学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
原著
頭頸部がん化学放射線療法における重症粘膜炎の発症と治療2週目の経口エネルギー摂取量との関連
左手 裕美西條 豪竹谷 耕太安元 浩司森 大輔良本 佳代子
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2025 年 7 巻 3 号 p. 127-136

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Abstract

目的:頭頸部がんに対する化学放射線療法において,粘膜炎は頻度の高い有害事象であり,重症粘膜炎は治療完遂の妨げとなる.今回,重症粘膜炎と治療初期の経口摂取量の関連について検討した.

対象および方法:対象は化学放射線療法を行った中咽頭,下咽頭,喉頭がん患者.重症粘膜炎に対する治療初期の経口エネルギー摂取量の影響を検討すべく,多変量解析を実施した.

結果:対象は63例,重症粘膜炎は26例(41%)であった.多変量解析の結果,治療2週目経口エネルギー摂取量は重症粘膜炎に関連する独立因子であった(オッズ比0.89,95%信頼区間0.82–0.97,p = 0.007).重症粘膜炎をアウトカムとした2週目経口エネルギー摂取量のReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線は,Area Under the Curve(AUC)0.73,カットオフ値25.2 kcal/kg/dayであった.

結論:治療2週目の経口摂取量の不足は粘膜炎重症化と関連する可能性があり,積極的な栄養療法が必要と考えられた.

Translated Abstract

Objective: Mucositis is a common side effect of chemoradiotherapy for head and neck cancer, and severe mucositis can interfere with treatment completion. The aim of this study is to investigate the relationship of development of severe mucositis with oral intake in the initial treatment phase.

Methods: The subjects were patients with oropharyngeal, hypopharyngeal, and laryngeal cancer who underwent cisplatin-based chemoradiotherapy. Univariate and multivariate logistic regression analyses were conducted to examine the impact of initial oral energy intake on development of severe mucositis.

Results: Of the 63 patients in the study, 26 (41%) developed severe mucositis. In multivariate analysis, oral energy intake during the second week of treatment was independently associated with onset of severe mucositis (odds ratio 0.89, 95% CI: 0.82–0.97, p = 0.007). The receiver operating characteristic (ROC) curve for oral energy intake in the second week of treatment, with severe mucositis as the outcome, had an area under the curve (AUC) of 0.73 at a cutoff value of 25.2 kcal/kg/day.

Conclusion: Insufficient oral energy intake during the second week of treatment may be associated with severe mucositis. Aggressive nutritional therapy may be appropriate for patients with oral energy intake below 25 kcal/kg/day during the second week of treatment.

 目的

頭頸部がんに対する化学放射線療法(Chemoradiotherapy;以下,CRTと略)は機能・形態温存の利点があり手術と並んで重要な治療である1).治療は6~7週間が標準的とされる1).治療中には粘膜炎,口腔乾燥,味覚異常,嚥下障害,悪心・嘔吐などの有害事象が生じ,栄養障害のハイリスクに該当する2).特に粘膜炎は,疼痛による経口摂取量の減少から低栄養や脱水を惹起し,これらが感染のリスクともなり,治療の円滑な遂行の妨げとなる3).また治療中の体重減少は,粘膜炎重症化,治療休止,感染,再入院,死亡率の増加との関連が報告されている4,5)

こういった背景から頭頸部がんCRTに対する栄養療法は重要とされているが,本邦において報告は少ない.経口摂取量減少時における強制栄養実施など,栄養療法の適応や開始時期に明確な指標はなく,日常臨床においてこれらの判断に難渋する.今回,粘膜炎重症化予防の観点から栄養療法の開始基準を検討するため,治療初期の経口エネルギー摂取量と重症粘膜炎発症との関連を調査した.

 対象および方法

1. 対象

2016年5月から2023年6月まで当院入院にて,シスプラチン併用の根治的CRTを行った中咽頭がん,下咽頭がん,喉頭がん患者を対象とした.本研究では経口摂取を主体に栄養補給を行っている症例を対象とするため,治療初期の時点で明らかに栄養療法が必要と考えられる症例または開始している症例は除外した.除外基準として,静脈経腸栄養ガイドライン6)を参考に「治療開始日から2週目までに①経口摂取が困難,②経管栄養・中心静脈栄養を開始している症例」とした.また粘膜炎自体による経口摂取量減少の影響を排除するため,治療2週目までにGrade 2以上の粘膜炎が生じた症例は除外した.Body Mass Index(以下,BMIと略)≥30 kg/m2の肥満症例は除外した.

