2025 年 7 巻 3 号 p. 145-150
短腸症候群は,小腸の大量切除や機能障害により栄養吸収が不十分になる疾患であり,特に高齢者や認知症患者では管理が難しい.症例は,認知症を持つ81歳女性.6年4カ月前に腹部大動脈瘤破裂後の小腸壊死にて手術を行い,残存小腸は約80 cmとなった.頻回少量食の食事療法を順守していたが,認知症の進行により過食して下痢を発症.これにより,低カリウム血症・低カルシウム血症・低マグネシウム血症をきたし入院となった.グルコン酸カリウムや活性型ビタミンD製剤の内服では改善せず,硫酸マグネシウムを静脈内投与したところ,電解質異常は改善した.外来で治療を継続するも再び電解質異常が悪化し,一度再入院となったが,ショートステイで食事摂取方法の管理と服薬の徹底をしたことで電解質異常を生じることなく経過した.認知症患者では,食事管理が困難であり,多職種による包括的なケアに加え,ショートステイなどの地域資源を活用した生活環境整備が短腸症候群の合併症予防に重要であると考えられた.
短腸症候群(short bowel syndrome:以下,SBSと略)とは,何らかの原因による小腸大量切除・残存腸管の機能障害のために小腸からの吸収が低下し,標準的な経口摂取あるいは経腸栄養では水分,電解質,主要栄養素,微量元素,およびビタミンなどの必要量が満たされない状態と定義される1).成人SBSの基準は,欧米では残存小腸長200 cm未満と定義されており,本邦では障がい者認定基準として残存小腸長が150 cm未満もしくは当初の小腸長の1/3と定められている2).SBSでは,経腸的に摂取した栄養素の1/2~1/3しか吸収されないため,必要エネルギーの2倍以上摂取する必要がある.しかしながら,1食あたりの摂取量が増加すると下痢が悪化する危険性があるため,1食の量を少量にし,頻回(6~8食/日)にすることが望ましいとされる3).今回,6年4カ月前に小腸大量切除術を施行した高齢女性が,認知症により総食事摂取量が増加したことにより下痢を引き起こし,重度の低カリウム(以下,Kと略)血症・低カルシウム(以下,Caと略)血症・低マグネシウム(以下,Mgと略)血症をきたした症例を経験したので報告する.なお,症例報告にあたり,「症例報告を含む医学論文および学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」を遵守し,ご本人・ご家族に同意を得た.
81歳,女性.
1. 現病歴6年4カ月前に腹部大動脈瘤破裂で緊急手術を施行した.術後11日目に小腸壊死が認められ,小腸切除術を実施した.虚血を認めた小腸は大量切除し,Treitz靱帯から約90 cmで空腸瘻とし回腸末梢を20 cm残して粘膜皮膚瘻とした.術後2カ月後に回腸瘻を閉鎖したが末梢の回腸は狭窄部があり追加切除を行った.術後6日目に腸閉塞となり吻合部よりさらに末梢に狭窄を認めたためバイパス術を追加した.最終的な残存小腸は80 cmであった.その後,電解質異常は認められず経過していたが,7カ月前に血清K 3.3 mEq/L,1カ月前に血清K 2.4 mEq/Lまで低下した.このため,グルコン酸カリウム10 mEq/日の内服を開始した.しかし,内服治療による改善がみられず,緊急入院となった.
2. 生活歴娘と二人暮らしであり,娘が仕事で不在の日中は一人で生活している.
3. 既往歴77歳:アルツハイマー型認知症・長谷川式認知症スケール(以下,HDS-Rと略)20点.
4. 現症身長153 cm,体重36.8 kg,Body mass index 15.2 kg/m2.
意識:JCS I-3,眼瞼結膜に貧血はなく,眼球結膜に黄染を認めない.肺呼吸音に異常はなく,心音に異常を認めない.腹部は平坦・軟で,肝・腎・脾は触知しない.腹部正中に手術創を認める.下腿に浮腫を認めない.
HDS-R 4点であった.
5. 入院時検査所見(表1)血清生化学検査では低K血症(2.2 mEq/L)および低Ca血症(補正Ca 5.65 mg/dL)に加え,低Mg血症(0.6 mg/dL)を呈していた.K排泄率(Fractional Excretion of K;FEK)は7.4%であり,低K血症を是正するために尿中K排泄が低下していた.また,Ca排泄率(Fractional Excretion of Ca;FECa)も0.3%未満と著明に尿中Ca排泄が低下し,intact PTHは113.0 pg/mLと上昇しており,絶対的なCaの欠乏を示唆していた.また,血中25(OH)Dが4.6 ng/mLと著しく低下しており,1,25(OH)2Dは正常であったことは,ビタミンDも欠乏していることを示唆した.尿中Mg排泄量は1 mg/dL未満,Mg排泄率(Fractional Excretion of Mg:FEMg)は2%未満であり,Mgも絶対的欠乏を認めた.心電図では,心拍数68回/分であり,U波を認め,QTc 0.540秒とQT時間延長を認めた(図1).
