学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
症例報告
タムガイド®を使用し経鼻栄養チューブを挿入したCOVID-19罹患入院隔離患者の2例
沖田 幸祐
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2023 年 5 巻 3-4 号 p. 113-117

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Abstract

タムガイド®はタムガイド®ファイバーとタムガイド®光源装置からなるハンディタイプの経鼻胃管先端位置確認システムである.先端にLED光のうち生体透過性の高い赤色光を採用しており,経鼻栄養チューブに挿入し使用することでチューブ先端の胃内挿入を体表から直接確認することができる.今回,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患直後の隔離患者2名に対し,ベッドサイドで経鼻栄養チューブを挿入した.この際にタムガイド®を使用し1例では安全に胃内到達の確認ができ,遅滞なく薬剤の注入を開始することができた.タムガイド®はCOVID-19罹患患者のような接触を最低限に減らしたい患者の経鼻栄養チューブ挿入時に有効である可能性が示唆された.

はじめに

日常臨床では,消化管内容物を排液目的に挿入する経鼻胃管(以下,胃管と略)や経管栄養(Enteral nutrition;以下,ENと略)目的に挿入する経鼻栄養チューブ(以下,栄養チューブと略)を挿入する機会が多い.胃管は胃液の排液や除圧を目的としている.一方で栄養チューブは,入院後に消化管の使用が可能になった状況で栄養剤や薬剤を使用する目的で利用する1).また栄養チューブは,新型コネクタISO80369-32)の登場により既存のカテーテルチップ型シリンジが接続できなくなり,ENを行う際には胃管からの交換が必須になった.胃管・栄養チューブともレントゲン検査(X-ray photography;以下,X-Pと略)で先端が胃内に留置できたことを確認することが必要である3)

タムガイド®は,タムガイド®光源装置とタムガイド®ファイバーから構成されるハンディタイプの経鼻胃管先端位置確認システムである4).光源装置にはLED光のうち,生体透過性の高い赤色光(Biological transparent illumination;以下,BT光と略)を採用している5).本機器を使用し,胃管や栄養チューブの挿入後に体表からBT光を確認できれば,通常必須となるレントゲン撮影が不要となる.これにより患者の被曝量を抑えることができる.また,即座に先端位置が確認できれば速やかに薬剤や栄養投与を開始することが可能となる.光源装置とファイバーは1回のみ接続することができる.ファイバーはディスポーザブルとなっており,一度ファイバーを外すと再利用できない構造となっている.これは患者間の共有を防ぎ感染対策にも繋がる.

2020年初頭から新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)が国内で流行し,各病院で様々な対策が練られてきた6).当院でもCOVID-19患者は当初,感染症予防法で指定された隔離病棟で治療を行ってきたが,罹患者が多くなるにつれ一般病棟でもゾーニングしながら治療に当たるように変化した.医師,看護師を中心とした病院スタッフは個人用防護具(Personal protective equipment;以下,PPEと略)を装着し患者に接し,感染予防を徹底している.

今回タムガイド®を使用し栄養チューブを挿入した症例を2例経験したためここに報告する.2例とも患者家族に「症例報告を含む医学論文ならびに学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」に沿って説明し口頭で同意を得た.なおタムガイド®については臨床試用期間でまだ市販されておらず,大塚製薬工場からの供与であり,使用に際しては本人の同意および施設認可を得ている.

症例1

60歳代.男性.170 cm.47 kg.Body mass index(以下,BMIと略) = 16.3 kg/m2.脳塞栓および脳出血とそれに伴う四肢麻痺および痙性麻痺で寝たきり状態,X病院療養病床に長期入院中であった.当院入院の前年5月に気管切開施行,経鼻カヌラで1 L/分の酸素投与を施行中であった.経口摂取はできない状態であったことから中心静脈栄養がここ数年間継続施行され,内服薬のみ経鼻栄養チューブから投与されていた.栄養チューブの最終交換は入院23日前であった.

当院転院2日前に同室者がCOVID-19と診断された.同日のCOVID-19抗原検査では陰性であったが,翌日(当院入院前日)に再度同抗原検査を行い陽性確認し,COVID-19と診断した.治療としてモルヌプラビルの経管投与が開始されたが,38°C台の発熱が続き,酸素投与量も平常時より増量が必要であったため当院に入院要請があった.要請を受け入れ,当院感染症病床に搬送,緊急入院とした.

