東京医科大学病院 栄養管理科
2. 研修期間2024年11月11日~11月15日
当院は167床を有する急性期病院で,脳卒中ケアユニット(Stroke Care Unit;以下,SCUと略)19床です.管理栄養士は全体で4名おり,病棟常駐制を採用しており,SCUには2名が配置されています.また,早期栄養介入管理加算も取得しています.しかし,Intensive Care Unit(以下,ICUと略)のような重症患者の栄養管理については十分な経験が少なく,自身の知識の幅を広げたいと考え,今回の研修に参加しました.
研修では,ICU,Coronary Care Unit(以下,CCUと略),Emergency Intensive Care Unit(以下,EICUと略)の病棟業務の見学やカンファレンスへの参加を通じて,三次救急の大学病院ならではの幅広い症例について学ぶことができました.病棟業務の見学では,特にICU・CCU・EICUの各病棟で活躍されている4名の専任管理栄養士の迅速かつ的確な対応に感銘を受けました.例えば,朝のカンファレンスまでの30分~1時間にカルテ情報を収集し,患者一人ひとりをベッドサイド訪問して必要に応じて腹部聴診や浮腫の有無など身体所見や情報収集の姿が印象的でした.ICUカンファレンスでは,医師,薬剤師,看護師,臨床工学技士,理学療法士らと意見を交わしながら患者の状態を把握し,栄養プランを提案する姿勢を間近で学ぶことができました.その考え方や提案の方法について教えていただいたことも,大変貴重な経験となりました.多職種の栄養に関する知識の広さに驚かされましたが,それ以上に,スピード感に対応する管理栄養士の知識量と対応力に触れ,自分の知識をさらに深める必要性を強く感じました.毎日のカンファレンスを通じて,患者さんの治療に関して多職種が同じ時間に集まり共通認識を持つことが,スムーズな診療につながると改めて感じました.こうした学びは座学だけでは得られない臨地研修ならではのものだと思います.さらに,重症患者への経腸栄養の早期開始についても驚きがありました.特にEICUの救命救急病棟では,入院から48時間以内に10 mL/時の少量でも経腸栄養を開始する症例が多く見られ,器質的なイレウスや腸管手術症例を除いて多くの場合で実施されているとのことでした.48時間以内の開始率が死亡症例を除いて約80%程度と伺い,想像以上に高い割合で行われていることに驚かされました.研修期間中も,幅広い症例に対応した経腸栄養の実践例を見学させていただく中で,症例ごとの開始速度や胃排泄遅延,全身状態に合わせたアプローチ方法を学ぶことができました.この高い早期経腸栄養開始率については,管理栄養士病棟常駐以前から医師の間で重症患者への早期経腸栄養開始が定着していたためだと伺いました.しかし,管理栄養士が常駐することで,下痢や胃排泄遅延,経口摂取不良との併用など,栄養管理上の問題の連携や調整がより迅速で丁寧に行われている点も印象的でした.特に,印象に残ったのは,カンファレンスや回診時に医師や多職種が積極的に管理栄養士に意見を求め,その提案が受け入れられている場面が多かったことです.各管理栄養士の方々にお話を伺う中で,多職種間の信頼関係は日々の勉強の積み重ねと提案の継続によって成り立っていると感じました.また,ICU・CCU・EICUの4名の管理栄養士間のコミュニケーション方法も非常に参考になりました.早期栄養介入管理加算のモニタリングを1日3回実施し,超急性期の入院患者に対応するために進捗確認と密な連携を図ることで,限られた業務時間内で効率的に対応されている姿が印象的でした.この経験を通じて,当院の課題や強みを客観的に見つめ直す機会にもなりました.何より,小さな一歩でも医師への提案を含め,日々の積み重ねが重要だと改めて感じました.
また,栄養管理科科長の宮澤靖先生から,日々の悩みの給食運営や教育関連,管理栄養士の未来についても幅広いお話を伺うことができました.
近年の診療報酬改定では,特定機能病院の管理栄養士には病棟常駐だけでなく,早期栄養介入管理加算やリハビリテーション栄養・口腔連携体制加算など,専門性が求められています.しかし,物価上昇に伴う給食委託費の高騰により,栄養部門へ費用についての捉え方は厳しく,管理栄養士の増員や加算取得が難しい施設があるのが現状です.その中でも,「人数が少ないからできない」と諦めるのではなく,今回の研修内でカンファレンス前のわずかな時間でベットサイド訪問をする姿に,1日30分でもベットサイドでの病棟業務を増やし,専門性を活かして治療に貢献することが重要だと改めて感じました.そして,管理栄養士の必要性や実績を継続的に示すことが,多くの病院での加算取得につながると思いました.今回の研修を通じて,重症患者への栄養管理の実践方法を学ぶだけでなく,病棟常駐管理栄養士としての働き方や連携の重要性について多くの気づきを得ることができました.この経験を,当院内だけでなく,地域の管理栄養士や多くの管理栄養士の皆様と共有していきたいと思います.
最後になりましたが,今回の研修を受け入れてくださった東京医科大学病院の宮澤靖先生をはじめ,管理栄養士の皆様,そして研修の機会をくださったJSPENの皆様に深く感謝申し上げます.
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