2025 年 7 巻 2 号 p. 105-106
この度,2024年度未来研究プロジェクト海外学会参加費助成に採択いただき,アメリカのフロリダで開催されたThe 47th Annual Conference On Shock(2024年6月1日~4日)に参加してポスター発表を行いました.Shock Societyは外傷や敗血症などの分野に関して,臨床研究だけではなく基礎研究まで幅広い発表が行われている国際学会です.また,学会が開催されたフロリダ州ウェストパームビーチはアメリカ合衆国南東部に位置する温暖な気候で,美しい海がとても魅力的な場所です.私はこれまで急性期病院の管理栄養士として働いていましたが,2022年4月から愛媛大学大学院の博士課程に進学し,現在は敗血症モデルマウスや培養細胞を用いて敗血症後の筋力低下に関する基礎研究を行っています.今回は,「INVESTIGATION OF NUTRITIONAL THERAPY TO IMPROVE SEPSIS-INDUCED SKELETAL MUSCLE WEAKNESS」というタイトルで,糞便懸濁液(Cecal Slurry;以下,CSと略)をマウスの腹腔内に投与する敗血症モデルを用いて,敗血症後の筋力低下の分子メカニズムについて網羅的解析を行った結果とβ-NMN投与による介入を行った結果を発表しました.CSモデルを用いた実験では,敗血症治癒後に骨格筋重量が回復しても筋力が低下したままであったこと,CS投与4日目の敗血症急性期の骨格筋のmRNAを用いて行ったRNA-seqとパスウェイ解析の結果では,「Sirtuin signaling pathway」と「Mitochondria dysfunction」に関連する遺伝子発現が大きく変動するということが主な発表内容です.
現地時間の朝7時から行われたポスター発表のセッションは,各々のポスターの前で自由にディスカッションをするスタイルでした.どのポスターの前でも熱心な議論が交わされており,私の発表内容にも多くの先生方がアドバイスをくださいました.様々な筋力に関わる解析方法や臨床研究にまでつなげるためのアドバイスは,新しい視点からのご意見ばかりであり非常に勉強になりました.そして何よりも貴重な時間となったのは,Kentucky大学の斎藤博教授にたくさんのアドバイスをいただいたことです.斎藤先生は私が研究に用いているCSモデルを確立された先生です.これまでにも,研究がうまく進まないときにメールを介して多くのご助言をいただいてきました.今回初めてお会いして,斎藤先生とこれまでの実験データのディスカッションが出来たことは夢のような時間でした.
また,学会会期中に日本の先生方との交流会が行われました.日本から参加している先生だけではなく,アメリカに留学中の先生も多く参加されており,それぞれの研究内容だけではなく,海外での研究生活についてのお話を聞くことができてとても刺激を受けました.他にも空き時間を見つけてきれいな海を見に行ったり,美味しいご飯を食べたり,学会主催のfun runの応援をしたりと楽しく過ごせました.学会で用意してくださる食事がアレルギーへの対応だけでなく,信仰などにも配慮され,各々が自由に選択できるようになっていたことも印象的でした.
今回の国際学会での発表経験は,この先の研究への意欲をさらに高めるとともに,自分自身に必要なスキルなどを再認識する機会となりました.特に英語力は大きな課題だと感じています.初めての英語での抄録・ポスター作成はとても時間がかかり,何度も先生方に添削をしていただきました.そして現地でももっと自分に英語力があれば,より深いディスカッションが出来たはずだと痛感しました.このような気づきから,帰国してから今までよりも英語を勉強する時間を増やし,話す機会を増やすようにしています.この発表経験をもとに,引き続き大学院での研究に励み,臨床において患者さんの栄養療法につながるようなトランスレーショナルリサーチを続けていきたいと考えています.
最後になりますが,2024年度未来研究プロジェクト海外学会参加費助成というご支援を賜りまして日本栄養治療学会の関係者の皆様に心より御礼申し上げます.そして,日頃より大学院での研究活動に多くの御指導をいただいている愛媛大学大学院医学系研究科救急医学講座の佐藤格夫教授,愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門の今井祐記教授,佐伯法学准教授,酒井大史講師に深く感謝申し上げます.
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