入院同日よりモルヌプラビルの投与を中止し,レムデシビルの点滴投与に変更開始した.排痰量は入院時より多くカルボシステイン散を追加し経管投与としたがそれ以外の内服,中心静脈栄養は継続した.入院時にX-Pで胃内に栄養チューブが留置されていることを確認した(図1A).当院院内マニュアルでは経管栄養チューブは14日間を目安に交換を行っていることから,入院翌日にチューブ交換が必要と判断し,ベッドサイドで当院採用の8フレンチ KangarooTM ニューエンテラル フィーディングチューブ(カーディナルヘルス株式会社)に交換することとした.

図1.症例1患者の胸部レントゲン写真

A)入院当日の画像:矢印部が経鼻栄養チューブの先端

B)交換翌日の画像:矢印部が経鼻栄養チューブの先端

前医で挿入された栄養チューブを抜去し,前述の栄養チューブの付属スタイレットをタムガイド®ファイバーに交換し,タムガイド®光源装置に接続した.タムガイド®光源装置の電源を入れ,先端が赤色に点滅することを確認後,栄養チューブを挿入した.室内は消灯しカーテンで遮光,栄養チューブが胃内に挿入され先端位置が赤く光ることを介助者の看護師と一緒に目視で確認し,病院携帯電話の付属カメラで撮影した(図2A).院内ルールに則り画像を電子カルテ内に取り込んだ(図2B).体表から気泡音を確認し,バイタルサインの変動がないことも確認し,経鼻栄養チューブの胃内留置ができたものと判断し薬剤注入を再開した.

図2.タムガイド®の透過光を撮影した画像

A)病院内携帯電話で撮影した画像

B)電子カルテ内に取り込んだA)の画像

翌日,COVID-19の趨勢評価目的でX-Pを行い,胃内に栄養チューブの先端があることも改めて確認した(図1B).入院第4翌日の38°C台の発熱を最後に解熱し再燃なく経過し,入院11日目に元のX病院に転院とした.

症例2

90歳代.女性.160 cm.42 kg.BMI 16.4 kg/m2.認知症などが既往にあり,Y施設で長期療養中であった.施設では全粥の経口摂取ができていた.入院10日前にCOVID-19罹患が判明した.罹患後に食事量,飲水量は低下していたが,入院当日の昼から食事摂取不良,午後からSpO2 70%台まで低下したため,加療目的で当院紹介,感染症病床に搬送,緊急入院とした.

搬送時SpO2 50%(リザーバーマスク15 L/分),血液ガス検査でPaO2 31.2 mmHgと低値でJapan coma scale(以下,JCSと略)300と状態は厳しく肺炎像を認めた(図3A).酸素投与の継続と細胞外液の点滴,レムデシビル・デキサメサゾンの投与を開始した.治療に伴い酸素化は改善し,第4病日にSpO2 98%(マスク5 L/分)まで改善したが,腸蠕動音は良好であったが意思疎通困難で嚥下能低下もあると判断した.経管栄養を開始する方針とし,症例1と同様の栄養チューブを挿入した.室内を暗くし栄養チューブの挿入を行ったが,腹部で赤色光を確認することはできなかった.鼻挿入部から55 cmまで挿入したところでタムガイド®を抜き,胃内バブル音を確認した.速やかにX-P撮影し胃内に先端留置を確認した(図3B).同日より内服の注入再開,翌日より経管栄養を開始した.入院9日目に酸素投与を終了し再燃なく経過し,隔離解除後,入院21日目に当院一般病棟に転出し嚥下訓練を開始した.経口摂取可能となり入院24日目に栄養チューブ抜去し食事再開,入院30日目に元のY施設に転院した.

図3.症例2患者の胸部レントゲン写真

A)入院当日の画像

B)第4病日(経鼻栄養チューブ交換当日)の画像:矢印部が経鼻栄養チューブの先端

考察

タムガイド®は準備や光源装置の取り扱いが容易で,ベッドサイドで簡易的に使用でき,即時的に栄養チューブの先端も確認することができた.このBT光は柔らかい組織は透過するが,骨や軟骨などの硬い組織は透過させないことが知られている5).また,Hiranoらの報告4)によると胃管を挿入した102名のうちBT光での胃内挿入の感度は77%,特異度は100%,陽性的中率100%,陰性的中率30%であった.

