2025 年 7 巻 2 号 p. 63-68
【目的】重症心身障がい児・者において経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneos Endoscopic Gastrostomy;PEG)が困難な症例に対し,当科で施行している腹腔鏡補助下経皮内視鏡的胃瘻造設術(Laparoscopic-assisted Percutaneous Endoscopic Gastrostomy;以下,LA-PEGと略)の安全性と有用性をあらためて検討した.
【対象および方法】2005年から2022年にLA-PEGを施行した32例を対象とし,LA-PEGの適応理由,手技,合併症の発生率などを後方視的に検討した.
【結果】LA-PEG導入初期の12例は多孔式で行ったが,後期の20例では臍部単孔式に移行した.手術時間は,多孔式手術例は118.2 ± 38.1分であったのに対し,臍部単孔式手術例では125.4 ± 28.4分と,手術時間に明らかな有意差を認めなかった.全例で胃壁からの出血や他臓器の誤穿刺や損傷などの術中合併症を認めなかった.
【結論】重症心身障がい児・者に対しLA-PEGは安全に胃瘻を造設でき,造設後も重大な合併症はみられず,経腸栄養を早期に再開できるという点で有用であった.
Purpose: We perform laparoscopic-assisted percutaneous endoscopic gastrostomy (LA-PEG) in children and for patients in whom conventional PEG is difficult. In this study, we report the safety and efficacy of LA-PEG.
Material and Methods: LA-PEG was performed in 32 patients from 2005 to 2022. The indications, surgical procedures and complications of LA-PEG in these patients were reviewed retrospectively.
Results: The first 12 patients in the series underwent LA-PEG performed using multi-ports, while umbilical single incisional surgery was used in the 20 more recently treated patients. There was no significant difference in average operative time between the single-port (125.4 ± 28.4 min) and multi-port (118.2 ± 38.1 min) groups. There were no complications during surgery and no case required repeated gastrostomy.
Conclusions: LA-PEG through a single port or multi-ports made it possible to perform gastrostomy safely and to restart tube feeding soon after the procedure.
重症心身障がい児・者は原疾患に伴う嚥下機能障害などにより経口摂取が困難となり,経管栄養を要することも多い.しかし経鼻胃管を用いた経腸栄養では,誤挿入に伴う危険性,咽頭の不快感,および経鼻胃管の閉塞や事故抜去などが問題となるため,長期に経管栄養を要する場合に胃瘻の造設の適応となる1).
1980年にPonskyとGaudererにより初めて経皮内視鏡的胃瘻造設術(Percutaneos Endoscopic Gastrostomy;以下,PEGと略)が施行された2).PEGは低侵襲で手技も簡便であるため経口摂取困難な高齢者を中心に急速に普及したが,その一方で乳幼児や,側彎などにより胃の位置異常(胃が肋骨弓の頭側に位置する,肝臓や結腸が胃の前壁を覆うなど)をきたしている重症心身障がい児・者においては,臓器損傷のリスクが高いためPEGが適応外となる症例も散見されるため,このような症例に対し従来は開腹胃瘻造設術を行わざるをえなかった.しかし開腹胃瘻造設術では開腹創部から胃瘻チューブを導出すると創感染のリスクが高いこと,また開腹創部以外から胃瘻チューブを導出すると胃壁固定が煩雑であり,結果として侵襲が大きくなる問題があった.
近年デバイスの進歩による安全性の向上により,多くの開腹手術が腹腔鏡下で行われるようになった.我々はPEGの利便性に腹腔鏡手術の低侵襲性を生かした腹腔鏡下補助下経皮内視鏡的胃瘻造設術(Laparoscopic-assisted Percutaneous Endoscopic Gastrostomy;以下,LA-PEGと略)を開発し報告しており3,4),今回続報として多孔式と単孔式の比較や,内視鏡の送気方法も比較するとともに,その有用性を検討した.
2005年から2022年にLA-PEGを施行した重症心身障がい児・者32例(年齢0~42歳,中央値:6.5歳)を対象とし,LA-PEGを選択した理由,腹腔鏡手術の術式や内視鏡操作時の送気方法の変遷に伴う手術成績,術後合併症や胃瘻使用開始後のトラブルの有無を含めた安全性を後方視的に検討し,多孔式群と腹部単孔式群の手術時間をMann-WhitneyのU検定を用いて検討した.なお本研究は近畿大学奈良病院倫理委員会の承認を得て実施され(承認番号:第662号),本研究で得た情報は個人を特定できないよう匿名化した.
