがん患者に用いる栄養補助食品は少量であることが望ましい.本調査では約65%のがん患者が「ちょうどよい量」と高評価を示した.参加者の大半が食後1時間以上経過して調査に参加したため,間食としての容量が評価されたと考えられる.

栄養補助食品は継続摂取が重要である.本調査では62%のがん患者が「栄養補給のために毎日続けられると思う」と回答した.甘みのある食品は個人の嗜好により継続に差が出ることもあるが,本食品のおいしさ,容量に対する高評価が,継続性の高評価に繋がった要因と考えられる.

がん患者は非がん患者よりも,風味,食感,継続性に対する評価が高かった.がん患者は非がん患者よりも栄養補助食品の使用経験が多い可能性があり,がん患者は調査食品を使用経験のある栄養補助食品と比較したのに対し,非がん患者は通常の食品と比較したことが,評価の違いにつながったと考えられる.本調査では栄養補助食品の使用経験を確認していないが,がん患者のサプリメント使用経験率は全国の平均使用率よりも高いことが報告されている10,11).また,食欲不振を呈したがん患者は,栄養補助食品を薬と思って摂取することもあり,栄養補助食品に対する意識の違いも評価に影響したと考えられる.

本調査では単回摂取の官能評価によって継続性を評価したが,実際の継続性を確認するためには,臨床現場でのアドヒアランス評価が必要と考えられる.また,非がん患者の中には降圧剤等を常用している者も含まれ,薬剤性の味覚異常を有していた可能性もある.より正確な比較を行うためには,薬剤を常用していない健常者との比較が必要である.

結論

本調査食品は,化学療法中のがん患者の嗜好性に合っていると考えられる.また,本調査食品は非がん患者以上にがん患者から高い評価を得ており,がん患者に特に適した食品であると考えられる.

 

吉田和馬,高橋加奈,守田俊介,岩本洋,宮地一裕は森永乳業株式会社の社員である.本試験の実施にかかる費用はすべて森永乳業が負担した.白井由美子,田中光司に利益相反はない.

引用文献
 
© 2022 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
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