2. 方法

 【評価項目】

主要評価項目は重症粘膜炎の発症とし,副次評価項目は体重減少とした.対象者の年齢,性別,原発部位,病期,T分類,N分類,ECOG Performance Status(PS),既往歴,身長,体重,BMI,Geriatric Nutritional Risk Index(以下,GNRIと略),血液検査データ,エネルギー摂取量,治療完遂の有無を電子カルテから抽出し,後方視的に検討を行った.

 【粘膜炎の評価】

粘膜炎は主治医により,口腔・咽頭・喉頭を診察し,ファイバースコープの診察も含めて評価を行った.粘膜炎の評価基準としては,Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)v3.07)の診察所見を使用し,Grade 3「融合した潰瘍または偽膜;わずかな外傷で出血」以上を「重症粘膜炎」と定義した.重症粘膜炎発症の有無と,発症までの日数を電子カルテから抽出した.またGrade 1「粘膜の紅斑(軽症;治療を要さない)」以上の全Gradeの粘膜炎発症の有無と,発症までの日数を電子カルテから抽出した.観察期間は,治療開始日から治療終了日までと設定した.

 【エネルギー摂取量】

1日あたりの経口エネルギー摂取量は,電子カルテの食事オーダー記録から提供量を算出し,これに主食副食別の摂取比率を乗じて算出し,さらに経口的栄養補助(oral nutrition supplement;以下,ONSと略)の摂取量を加えて算出した.次に治療開始日を治療1日目(1週目)とし,1週目から7週目まで1週間ずつ平均値を算出した.総エネルギー摂取量は,経口摂取,経管栄養,末梢静脈栄養,中心静脈栄養を含めた摂取量とした.算出したエネルギー摂取量は全て,治療開始時の実体重あたりのエネルギー摂取量(kcal/kg/day)として評価した.なお,ONS,経管栄養,静脈栄養は,経口摂取状況に応じて主治医判断もしくは管理栄養士との協議によって開始し,投与量は適宜調整された.特に中心静脈栄養は,消化器疾患の併発や嘔気など消化器症状のコントロールが困難な際に主治医判断で施行された.

 【CRTレジメンと治療完遂の評価】

放射線治療70 Gyの照射と同時に,シスプラチン80もしくは100 mg/m2を3週間毎に3回投与された.治療完遂の定義としては,予定量の放射線照射かつシスプラチンを合計200 mg/m2以上投与できた症例とした.支持療法としては必要に応じて,口腔ケア,疼痛管理,制吐療法,言語聴覚士による嚥下リハビリテーション,管理栄養士による介入が実施された.

3. 統計解析

重症粘膜炎発症に対する治療初期の経口エネルギー摂取量の影響について検討すべく,単変量・多変量ロジスティック回帰分析を実施した.多変量解析に含まれる因子は,単変量解析でp値 < 0.1であった因子とした.経口エネルギー摂取量の因子は,研究仮説において重要な変数であったため強制投入した.また,重症粘膜炎発症に対する経口エネルギー摂取量のカットオフ値を,Receiver Operating Characteristic curve(以下,ROC曲線と略)を作成して求めた.このカットオフ値をもとに症例を2群に分け,粘膜炎の発症状況,治療期間中の体重変化率,エネルギー摂取量,治療完遂率をそれぞれ比較した.粘膜炎発症率と治療完遂率の比較にはχ2検定を用い,粘膜炎発症までの日数,体重減少率およびエネルギー摂取量の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた.重症粘膜炎の発症率をカプランマイヤー法により評価した.統計解析にはEZR(Saitama Medical Center, Jichi Medical University, Saitama, Japan)を使用し,解析の有意水準は5%未満とした.本研究は当院倫理委員会にて承認を受けた(受付番号:2023-62).

