学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
原著
肥満乳がん患者に対する減量栄養指導の成果に関連する因子の検討
榎田 滋穂片岡 明美伊丹 優貴子藤原 彩中屋 恵梨香松下 亜由子川名 加織斎野 容子井田 智熊谷 厚志
著者情報
キーワード: 体重減少, 栄養指導, 乳がん
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2023 年 5 巻 3-4 号 p. 99-106

詳細
Abstract

【目的】乳がん診断時より肥満度が上昇した患者は乳がん再発および死亡リスクが高いと報告されている.本研究では肥満乳がん患者に対する減量栄養指導の成績を明らかにするため,治療内容,指導回数,頻度と体重減少率の関連を検討した.

【対象および方法】2017年7月から2020年3月に,減量目的に栄養指導を受けた乳がん患者を対象とし,栄養指導前後の体重変化を後方視的に調査した.3%以上の体重減少を認めた症例を「減量達成群」,3%未満を「減量未達成群」として,患者背景,指導回数,頻度,期間との関連を比較検討した.

【結果】220例中,120例(55%)で3%の減量が達成された.減量達成群では指導回数4回以上,介入期間5カ月以上の患者が有意に多かった.多変量解析では指導回数4回以上が減量達成と有意に関連していた.

【結論】栄養指導を4回以上行うことは,3%以上の減量達成につながる可能性が示唆された.

Translated Abstract

Purpose: Weight loss is recommended for overweight or obese patients with breast cancer because obesity is associated with increased risks of breast cancer recurrence and mortality. In this study, relationships among breast cancer treatments, number and frequency of nutritional intervention sessions, and weight loss rates were examined.

Subjects and Methods: A retrospective review of medical records was conducted in obese female patients with breast cancer with body mass index ≥25 kg/m2 who underwent nutritional intervention sessions for weight loss between July 2017 and March 2020. Weight changes before and after the intervention were analyzed. The number, frequency, and duration of nutritional intervention sessions and clinicopathological background factors were compared in patients who did and did not achieve a weight loss target of 3%. Factors associated with weight loss of 3% were further analyzed using logistic regression analysis.

Results: Of the 220 patients in the study, 120 (55%) achieved a weight loss target of 3%. All patients had at least 4 nutritional intervention sessions during an intervention period of longer than 5 months. The rate of nutritional intervention sessions was significantly higher in patients who achieved a weight loss target of 3%. In multivariate analysis, at least 4 nutritional intervention sessions was significantly associated with achievement of a weight loss target of 3%.

Conclusion: This study suggests that providing at least 4 nutritional intervention sessions may lead to successful achievement of weight loss of 3% or more.

目的

乳がん診断時より肥満度が上昇した患者は,乳がん再発および死亡リスクが高いことが報告されている1).一方,肥満度の高い女性の乳がん診断後の体重減少が再発リスクや死亡リスクを減少させるかについては統一した見解は得られていない2).しかし,脂肪からのカロリー摂取を15%以内にすることを目標とする個別栄養指導群と一般的な食事指導にとどめた群を比較した米国の試験で,前者は後者に比較し,5年無再発生存率が有意に高かった3).介入群は1年間で平均値3%の体重減少を認め,体重減少が再発率の低下につながったと考察されている.

乳がんの手術後には化学療法や内分泌療法によるホルモン環境の変化4,5)や長期に渡る治療期間による加齢もあり,体重増加をきたしやすい6)などの理由から,当院では 2017年7月より医師が栄養指導を必要とした患者に対し,適正体重を目標とした減量指導や生活改善目的の栄養指導を行ってきた.

そこで我々は今回,肥満乳がん患者において,栄養指導による体重減少と患者背景(年齢・既往歴・喫煙習慣・運動習慣・栄養指導前body mass index(以下,BMIと略)値・乳がんの治療状況),栄養指導介入回数,介入頻度,介入期間との関連を検討した.

対象および方法

1. 対象

2017年7月から2020年3月の期間に,がん研究会有明病院(以下,当院と略)で医師より減量を指示され,栄養指導を施行した肥満を有する女性原発性乳がん患者症例を後方視的に検討した.再発治療中の患者は除外した.また,栄養指導を1回で終了し体重の推移が不明の症例,カルテ上に体重の記載がなかった症例を除外した.

