学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
学会参加記
ASPEN2022米国静脈経腸栄養学会 発表報告記
岸 宗佑
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2023 年 5 巻 3-4 号 p. 131-132

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JSPENフェローシップ賞受賞の御連絡

2年前のある日,まさに,当院の血管造影室でCVポート埋設術をしている時であった.突然,私の師匠である高名な先生から病院の総合受付にお電話があった.処置後にすぐにかけ直すと,開口一番に「JSPENフェローシップ賞,受賞おめでとう!」と,受賞の御連絡を頂いた.師匠の先生は御自身が受賞されたかのように嬉しさを表現されており,電話の向こう側からもその御様子が伝わるほどであった.私は非常に驚きながらも,これ以上なく嬉しかったことが,もう昔のことのように思い出される.その後,コロナ禍となり,今回のASPEN2022でのオンライン発表まで2年の月日が経過した.

大学勤務時代は,海外学会で発表することも経験したが,一般病院の勤務医となると主治医として抱える患者も多く,病院から離れ,海外発表にいくことは簡単にはできない.田舎の勤務医には国内学会での発表が限界であった.

一般病院の勤務医でも,時には海外発表を行うべきだと考えていた私にとってJSPENのフェローシップ賞の存在を知ったのは幸運であった.理由は簡単でJSPENフェローシップ賞を受賞するとASPENやESPENでの海外学会の発表が義務とされているためであった.もしも受賞できれば,仲間の医師たちには数日は御迷惑をおかけするが,院内のスタッフにも,診療している患者様にも顔向けできる形で,胸を張って海外学会へ行けると考えていた.

一般病院の勤務医が堂々と海外学会へ発表に行くには,この賞の受賞しかない!という気持ちでアプライさせて頂いた.その後,半年以上,音沙汰なしであったので,私も発表したことさえ忘れてしまっていたが,突然の受賞連絡を処置直後の血管造影室でお聞きしたことが,はるか昔のように懐かしく感じる.

なぜ昔かというのも,JSPEN2020のフェローシップ賞を受賞させて頂いた後,COVID-19の社会情勢となり,念願であった海外発表は夢のまた夢となってしまった.副賞である海外発表の期限は2年以内であり,2022年3月のASPENが最終リミットであった.待ちに待ったが,COVID-19は収まることなく,渡米することは叶わなかった.札幌からE-posterという形で発表し,ASPENに参加したがJSPENフェローシップ受賞とASPEN参加報告記としては,初のオンライン発表の報告記となるため,新しい時代の幕開けを祈念して報告する.

日々の診療では,COVID-19感染者への治療では難渋することも多く,悩ましい感染症であるが,COVID-19流行により社会構造の変化が加速度的に進んだ2年間であったと感じている.オンライン発表やオンライン会議が一気に世界中で浸透し,学会発表においてもオンラインとのハイブリット開催が当たり前になった.日々忙しい医師にとってハイブリット開催は手軽に参加でき,よい面もあるが,研修医や若手にとっては,悲しい時代とも感じている.

私は,古い人間なので学会発表の醍醐味はやはり壇上での口頭発表だと感じている.若手医師にとっては,学会の壇上で緊張しながら発表し,多くの質問者から厳しい質問を受け,汗流しながら学問の厳しさを経験する機会は貴重である.

「流汗悟道」汗を流した分だけ自分の道は開ける.私が大切にしている言葉である.若い先生へ向けて,COVID-19の環境に負けずに高い志を持ち続けてほしいと思い,送る言葉である.

VADの重要性

CVカテーテル,PICC,CVポートなどのVAD(vascular access device:血管内留置デバイス)は治療薬剤のルートとしても,静脈栄養の目的としても,非常に重要な医療器具である.高度に細分化された近代の医療において,あらゆる診療科で点滴は必須の医療方法であり,患者様にとって密接に治療に寄り沿う存在である.しかし,末梢ルートだけでなく,CVCやPICC,CVポートなど中心静脈を含めたVADの種類により投薬できる点滴製材に違いがあることや,さらに言えば「点滴の中身」については一般の方々は知らないで治療を受けられていることが多い.私は,これまで「医療を文化にする」という活動も行なってきているが,VADという処置,点滴という医療行為は,あらゆる診療科により行われるprimitiveな方法であるからこそ,質と安全性にこだわり,患者様に納得した医療を受けて頂けるキッカケになる素晴らしいものであると考えている.治療において密接に関わる部分であり,医療者としても患者様サイドとしても重要なものである.

今回,ASPEN2022では,内頸静脈穿刺における処置の工夫と解剖学的な特徴についての検討を報告した.特に,穿刺ラインに重要な組織が介入してしまう症例では生理食塩水を局所注射することで,新たな穿刺経路を探索することができ,CVポートなどの皮下トンネリングが必要な処置ではその皮下トンネリング処置も安全に行うことができる方法(ATLAS法)を考案し,その有用性について報告した.

ATLAS法を用いることで,内頸静脈前面に走る肩甲舌骨筋は,必ず避けて穿刺することが可能となり,嚥下に関連する肩甲舌骨筋を損傷しない処置が広まることを切に願っている.研修医の先生など,肩甲舌骨筋の存在も知らずに,内頸静脈穿刺をし,肩甲舌骨筋を貫通してCVCを留置されている症例では喉の違和感を訴えられている患者様も経験されており,気胸や動脈誤穿刺だけでなく,解剖学的にも,より安全性の高い処置を心がける必要がある.

中心静脈穿刺は,基本的な処置であるが,突き詰めて考えていくと奥が深く,しっかりとした知識を持って行うべき処置である.

これからの若手医師へ

筆者は,お腹も出て,皮膚もたるみ,年齢相応な見た目となってしまったが,まだまだ永遠の若手と思い,日々ワクワク・ドキドキ,新鮮な気持ちで患者様への診療にあたっている.中心静脈穿刺はCVC,CVポート留置のみならず,バスキャスやペースメーカー手術等,あらゆる処置へ応用される技術である.CVCのfirst choiceであるPICCでは,長いガイドワイヤーを用いるため,消化器内科のERCPなどガイドワイヤーを用いる高度な内視鏡手術にも通じる処置過程があり,決して軽んじてはならない.あらゆるところに学びの場はある.VAD処置は,あらゆる医療行為の基礎となる処置であり,基本を大切にすることを忘れずに努めたい.

ついつい,医師としての経験が積み重なると,難しい処置や高難度の複雑な処置ができるようになりたいと,若手の時こそ,誰しも考えが先走る時がある.しかし,基本的処置と考えられるVAD処置は医師として身につけるべき処置の基本が全て凝縮されている.局所麻酔の打ち方の工夫,エコー評価の正確性,立体的配置の理解,エコー下穿刺で硬さの異なる膜構造を貫く感覚,ガイドワイヤーテクニック,皮膚切開,組織剥離処置,止血,縫合と,「刺す,切る,結ぶ」という基本的テクニックが凝縮している.高度な処置・手術ができるようになっても,基本が最も大切だと日々の診療で実感する.全ての処置,手術,内視鏡処置など,工夫と改善を模索し続けながら,1例1例大切にして診療したい.

最後に,このような貴重な機会を頂きましたJSPENに関わられている多くの先生方,こうした素晴らしい学会を構築して頂きました先生方に深く感謝し,フェローシップ受賞の報告と米国学会へのネット発表という初形式の報告記を新時代の幕開けとして報告する.

 
© 2023 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
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