 結果

CRTを施行した79例のうち16例を除外し,63例を解析した(図1).患者特性を表1に示す.年齢の中央値は66[58,71]歳であり,中咽頭がん19例,下咽頭がん24例,喉頭がん20例であった.BMIは中央値で21.9[20.3,24.5]kg/m2と標準体格であった.栄養リスク指標であるGNRIは中央値で98[94,103]であり,「リスクなし」「軽度リスク」が51例と全体の81%を占めていた.表2に対象者全体の粘膜炎の発症状況を示す.Grade 1(軽症)以上の全粘膜炎は63例の全症例で発症し,治療開始から発症までの日数は中央値で14[10,16]日目であった.Grade 3以上の重症粘膜炎は26例(41%)で発症し,発症までの日数は中央値で35[33,41]日目であった.治療完遂は44例(70%)であった.

図1. 対象者

CRT:Chemoradiotherapy,BMI:Body Mass Index

表1.患者特性

全体(n = 63)
年齢,歳 66[58,71]
男性(%) 47(75)
原発(%)
 中咽頭がん 19(30)
 下咽頭がん 24(38)
 喉頭がん 20(32)
病期(%)
 I 7(11)
 II 15(24)
 III 21(33)
 IV 20(32)
T分類(%)
 1 2(3)
 2 37(59)
 3 19(30)
 4 5(8)
N分類(%)
 0 21(33)
 1 19(30)
 2 20(32)
 3 3(5)
PS(ECOG)(%)
 0 46(73)
 1 15(24)
 2 2(3)
糖尿病(%)
 HbA1c < 8.0% 11(17)
 HbA1c ≥ 8.0% 4(6)
身長,cm 164[157,170]
体重,kg 57.5[51.2,66.7]
BMI,kg/㎡ 21.9[20.3,24.5]
BMI ≥ 25kg/㎡(%) 12(19)
Alb,g/dL 3.9[3.7,4.1]
CRP,mg/dL 0.23[0.08,0.45]
GNRI 98[94,103]
GNRI分類(%)
 98 ≤ GNRI リスクなし 36(57)
 92 ≤ GNRI < 98 軽度リスク 15(24)
 82 ≤ GNRI < 92 中等度リスク 10(16)
 GNRI < 82 重度リスク 2(3)
経口エネルギー摂取量
 1週目,kcal/kg/day 25.0[22.0,30.3]
 2週目,kcal/kg/day 25.5[19.7,29.7]
 3週目,kcal/kg/day 26.0[20.2,29.2]

中央値[四分位範囲]

PS:Performance Status,BMI:Body Mass Index,GNRI:Geriatric Nutritional Risk Index

表2.治療中の粘膜炎の発症状況(全体)

全体(n = 63)
Grade 1以上の粘膜炎発症(%) 63(100)
Grade 1以上の粘膜炎発症までの日数,日目 14[10,16]
重症粘膜炎発症(%) 26(41)
重症粘膜炎発症までの日数,日目 35[33,41]

中央値[四分位範囲]

重症粘膜炎発症に対する単変量ロジスティック回帰分析の結果を表3に示す.これらの結果より,中咽頭がん,喉頭がんを変数として抽出し,これに加えて1~3週目までの経口エネルギー摂取量をそれぞれ変数として,3つのモデルで多変量ロジスティック回帰分析を実施した(表4).その結果,1週目の経口エネルギー摂取量は重症粘膜炎発症に関連する独立した因子ではなかった(オッズ比0.98,95%信頼区間:0.91–1.06,p = 0.613).これに対して,2週目および3週目の経口エネルギー摂取量は,重症粘膜炎発症に関連する独立した因子であった(2週目:オッズ比0.89,95%信頼区間0.82–0.97,p = 0.007,3週目:オッズ比0.88,95%信頼区間0.81–0.96,p = 0.004).この結果をもとに,治療2週目の経口エネルギー摂取量に関して,重症粘膜炎発症をアウトカムとしたROC曲線を作成するとArea Under the Curve(AUC)は 0.73(95%信頼区間:0.61–0.86),カットオフ値は25.2 kcal/kg/dayであった(図2).