2. 方法

本研究では,栄養指導開始時と指導ごとの体重を比較し,介入期間中に3%以上の体重減少を認めた患者を減量達成と定義した.減量目標値は,肥満症診療ガイドライン2016に基づき,3~6カ月で3%減量7)を根拠に設定した.

体重は患者の自己申告,当院リンパケア室での測定または,患者が持参した体重記録表から判断した.体重測定と記録の方法は患者ごとに同一にするように指導した.運動習慣は初回栄養指導時に聞き取りを行い,患者の自己申告により評価した.

初回指導時の乳がん治療内容,年齢,初回栄養指導時の体重,BMI,既往歴(糖尿病・脂質異常症),喫煙習慣(喫煙・過去に喫煙・非喫煙),運動習慣の有無,栄養指導介入回数(6回を上限とし,それ以上は6回とした),栄養指導の介入頻度(初回から2回目までの間隔)を減量達成群および減量未達成群の2群間で,Pearsonのχ2検定およびMann-WhitneyのU検定を用いて比較検討した.次に,減量達成に関連する因子の抽出を行うため,減量達成の有無を従属変数,各臨床因子を独立変数とするロジスティック回帰分析を行った.治療法に関しては全身療法(ホルモン療法・化学療法)と局所療法(周術期・経過観察・放射線療法)に分類した.

多変量解析に投入する独立変数は,栄養指導前体重を除き,全ての因子を含めて解析した.このとき,連続変数は名義変数に変換し,統計解析にはJMP® 14.0(SAS Institute Japan)を用い,有意水準はp < 0.05とした.本研究は公益財団法人がん研究会倫理委員会の審査承認(認証番号2021-1087)を受けて行われた.

3. 研究デザイン

単施設,後ろ向き観察研究である.

4. 当院の栄養指導内容

当院の栄養指導時の流れを1)~5)に示す.

1) 乳がんと肥満に関する情報提供

減量のための動機付け支援のため,資料を用いて乳がん再発と肥満の関連について説明する(図1).

図1.乳がんと肥満に関する説明資料

2) 生活習慣・摂取エネルギー量等の聞き取り

運動習慣の有無,喫食時間,食物摂取状況の聞き取りをする.

食物摂取状況は24時間思い出し法を用い,指導担当栄養士がエネルギー量を計算し,患者に説明する.

3) 目標エネルギー量の提示

肥満症ガイドライン20167)に基づき,標準体重 × 25 kcalで目標エネルギー量を算出し,図2を用いて一日の目安量を説明する.

図2.1日の食事目安量を説明する資料

4) 問題点の把握と目標設定

患者ともに減量達成のための長期(例:半年で3 kg減量する等),短期目標(例:30回咀嚼する,体重記録表を記載する等)を設定する.次回栄養指導時に目標達成を評価する.

5) 栄養指導の時間・指導形式

当院の栄養指導の時間は初回30分程度,2回目以降は20分程度である.指導は面談にて行い,本人のみ,または患者の希望に合わせ家族・同居人に実施している.

結果

当該期間に栄養指導を行った289例のうち,栄養指導1回で終了し体重の経過を追えなかった63例,電子カルテに体重の記載の無かった6例を除外し,220例を解析した.対象患者の臨床病理学的背景を表1に示す.減量達成群は120例(55%)であった.

表1.患者背景

項目 全体(n = 220)
初回指導時の乳がん治療状況(ホルモン療法中/周術期/経過観察中/化学療法中/放射線療法中) 104/56/44/10/6
年齢(歳) 56(29–82)
初回指導時体重(kg) 70.4(54.0–105.2)
初回指導時BMI(kg/m2 28.7(25.0–44.2)
既往歴 糖尿病(有/無) 19/201
    脂質異常症(有/無) 25/195
喫煙習慣(喫煙/過去喫煙/非喫煙/不明) 13/54/151/2
運動習慣(有/無/不明) 84/130/6
指導頻度(1カ月以内/2~6カ月/7カ月以上) 136/73/11
指導回数(2回/3回/4回/5回/6回以上) 45/62/47/17/49
総介入期間(カ月) 5(0–30)

数値は患者数または中央値(範囲)を示す.