1. 術前検査凝固系を含めた血液検査を行い,上部消化管造影の際に肋骨弓に沿ってワイヤーを置いて胃の位置を確認する.また腹部CTを施行し,胃と肝や結腸との位置関係を確認する.
2. LA-PEGの術式腹腔鏡手術は,導入初期(2005~2011年)は多孔式として臍部に5 mmのカメラポートとその左右に5 mmのワーキングポートをおき施行した.その後(2011年~)は臍部単孔式に変更し,臍部縦切開で開腹しラッププロテクターTMを装着し,これに3本の5 mmポートを刺入したE・Zアクセスを装着した.鉗子で胃体下部を牽引しながら,消化管内視鏡観察下に胃体部前壁の胃瘻造設部位を決定し,同部を中心として周囲3カ所に3-0 Vicryl Plus®を漿膜筋層にかけ支持糸とした(図1-A).胃瘻造設部位の皮膚穿刺部は肋骨弓および胸骨剣状突起から2 cm以上離した部位とし,それを中心に胃前壁にかけた支持糸と相同する部位よりラパヘルクロージャー[(株) 八光メディカル]を用い先の支持糸の両端をそれぞれ体外に導出した(図1-B)3).これらの支持糸を保持し,内視鏡および腹腔鏡で胃内外を観察下に支持糸の中央の腹壁および胃壁を穿刺し,胃瘻チューブを挿入した.なおPEGを用いた胃瘻チューブは,体格の小さな年少例では13 Fr.あるいは15 Fr.の胃瘻チューブ[経皮的瘻用カテーテルキット,クリエートメディック(株)]を用い,introducer法でPEGを施行した(図2-A, B).年長例ではpull法で20 Fr.の胃瘻チューブ[Safety PEG kitTM,ボストン・サイエンティフィックジャパン(株)]を用いPEGを施行した.3カ所の支持糸をそれぞれ皮下で結紮し,胃前壁を腹壁に固定した.

A:腹腔鏡下に胃体部前壁の漿膜筋層に3-0 Vicryl Plus®をかけ,胃を挙上し胃瘻チューブを挿入するための支持糸とした.
B:ラパヘルクロージャー®を用いて支持糸を体外に導出し,胃を牽引しながら胃壁固定を行う.

A:Introducer法による腹壁の穿刺時の腹腔鏡所見.3カ所にかけた支持糸を保持し,キットに付属している穿刺針で支持糸の中央の腹壁および胃壁を穿刺した.
B:Introducer法による胃壁穿刺後の内視鏡所見.イントロデューサー挿入による胃粘膜からの出血や損傷がないことを確認した.
また消化管内視鏡スコープの送気方法としては通常の空気による間欠送気から,最近の12例では二酸化炭素による定圧自動送気による内視鏡(Steady Pressure Automatically Controlled Endoscopy;以下,SPACEと略)5)を応用した送気方法(modified SPACE)に変更した.modified SPACEは炭酸ガス気腹装置の側管から内視鏡の送気口にチューブを連結し,胃内が気腹圧と同じ定圧になるように送気圧を確保し行った(図3).

臍部縦切開で開腹しラッププロテクター®を装着し,3本の5 mmポートを刺入したE・Zアクセスを装着した.modified SPACEは炭酸ガス気腹装置の側管から内視鏡の送気口にチューブを連結した.
重症心身障がい児・者は抗痙攣薬などを内服している場合が多いため,術当日から少量の水に内服薬を溶解し胃瘻より投与している.また経腸栄養剤は全身状態や腸管蠕動を確認しながら術後2~3日で再開するようにしている.胃瘻チューブの初回交換は透視下に術後約1カ月で行い,以降は患児の活動度や家族の希望に応じ,胃瘻ボタンに変更する.2回目以降は外来で1カ月に1回の頻度で交換している.