表3.重症粘膜炎発症(n = 26)に対する単変量ロジスティック回帰分析

オッズ比 95%CI p
性別 男性 0.87 0.28–2.75 0.816
年齢,歳 1.04 0.98–1.11 0.195
原発
 中咽頭がん 2.66 0.88–8.02 0.083
 下咽頭がん 1.35 0.48–3.79 0.564
 喉頭がん 0.24 0.07–0.83 0.025
病期 III,IV 0.43 0.15–1.25 0.210
T分類 3,4 0.43 0.15–1.28 0.130
N分類 1,2,3 1.65 0.55–4.92 0.367
ECOG PS 0,1 1.44 0.09–24.10 0.800
BMI,kg/m2 1.04 0.89–1.21 0.645
BMI ≥ 25 kg/m2 1.55 0.44–5.48 0.497
糖尿病 1.90 0.59–6.14 0.281
Alb,g/dL 0.77 0.22–2.76 0.690
CRP,mg/dL 1.75 0.87–3.52 0.115
GNRI 0.99 0.93–1.06 0.827
経口エネルギー摂取量
 1週目,kcal/kg/day 0.97 0.90–1.04 0.340
 2週目,kcal/kg/day 0.89 0.82–0.96 0.004
 3週目,kcal/kg/day 0.88 0.81–0.95 0.002

表4.重症粘膜炎発症(n = 26)に対する多変量ロジスティック回帰分析

Model 1 Model 2 Model 3
オッズ比 95%信頼区間 p オッズ比 95%信頼区間 p オッズ比 95%信頼区間 p
中咽頭がん 1.65 0.49–5.60 0.418 1.44 0.39–5.38 0.586 2.33 0.58–9.35 0.233
喉頭がん 0.32 0.08–1.27 0.104 0.30 0.07–1.31 0.110 0.62 0.13–2.87 0.539
経口エネルギー摂取量
 1週目(kcal/kg/day) 0.98 0.91–1.06 0.613
 2週目(kcal/kg/day) 0.89 0.82–0.97 0.007
 3週目(kcal/kg/day) 0.88 0.81–0.96 0.004

Model 1:中咽頭がん,喉頭がん,1週目経口エネルギー摂取量で補正

Model 2:中咽頭がん,喉頭がん,2週目経口エネルギー摂取量で補正

Model 3:中咽頭がん,喉頭がん,3週目経口エネルギー摂取量で補正

図2. 重症粘膜炎発症に対する治療2週目経口エネルギー摂取量のROC曲線

このカットオフ値25 kcal/kg/dayをもとに症例を2群に分けて比較を行った.25 kcal/kg/day以上群34例,25 kcal/kg/day未満群29例であった.表5に治療2週目時点の患者特性を示す.年齢,原発部位,病期,GNRIに両群間で有意な差はみられなかった.BMIは25 kcal/kg/day未満群で有意に高かったが,両群において標準体格であった.治療2週目時点での粘膜炎の発症状況について,両群間で有意な差はみられなかった.

表5.治療2週目時点の患者特性

25 kcal/kg/day以上
(n = 34)
25 kcal/kg/day未満
(n = 29)
p
年齢,歳 67[61,71] 62[56,71] 0.373
男性(%) 30(88) 17(59) 0.009
原発部位(%)
 中咽頭がん 7(21) 12(41) 0.137
 下咽頭がん 13(38) 11(38)
 喉頭がん 14(41) 6(21)
病期(%)
 I 3(9) 4(14) 0.411
 II 6(18) 9(31)
 III 14(41) 7(24)
 IV 11(32) 9(31)
T分類(%)
 1 1(3) 1(3) 0.409
 2 17(50) 20(69)
 3 13(38) 6(21)
 4 3(9) 2(7)
N分類(%)
 0 13(38) 8(28) 0.788
 1 10(29) 9(31)
 2 10(29) 10(34)
 3 1(3) 2(7)
PS(ECOG)(%)
 0 24(71) 22(76) 0.882
 1 9(26) 6(21)
 2 1(3) 1(3)
糖尿病(%)
 なし 22(65) 26(90) 0.042
 あり HbA1c < 8.0% 8(23) 3(10)
 あり HbA1c ≥ 8.0% 4(12) 0(0)
身長,cm 165[160,170] 163[154,168] 0.288
体重,kg 59.1[50.3,64.4] 56.6[51.3,69.8] 0.461
BMI,kg/m2 21.6[19.9,23.1] 23.3[20.2,25.3] 0.042
Alb,g/dL 3.8[3.6,4.0] 3.7[3.4,4.0] 0.414
CRP,mg/dL 0.24[0.08,0.55] 0.17[0.04,0.47] 0.297
GNRI 97[90,100] 94[92,100] 0.761
GNRI分類(%)
 98 ≤ GNRI リスクなし 15(44) 9(31) 0.223
 92 ≤ GNRI < 98 軽度リスク 9(26) 14(48)
 82 ≤ GNRI < 92 中等度リスク 8(24) 6(21)
 GNRI < 82 重度リスク 2(6) 0(0)
治療2週目の粘膜炎の発症状況(%)
 Grade 0;なし 11(32) 10(34) 1.000
 Grade 1;軽症 23(68) 19(66)