BMI:body mass index

減量達成群と未達成群の初回栄養指導時と観察期間終了時の体重変化中央値(範囲)はそれぞれ–3.6(–15.2~1.3)kgと–0.4(–2.8~6)kgであった(図3).臨床病理学的背景ごとの初回栄養指導時と観察期間終了時の体重変化を表2に示した.

図3.減量達成群と未達成群の初回栄養指導時と観察期間終了時の体重変化

数値は中央値(最大値~最小値)を示す.

表2.臨床病理学的背景ごとの初回栄養指導時と観察期間終了時の体重変化(kg)

3%以上の減量
あり
n = 120
なし
n = 100
初回指導時の乳がん治療状況(ホルモン療法中/周術期/経過観察中/化学療法中/放射線療法中) 初回栄養指導時 69.2/72.0/69.0/69.0/69.9 70.0/76.4/69.0/68.0/67.6
観察終了時 64.7/67.0/63.9/65.4/67.1 69.5/77.2/68.4/68.3/66.1
変化 –4.5/–5.0/–5.1/–3.6/–2.8 –0.5/0.8/–0.6/0.3/–1.5
既往歴 糖尿病(有/無) 初回栄養指導時 69.0/70.2 75.0/70.4
観察終了時 65.0/65.9 74.5/70.0
変化 –4.0/–4.3 –0.5/–0.4
    脂質異常症(有/無) 初回栄養指導時 69.3/70.4 71.7/70.7
観察終了時 63.7/65.2 70.8/70.0
変化 –5.6/–5.2 –0.9/–0.7
喫煙習慣(喫煙・過去喫煙/非喫煙) 初回栄養指導時 70.7/69.9 73.5/70.0
観察終了時 67.0/65.0 74.8/69.0
変化 –3.7/–4.9 1.3/–1.0
運動習慣(有/無) 初回栄養指導時 69.9/70.2 70.0/71.0
観察終了時 65.1/65.6 69.6/71.7
変化 –4.8/–4.6 –0.4/0.7
指導頻度(1カ月以内/2~6カ月/7カ月以上) 初回栄養指導時 70.4/69.8/68.0 70.9/72.0/73.0
観察終了時 65.2/65.9/65.0 69.7/72.0/76.0
変化 –5.2/–3.9/–3.0 –1.2/0/3.0
指導回数(2回/3回/4回/5回/6回以上) 初回栄養指導時 65.0/69.3/71.3/74.0/69.8 70.5/70.9/73.0/69.6/70.7
観察終了時 60.0/65.2/67.3/69.0/65.0 70.9/69.0/73.4/70.0/70.2
変化 –5.0/–4.1/–4.0/–5.0/–4.8 0.4/–1.9/0.4/0.4/–0.5
総介入期間(カ月)(5カ月未満/5カ月以上) 初回栄養指導時 69.9/70.0 70.9/70.6
観察終了時 65.5/65.1 70.2/70.0
変化 –4.4/–4.9 –0.7/0.6

数値(kg)は中央値を示す.

減量達成の有無と患者背景の比較を表3に示した.減量達成群,減量未達成群の2群間比較では,減量達成群で栄養指導4回以上(p < 0.001),介入期間5カ月以上が有意に多かった(p < 0.001).単変量解析では,栄養指導4回以上(p = 0.001),介入期間5カ月以上(p = 0.007)が減量達成と有意に関連していた.

表3.減量達成の有無と患者背景の比較

3%以上の減量 p
p < 0.05
あり
n = 120
なし
n = 100
初回指導時の乳がん治療状況(ホルモン療法中/周術期/経過観察中/化学療法中/放射線療法中) 57/32/25/4/2 47/24/19/6/4 0.710
年齢(歳) 56.5(29–82) 54(29–78) 0.232
初回指導時体重(kg) 70.0(54.0–103.9) 70.9(54.3–105.2) 0.436
初回指導時BMI(kg/m2 29.1(25.0–43.2) 28.6(25.0–44.2) 0.696
既往歴 糖尿病(有) 10 9 0.861
    脂質異常症(有) 13 12 0.786
喫煙習慣(喫煙/過去喫煙/非喫煙/不明) 7/26/86/1 6/28/65/1 0.738
運動習慣(有/無/不明) 44/72/4 40/58/2 0.759
指導頻度(カ月) 1(0–12) 1(0–12) 0.999
指導回数(回) 4(2–19) 3(2–14) <0.001*
総介入期間(カ月) 6(0–30) 5(0–18) <0.001*

数値は患者数または中央値(範囲)を示す.質的変数はPearsonのχ2検定,量的変数はMann-Whitney検定を用いた.