表1にLA-PEGを行った32例の内訳を示す.LA-PEGの適応理由は「側弯などに伴う胃の位置異常」が25例,「胃と腹壁の間の肝左葉の存在」が4例,「胃軸捻転」が2例,「胃の腹壁側に結腸を認めた」症例が1例であった.胃瘻チューブの挿入法については,introducer法を用いた症例は15例で,年齢は0~24歳(中央値:1歳)と年少例や体格の小さな症例に多かった.一方,pull法を用いた症例は17例で,年齢は5~42歳(中央値:19歳)と年長例に多かった.腹腔鏡下手術のポート数は腹腔鏡手術の導入初期(2005~2011年)は多孔式で行われ,4ポートが1例,3ポートが8例,臍部と左季肋部の2ポートが3例であった.その後(2011年~)は臍部単孔式に移行し,20例に臍部単孔式手術を施行した.手術時間は,多孔式手術例は118.2 ± 38.1分であったのに対し,臍部単孔式手術例では125.4 ± 28.4分と,手術時間に明らかな有意差を認めなかった(p = 0.52).全例において胃壁からの出血や他臓器の誤穿刺や損傷などの術中合併症を認めなかった.
| 腹腔鏡術式 | ||
| 多孔式(手術時間:118.2 ± 38.1分) | 4ポート | 1例 |
| 3ポート | 8例 | |
| 2ポート | 3例 | |
| 臍部単孔式(手術時間:125.4 ± 28.4分) | 20例 | |
| 内視鏡送気方法 | ||
| 間欠 | 20例 | |
| modified SPACE | 12例 | |
| 合併症 | ||
| 術中合併症 | なし | |
| 肉芽形成 | 8例 | |
LA-PEG: Laparoscopic-assisted Percutaneous Endoscopic Gastrostomy
modified SPACE: modified Steady Pressure Automatically Controlled endoscopy
modified SPACE法を用いることで穿刺が容易な大きさに胃が一定に拡張するため,腹壁から胃壁を穿刺する際に穿刺部位が確認しやすく,さらに胃内ガスの腸管内への流れが少ないため腸管の拡張が少なく,胃前壁の固定の際の腹腔鏡操作が容易であった(図4).

腸管の拡張が軽度であり,良好な視野が得られた.
胃瘻からの薬剤の注入開始日は1.1 ± 0.6日,ミルクまたは経腸栄養剤の注入開始日は3.9 ± 3.6日で,いずれも術後早期に注入を再開できた.術後合併症としては8例に胃瘻刺入部の肉芽形成を認めたが,胃瘻チューブの挿入法にかかわらず瘻孔の感染は認めず,保存的治療で改善した.術後1カ月後の初回交換時も造影剤の腹腔外への漏出は認めず,胃壁の脱落による腹腔内への胃瘻ボタン・カテーテルの誤挿入はみられなかった.
胃瘻造設の術式は開腹手術(直視下に胃壁を切開し,胃瘻刺入部周囲を腹壁に固定する)・PEG(内視鏡で胃の内腔を観察下に腹壁・胃壁を穿刺しバンパーなどで腹壁を固定する)・腹腔鏡下手術(胃瘻造設部位に小切開をおいて腹腔鏡下に鉗子で胃前壁を把持し,創部を切開し胃壁を固定する)などが挙げられる4).腹腔鏡下胃瘻造設術は開腹胃瘻造設術に比べ術後の癒着が少なく,腹腔鏡により良好な視野が得られるため至適部位に胃瘻を造設できる.また腹腔内臓器の誤穿刺のリスクはPEGより低く,胃瘻造設術に対しても腹腔鏡下に施行する症例が増加しており6–10),小児においてもPEGに比べ腹腔鏡下胃瘻造設術では合併症のリスクが低いことが報告されている11).
一方,PEGに腹腔鏡手術を併用したLA-PEGは1995年にStringelらにより初めて報告され12),本邦でも小児症例3)や成人症例13)において報告されるようになってきた.LA-PEGの利点として,開腹手術や腹腔鏡下手術に比べ,胃瘻造設の際に小開腹やポート挿入部の創延長を必要としないため,疼痛の軽減や整容面の向上が見込まれ,創感染も少なく確実かつ容易に胃壁固定が可能である.さらにPEGにおいて起こりうる腹壁・胃壁の穿刺時の臓器損傷を予防でき,また腹腔鏡下に胃を尾側に牽引授動しながら胃壁を穿刺できることで,至適部位での造設部位が可能となる3,4).