中央値[四分位範囲]

治療1~7週目までのエネルギー摂取量の推移を図3,図4に示す.経口エネルギー摂取量について,治療開始から7週目まで,25 kcal/kg/day未満群が有意に少なかった(図3).また25 kcal/kg/day以上群では7週目まで経口エネルギー摂取量が保たれていたのに対し,25 kcal/kg/day未満群では5週目以降に減少傾向がみられた(図3).総エネルギー摂取量についても,治療7週目までの全期間において25 kcal/kg/day未満群で有意に少なかった(図4).

図3. 治療中の経口エネルギー摂取量の推移

中央値で記載

図4. 治療中の総エネルギー摂取量の推移

中央値で記載

体重変化率の推移を図5に示す.治療14日目は–2.0[–4.3,0.4]% vs –4.1[–5.7,–2.3]%であり,25 kcal/kg/day未満群において体重減少率が有意に高かった(p = 0.025).治療終了時は–3.3[–5.6,0.0]% vs –5.0[–9.8,–3.2]%と,25 kcal/kg/day未満群において体重減少率が有意に高かった(p = 0.037).

図5. 治療中の体重変化率の推移

中央値で記載

治療中の粘膜炎発症状況について表6に示す.Grade 1(軽症)以上の全粘膜炎は,両群において全症例で発症し,発症までの日数は25 kcal/kg/day以上群で13[9,15]日目,25 kcal/kg/day未満群で14[10,16]日目と有意差はなかった.重症粘膜炎は,25 kcal/kg/day以上群8例(24%),25 kcal/kg/day未満群18例(62%)であり,発症率は25 kcal/kg/day未満群で有意に高かった(p = 0.002).重症粘膜炎発症までの日数は,25 kcal/kg/day以上群で38[31,41]日目,25 kcal/kg/day未満群で35[34,41]日目と有意差はなかった.カプランマイヤー法による重症粘膜炎発症率は,25 kcal/kg/day未満群において有意に高かった(p = 0.002,図6).治療完遂率は25 kcal/kg/day以上群25例(74%),25 kcal/kg/day未満群19例(66%)であり両群間において有意差はみられなかった.

表6.治療中の粘膜炎の発症状況

25 kcal/kg/day以上
(n = 34)
25 kcal/kg/day未満
(n = 29)
p
Grade 1以上の粘膜炎発症(%) 34(100) 29(100)
Grade 1以上の粘膜炎発症までの日数,日目 13[9,15] 14[10,16] 0.341
重症粘膜炎発症(%) 8(24) 18(62) 0.002
重症粘膜炎発症までの日数,日目 38[31,41] 35[34,41] 0.832

中央値[四分位範囲]

図6. 重症粘膜炎の発症率

 考察

本研究では,粘膜炎重症化予防の観点から積極的な栄養療法の開始基準について検討するため,治療初期の経口エネルギー摂取量と重症粘膜炎との関連について調査を行った.その結果,①治療2週目の経口エネルギー摂取量は,重症粘膜炎発症の独立した因子であり,カットオフ値は25.2 kcal/kg/dayであった.②2週目の経口エネルギー摂取量が25 kcal/kg/day未満の患者では,治療期間を通して経口・総エネルギー摂取量が有意に少なかった.③2週目の経口エネルギー摂取量が25 kcal/kg/day未満の患者では,治療終了時の体重減少率が5%と有意に高く,重症粘膜炎の発症率は62%と有意に高かった.