当院では院内で撮影した画像の取り込みは患者の認識バーコードを読み込むことのできる専用のデジタルカメラで撮影し,直接電子カルテ内に取り込む方式をとっている.当院の隔離病棟ではこのデジタルカメラが用意できず院内で協議した結果,病棟内で使用する院内専用携帯電話付属カメラで撮影し,限定スタッフにメール機能で画像を転送し,複数名で確認し電子カルテに取り込む方式を採用した.写真を共有することで,胃内にチューブ留置ができたことを複数のスタッフで確認することで通常の栄養チューブ挿入後のX-Pと同等の安全性が担保できた.

COVID-19の感染力は強く,患者から医療従事者への感染のみならず医療従事者から患者へ,または医療従事者間の感染例もある.COVID-19罹患患者に対し,隔離された部屋で医療従事者はPPE装着の上対応にあたることが多い.使用した器具も消毒が必要である.タムガイド®ファイバーはディスポーザブル製品であり,光源装置も全体をビニール袋などで覆ったりあるいは容易に清拭したりすることができるため滅菌消毒は不要である.また,胃管挿入・栄養チューブ挿入はエアロゾル産生手技であり,N95マスクの着用が推奨されている6).本症例では,隔離された部屋でかつエアロゾル産生する状況下で栄養チューブを挿入した.さらに先端位置確認の際にはX-Pが必要であり,放射線技師やポータブルX線装置の感染暴露がある.タムガイド®の挿入に際しては通常の栄養チューブ挿入と時間的には変わりなかったが,BT光が確認できれば即座の使用も可能である.コスト面では,ディスポーザブルのファイバーを用意しなければならないが,常駐スタッフ以外は隔離病棟に入る必要性がなくPPEの使用も減らすことができる,光源装置はビニール袋で覆い,光源装置接続部を清拭することで感染対策も問題なく使用できた.これらを踏まえ感染対策,時間短縮,さらにはコスト面などで隔離患者に対しタムガイド®を使用することは大変有用であった.

一方で,症例2ではBT光を体表から確認できなかった.鼻挿入部から55 cmの位置であれば,経験上,胃内に確実に到達しており穹窿部内に先端があると判断したためファイバーを抜去した.ファイバーを抜く際も抵抗はなかった.X-Pで確認すると栄養チューブの先端は穹窿部にあった.この位置はBT光の届きにくい肋間であり,体表から肉眼的に確認することは困難であった.Hiranoらの報告によると4)タムガイド®での経鼻胃管挿入102例のうち,30例がBT光を上腹部で確認できなかったが,そのうち21例はX-Pで胃内に留置できていることがわかった.患者の体位変換や挿入時にギャッジアップをしたり,あるいは穹窿部での挿入操作を繰り返したりすることで,先端が胃体下部や前庭部などに到達できる可能性がある.また,胃内容物がBT光の伝達を妨げる可能性も報告されている4)ことから胃内容物の吸引も有効であると考える.安全性を向上させるには更なる研鑽が必要である.

COVID-19下でも経静脈栄養だけでなく,栄養補助食品の利用やENの使用は推奨されている7).消化管は免疫を担う臓器であり,COVID-19感染に際しても経口摂取が不十分と判断された場合のfirst choiceはENである7).特に症例2においては早期にENを開始することが有効であったと考える.本症例ではENを行ったことで意思疎通や発語も改善し,転院前には経口摂取も可能となったことからCOVID-19症例でも早期のENが有効であったと判断した.

2023年5月よりCOVID-19は当初の2類相当から5類へと移行する.5類移行後も一定の感染対策は必要である.今後も継続してCOVID-19罹患者に対してはタムガイド®を積極的に使用していきたい.また将来,隔離の必要な新興感染症が到来することは必至である.その際に今回の経験を活かし,特にENの必要な患者においてはタムガイド®を積極的に使用し,最低限の感染暴露で最大限の効果が得られる体制を取り続けたいと考える.

結語

COVID-19患者に対しタムガイド®を使用することで栄養チューブを挿入し得た1症例を経験した.BT光は目視でも十分確認でき,電子カルテ内で画像共有できることは医療安全面からも有用であることが示唆された.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
© 2023 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
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