LA-PEGの術式としてこれまで報告されている方法としては,①腹腔鏡と内視鏡を併用してPull法またはPush法で胃瘻を造設する,②腹腔鏡下に胃壁を固定し,introducer法で胃瘻を造設する,③腹腔鏡下に胃壁を授動し,体表から鮒田式胃固定具などで内視鏡下に胃壁固定をし,introducer法で胃瘻を造設する14),といった方法がとられることが多い.われわれの術式では体格に応じて①または②を選択しているが,前述のとおり胃壁の脱落予防のため,当科では①のPull法の際も腹腔鏡下に胃壁固定を追加している.
胃瘻脱落は胃瘻造設術後の最も重大な合併症であり,PEGや腹腔鏡下手術でも胃壁固定が推奨される.胃壁固定法としては鮒田式胃固定具II(クリエートメディック(株))やTファスナー式のKC イントロデューサーキット(アバノス・メディカル・ジャパン・インク)などを用い,非吸収糸を腹壁と胃全層を貫通させることにより胃壁の固定が行われている.しかしともに抜糸が必要であり,さらに重症心身障がい児・者においては痙攣・筋緊張亢進のため胃壁と腹壁の癒着形成不全が生じやすく,固定糸を抜糸した際に胃瘻が脱落するリスクが高くなる可能性がある.一方,腹腔鏡下に胃壁を固定するには腹壁への運針が困難という問題があり,我々の術式では,ラパヘルクロージャーを用い漿膜筋層にかけた牽引糸を体外に導出し皮下で結紮する方法を用いている.これにより抜糸は不要で皮膚が締め付けられないため創部の整容面にも優れているだけでなく,容易にかつ確実に胃壁を固定することが可能で,実際に術後1カ月の初回交換時にも胃瘻の脱落を認めず,瘻孔感染もみられなかった.縫合糸膿瘍のリスクを考慮し,非吸収糸で縫合し早期に抜糸する報告もみられるが15),本症例では吸収糸による縫合糸膿瘍の形成などもみられず,LA-PEG施行時の吸収糸による固定は問題ないと考えられる.
今回の症例では32例中24例に胃の位置異常を認め従来のPEGでは適応外の症例であったが,LA-PEGを施行することで全例に至適部位に胃瘻を造設できた.さらに最近の20例では,侵襲の軽減および整容性を重視し臍部単孔式に移行したが,ポートを追加せずにLA-PEGを完遂できた.臍部単孔式でも初期の多孔式と手術時間に有意差はなく,安全に胃瘻造設が可能であり,術中の合併症もみられなかった.
SPACE法はNakajimaらが内視鏡下食道粘膜切除の際に考案した方法であり,内視鏡操作による送気を定圧送気で行うことで,間欠送気に比べて食道が一定に拡張するとともに,pinch cockの作用により胃から十二指腸へのガスの流出が少ないと報告している5).その利点を生かし,modified SPACE法として内視鏡送気管を腹腔鏡の気腹装置の送気管の側管を連結することにより,腹腔内の気腹圧と胃内の圧を定圧にする方法を用いた.これにより胃の拡張が一定になり,pinch cockの作用で胃内から腸管へのガスの流出が少ないため,腸管の拡張が少なく胃前壁の固定の際の腹腔鏡操作が容易であった.
胃瘻造設術後の合併症としては肉芽形成,瘻孔拡大,胃液の漏れなどによる感染や皮膚潰瘍,幽門の通過障害などが挙げられる16).今回の検討では胃瘻造設後の合併症として32例中8例に肉芽の形成を認めたが,ステロイド軟膏等の塗布などで外来で経過観察が可能であった.また早期に内服薬および経腸栄養を早期に再開することができているため,重症心身障がい児・者の栄養管理において本術式による胃瘻の造設は有用であると考えられた.
当科のLA-PEGは,開腹や腹腔鏡下胃瘻造設での胃壁固定よりも視野は良好で確実な胃壁固定が可能で,さらに従来のLA-PEGと比べ抜糸が不要であり,胃瘻刺入部の創感染も少なく,造設後の胃瘻管理が非常に容易になった.臍部単孔式のため侵襲は少なく,至適部位に安全かつ確実に胃瘻を造設することを可能にする術式と考えられた.今後も症例を重ね,術式の評価や検討を行っていく方針である.
本論文に関する著者の利益相反なし