頭頸部がんCRTにおいて口腔粘膜炎は発症頻度の高い有害事象であり,ほぼ全ての症例で生じると報告されている8).また,シスプラチン併用CRTにおけるGrade 3以上の重症粘膜炎の発症率は41%~44%程度とされている911).本研究においても,軽症を含めた粘膜炎は全症例で生じており,重症粘膜炎の発症率は41%と先行研究と同等の結果であった.重症粘膜炎は治療完遂や予後に影響をおよぼすため,重症化させないための支持療法が重要となる.口腔粘膜炎の増悪因子としては,治療強度や治療部位,粘膜を障害する要因,感染などがあり,特に中咽頭領域の放射線療法,栄養状態の不良,糖尿病などが因子としてあげられる12).本研究において,中咽頭がんや糖尿病は重症粘膜炎発症の独立した因子ではなく,先行研究と異なる結果であった.中咽頭がんは,口腔粘膜への照射線量が多くなる傾向があり重症化しやすいとされている12).本研究では粘膜炎の評価として口腔だけでなく咽頭,喉頭も含めており,先行研究とは評価方法に違いがあり,異なる結果となった可能性が考えられる.また,コントロールされていない糖尿病は粘膜炎重症化のリスクとされるが,本研究において対象者63例のうち糖尿病は15例であり,治療開始時にHbA1c8.0%以上であった症例は4例のみであった(表1).コントロール不良の糖尿病の症例は少なかったため関連がみられなかった可能性が考えられる.

栄養状態の不良は,口腔粘膜を障害,また免疫機能低下により感染を引き起こす要因として粘膜炎の増悪因子とされている12).特にBMIは重症粘膜炎発症と関連が報告されているが13),本研究において治療開始時のBMIは重症粘膜炎発症の独立した因子ではなかった.また栄養リスク指標であるGNRIについても関連はみられなかった.先行研究では,治療中の体重減少と粘膜炎との関連5,14)や,治療早期の栄養療法による粘膜炎の軽減1517)が報告されていることから,治療開始時の栄養状態だけでなく治療中の栄養摂取状況が関与している可能性が示唆される.

今回,治療2週目の経口エネルギー摂取量は重症粘膜炎発症の独立した因子であり,2週目の経口摂取量25 kcal/kg/day未満群において重症粘膜炎の発症が有意に多かった.治療2週目の時点で両群間における粘膜炎の発症状況に差はなく,Grade 0(粘膜炎なし),もしくはGrade 1(軽症)であり,この時点で粘膜炎自体による経口摂取量減少への影響は少ないと考えられる.図3の結果から,治療2週目に経口摂取量が少ない患者は,その後2週目以降も治療期間を通して経口摂取量が少ない結果であった.通常,放射線性粘膜炎は15 Gy(約10日後)に軽症の粘膜炎から始まり,照射線量の増加に相応して重症化し激しい疼痛をもたらす13,18,19).さらに治療中は,悪心・嘔吐,味覚異常,口腔乾燥,嚥下障害など様々な有害事象が生じて経口摂取の弊害となるため,治療期間中に経口摂取量が回復することは見込みづらい.よって,経口摂取量減少に対する栄養療法が必要と考えられるが,本研究では図4に示す通り経管栄養や静脈栄養を含めた総エネルギー摂取量においても有意に少なかった.図5の体重変化と合わせて評価すると,治療2週目に経口摂取量が少ない群では,治療2週目の時点で体重減少が有意に多く,治療終了時には体重減少率が5%に達していた.これらの結果から,体重減少をきたすほどのエネルギー負債が,粘膜炎重症化に関与した可能性が考えられる.

先行研究において,重症粘膜炎の有病率は治療5~6週間でピークを迎えるとされており13,19),本研究においても発症まで日数は治療35日目と同時期であった.図3の経口エネルギー摂取量の推移と合わせて評価すると,2週目に経口摂取量が少ない群では治療5週目以降に経口摂取量のさらなる減少がみられていることから,重症粘膜炎の発症時期と一致している.粘膜炎重症化による激しい疼痛によって,経口摂取量が減少した可能性が示唆される.よって,この間に食事調整や疼痛管理など適切な支持療法を行い経口摂取量の維持改善を図ること,積極的な栄養療法によりエネルギー摂取量を確保することが重要である可能性がある.