多変量解析には初回指導時体重を除き全ての因子を含めて解析した.栄養指導4回以上(オッズ比:2.258,95%CI:1.149–4.434,p = 0.018)が有意に3%の減量達成と関連していた(表4).

表4.減量達成に関連する因子

説明変数 カットオフ値 単変量解析 多変量解析
オッズ比 95%信頼区間 p
p < 0.05
オッズ比 95%信頼区間 p
p < 0.05
治療内容 全身療法あり(ホルモン療法・化学療法) 0.917 0.539–1.560 0.749 0.695 0.369–1.310 0.261
年齢(歳) 56歳以上 1.134 0.668–1.927 0.641 1.046 0.583–1.875 0.881
初回指導時体重(kg) 70.4 kg以上 0.911 0.537–1.548 0.731
初回指導時BMI(kg/m2 28.7 kg/m2以上 1.213 0.714–2.061 0.476 1.008 0.565–1.799 0.978
既往歴 糖尿病 0.919 0.355–2.406 0.861 0.891 0.302–2.627 0.835
    脂質異常症 0.891 0.387–2.050 0.786 1.154 0.454–2.934 0.764
喫煙 0.734 0.412–1.307 0.293 0.982 0.524–1.839 0.954
運動習慣 0.886 0.511–1.536 0.667 0.894 0.498–1.607 0.709
指導頻度(カ月) 1カ月以下 1.012 0.587–1.743 0.966 0.940 0.474–1.863 0.859
指導回数(回) 4回以上 2.453 1.426–4.221 0.001 2.258 1.149–4.434 0.018
総介入期間(カ月) 5カ月以上 2.116 1.223–3.659 0.007 1.864 0.910–3.815 0.089

栄養指導を行ったが介入期間中に一度も体重減少を認めず,体重が増加した症例は24例(11%)に認められた.体重増加の有無と患者背景の比較を表5に示す.体重増加群は体重減少または不変群に比較し,指導回数が有意に少なく(p = 0.003),初回から2回目までの指導間隔は長い傾向にあった(p = 0.095).

表5.体重増加の有無と患者背景の比較

体重変化 p
p < 0.05
増加あり
n = 24
減少あり・不変
n = 196
初回指導時の乳がん治療状況(ホルモン療法中/周術期/経過観察中/化学療法中/放射線療法中) 13/2/7/2/0 91/54/37/8/6 0.193
年齢(歳) 53(39–71) 56(29–82) 0.434
初回指導時体重(kg) 73.5(60.1–86.8) 70(54–105.2) 0.106
初回指導時BMI(kg/m2 28.7(25.0–34.9) 28.8(25.0–44.2) 0.858
既往歴 糖尿病(有) 3 16 0.475
    脂質異常症(有) 2 23 0.620
喫煙習慣(喫煙/過去喫煙/非喫煙/不明) 3/7/14/0 10/47/137/2 0.411
運動習慣(有/無/不明) 9/14/1 75/116/5 0.900
指導頻度(カ月) 2(0–11) 1(0–12) 0.095
指導回数(回) 2(2–12) 4(2–19) 0.003*
総介入期間(カ月) 4.5(0–18) 6(0–30) 0.140

数値は患者数または中央値(範囲)を示す.質的変数はPearsonのχ2検定,量的変数はMann-Whitney検定を用いた.

考察

当院における乳がん患者に対する減量指導において,55%の患者で3%の減量が達成された.また,減量達成と4回以上の栄養指導を行っていることに有意な関連があることが示された.中川ら8,9)は栄養指導の回数が多いほど指導は効果的であることを報告しており,この結果と矛盾しない結果であった.しかしながら,当院の栄養指導の回数,頻度,期間は患者の来院回数(医師の診察回数)や患者自身の継続意欲に依存しており,栄養指導回数は統一されていないことから,栄養指導の回数を増加させることが体重減少につながるかは解釈に注意が必要である.