本研究において,25 kal/kg/day未満群でBMIが有意に高かったが,前述の通りBMIと重症粘膜炎発症に関連は認められなかった.先行研究では低BMIが粘膜炎のリスク因子とされており13),本研究とは異なる背景であった.本研究におけるエネルギー摂取量(kcal/kg/day)は,実体重あたりの摂取量として評価している.BMIが高いほど体重あたりのエネルギー摂取量が不足となりやすく,これが体重減少や粘膜炎重症化に関与した可能性が考えられた.Zhaoら20)は,高BMI患者に栄養補給を行うことは低BMI患者と同様に重要であると述べており,体格が保たれた患者に対しても積極的な栄養療法が適応となる可能性が示唆される.

一方で,必ずしも全例で強制的な栄養療法が適応とはならない.シスプラチン併用CRTにおいて経管栄養を必要とした症例は49%と報告がある21).また,本研究においても図3で示す通り2週目の経口摂取量が25 kcal/kg/day以上であった群では,7週目まで経口摂取量が中央値で25 kcal/kg/day以上を維持していた.このように,治療中に経口摂取量が保たれる症例も存在するため,日常臨床における栄養療法の適応や開始時期について判断に難渋する.今回,治療1週目の経口摂取量は重症粘膜炎発症の独立した因子ではなかった.一つの要因として,治療1週目はシスプラチン投与後の悪心・嘔吐に伴う一時的な経口摂取量減少の影響を受けている可能性があると推察する.頭頸部がんCRTでは高用量のシスプラチンを3週毎に3サイクル投与するレジメンが標準であり22),治療開始時に初回投与となる.シスプラチンは高度催吐性リスクの抗がん薬であり23)悪心・嘔吐により一時的に経口摂取に影響を及ぼすが,症状の軽減とともに経口摂取量も回復する症例が存在する可能性が考えられた.それに対し,治療2週目以降も持続する経口摂取量の減少については,積極的な栄養療法を検討する必要があると考える.

前述の通り,早期栄養療法により粘膜炎を軽減することが示唆されている1517).ただし,これら早期栄養療法にはONSの使用も含まれており,経口的に必要栄養量が摂取できない場合の強制栄養の開始基準については明確ではない.治療開始時点で明らかな低栄養や経口摂取不良の症例に対して早期の栄養療法が必要であることは明確である.しかし治療の特性上,治療開始以降に経口摂取量の減少を認める症例が多く,その判断に難渋する.本研究の対象者は,治療開始時に経口摂取を主体に栄養補給を行っており,比較的,体格や栄養状態が保たれた患者群であった.本研究の結果から,粘膜炎の重症化予防のための栄養療法の開始基準として治療2週目の経口エネルギー摂取量が一つの指標となり得る可能性があり,25 kcal/kg/dayを目安として不足がある場合には強制栄養の実施を含め積極的に栄養補給を行うことを検討する必要があると考えられる.

研究の限界として,第一に症例数が少なく単施設研究であることがあげられる.第二に経口摂取の記録は評価者によって誤差が生じている可能性がある.第三に,粘膜炎の判定は,評価者や評価のタイミングによって影響を受けている可能性がある.第四に,栄養状態の評価としてBMI,GNRIを用いたが,低栄養の診断としては不十分であった可能性が考えられる.第五に,治療2週目経口エネルギー摂取量で分けた2群間において性差がみられた.しかし,重症粘膜炎発症に対する性別の影響については今回検討できていない.最後に,本研究は後方視的コホート研究であるため,重症粘膜炎発症と治療2週目の経口エネルギー摂取量について因果関係を裏付けるものはない.粘膜炎自体による経口摂取量減少の影響を完全には否定できず,またエネルギー摂取量の確保が粘膜炎を軽減したとは言い切れない.栄養療法による粘膜炎重症化予防の効果としては,介入研究での検証が必要であると思われる.

 結論

頭頸部がんCRTにおいて,治療2週目の経口エネルギー摂取量の不足は重症粘膜炎発症と関連する可能性がある.2週目の時点で経口エネルギー摂取量が25 kcal/kg/dayを下回る患者に対して,積極的な栄養療法を検討する必要がある.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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