年齢と肥満の関連について,日本人の食事摂取ガイドライン6)では50歳以降に女性の肥満が増加すると報告しており,その理由として基礎代謝量の低下,すなわち骨格筋量の低下を挙げている.乳がん患者のホルモン療法は10年間行われるため,年齢を重ねることにより肥満リスクはさらに上昇することが考えられる.

運動習慣と減量効果に有意な相関は認めなかった.健康づくりのための身体活動基準201310)において,個人の健康づくりのための身体活動基準として強度が3 METs以上の身体活動を23 METs・時/週行うことが推奨されている.本研究では詳細な活動量が調査できなかったため,活動強度を考慮し検討が必要である.

肥満症診療ガイドライン11)においては,肥満症の要因として飲酒・睡眠・経済状況・職業・胎児期および出生後の栄養状態が報告されており今後は検討が必要である.

乳がん治療内容と肥満の関連については多くの報告がある.Goodwin PJら4)は乳がん診断時と治療後1年間の体重増加について調査し,化学療法を受けた群は患者の84%に体重増加を認めたと報告している.同様に,Camoriano JKら5)も補助化学療法は,リンパ節転移陽性の閉経後乳がん患者の体重増加と関連していると結論付けている.実際の栄養指導時には体重増加の要因として,タモキシフェン内服を挙げる患者も多いが,タモキシフェンと体重増加についての関連は明らかではない12).本研究においては,減量達成と年齢や治療内容に関連が認められなかったが,これについてはさらなる検討が必要である.栄養指導を行ったが介入期間中に一度も体重減少を認めず,体重増加した症例は24例(11%)だった.体重増加群に対し,今後は本人の意識やモチベーションの維持という点での心のケア,運動の習慣つけや筋肉量を減らさないような理学療法の介入などが必要と考える.

乳がんと栄養指導に関し肥満度の高い海外(BMI 36.6 ± 5.0 kg/m2)からの報告13)はあるが,当院で指導を行っている患者(BMI約28.7 kg/m2)とは大きく異なる.欧米人とは体形も食習慣も異なる日本人の肥満乳がん患者における減量栄養指導の効果を示すものとして,本研究は意義のあるものと考える.本邦においても食生活の欧米化によって肥満や生活習慣病,乳がん・大腸がんなどが増えてきている14)ことから,今後は体重管理や食生活改善がより重要な位置を占めると考えられる.加えて,乳がん患者では手術によるボディイメージ変化や薬物療法後の脱毛などによる運動意欲の低下,がん治療のため休職や退職する患者もおり,また最近の新型コロナウイルス感染予防対策によるテレワークなどにより運動量が減って体重が増加する患者も少なくないため,適切な栄養介入と生活改善が求められる.

体重減少と乳がん再発予防効果に関して,一定の見解は得られていない.局所進行乳がんの術前化学療法中の体重変化の比較では,治療前後で体重が増加した患者ほど予後が良好であった15)との報告もあるが,体重減少を起こした群はがん悪液質の影響も指摘されている.そのため,今後は体脂肪率や骨格筋量などを用いた体組成を含めて,減量成績と乳がん治療成績を前向きに検討していきたい.また,本研究では減量達成の定義を肥満診療ガイドラインに基づき,3%の体重減少としたが,乳がん再発率の低下を目的とした場合の至適な減量目標値の報告はなく,不明である.標準体重までの減量がよいか,また,減量後の体重を何年キープすべきかなど,今後大規模前向き研究が期待される.

本研究のリミテーションは単施設後ろ向き研究であること,栄養指導回数が患者の意欲や医師の診察頻度に依存して設定されていること,薬剤およびその副作用による体重増減やこれらに起因する活動量低下による体重増減が考慮されていないことである.

結論

乳がん肥満患者に対し栄養指導を施行し,3%以上の減量を達成した患者は55%であった.栄養指導を4回以上行うことが,3%以上の減量達成と有意に関連していた.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

謝辞

本研究に関して,多大なるご協力を頂いたがん研究会有明病院乳腺センター乳腺センター長 大野真司先生,乳腺外科部長 上野貴之先生に深謝致します.

引用文献
 
© 2023 一般社団法人日本臨床栄養代謝学会
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