| Blood chemistry | CRP | 2.07 mg/dL | Urinalysis | ||
| TP | 6.7 g/dL | VitaminB12 | 485 pg/mL | S.G. | 1.010 |
| Alb | 3.25 g/dL | intact PTH | 113.0 pg/mL | pH | 6.5 |
| BUN | 10.4 mg/dL | (15–68.3 pg/mL) | Protein | (+) | |
| Cr | 0.73 mg/dL | 25(OH)D | 4.6 ng/mL | Occult Blood | (–) |
| UA | 6.3 mg/dL | (9–34 ng/mL) | Protein | 0.79 g/gCr | |
| Na | 142 mEq/L | 1,25(OH)2D | 27.2 pg/mL | BUN | 370.7 mg/dL |
| K | 2.2 mEq/L | (20–60 pg/mL) | Cr | 54.1 mg/dL | |
| Cl | 100 mEq/L | ACTH | 18.4 pg/dL | Na | 44 mEq/L |
| Ca | 4.9 mg/dL | (7.2–63.3 pg/mL) | FENa | 0.4% | |
| cCa | 5.65 mg/dL | Cortisol | 13.6 μg/dL | (1–2%) | |
| P | 1.3 mg/dL | (6.24–18 μg/mL) | K | 12 mEq/L | |
| Mg | 0.6 mg/dL | FEK | 7.4% | ||
| T-Bil | 1.2 mg/dL | Blood cell count | (12.5–25%) | ||
| AST | 38 U/L | WBC | 10,500/μL | Ca | <1 mg/dL |
| ALT | 19 U/L | NEUT | 78.1% | FECa | <0.3% |
| ALP | 69 U/L | LYMPH | 11.8% | (2–4%) | |
| LDH | 432 U/L | MONO | 6.0% | Cl | 54 mEq/L |
| CK | 508 U/L | EOS | 3.4% | P | 18 mg/dL |
| Glu | 102 mg/dL | BASO | 0.7% | FEP | 18.7% |
| T-Cho | 93 mg/dL | RBC | 323 × 104/μL | (10–20%) | |
| TG | 164 mg/dL | Hb | 10.9 g/dL | Mg | <1 mg/dL |
| HDL-C | 46 mg/dL | Ht | 33.2% | FEMg | <2% |
| LDL-C | 30 mg/dL | Plt | 24.7 × 104/μL | (2–3%) | |
( ):正常範囲

入院後,グルコン酸カリウムを15 mEq/日の内服に増量した.また,維持液1,000 mL/日(K 20 mEq/日)とグルコン酸カルシウム水和物(Ca 850 mEq/日)の点滴を開始し,第2病日にカルシトリオール0.25 μg/日の内服を開始した.第3病日,血清Mgが0.6 mg/dLであったことから硫酸マグネシウム10 mEq/日の静脈点滴を追加した.第5病日には血清K 3.4 mEq/L,補正血清Ca 7.09 mg/dL,血清Mg 2.0 mg/dLまで改善し,硫酸マグネシウムおよび維持液1,000 mL/日の点滴を終了とした.第6病日からカルシトリオールをアルファカルシドール1.0 μg/日の内服に変更,第12病日には血清K 3.8 mEq/L,補正血清Ca 9.36 mg/dLまで改善した.第17病日,グルコン酸カリウム10 mEq/日,アルファカルシドール1.0 μg/日の内服で退院となった.退院時の体重は35.5 kgであり,入院時より1.3 kg減少していた.
入院中は朝昼夕食の3食(エネルギー1,120 kcal,蛋白質46.8 g,脂質30 g,糖質175 g,K 1,950 mg,Ca 760 mg,Mg 180 mg)で下痢はなく,全量経口摂取できていた.入院中に飲水制限は行わなかったが,過剰に飲水している様子もなかった.

退院から2週間後,血清K 2.4 mEq/L,補正血清Ca 7.57 mg/dL,血清Mg 0.6 mg/dLまで低下した.6週間後の血液検査でも血清K 2.2 mEq/Lと改善なく,L-アスパラギン酸カリウムの内服を4 g/日(K 11.6 mEq/日)に増量した.12週後,血清K 2.3 mEq/L,補正血清Ca 6.60 mg/dL,血清Mg 0.5 mg/dLであり,再入院となった.再入院から3日間,維持液1,000 mL/日(K 20 mEq/日)とグルコン酸カルシウム水和物(Ca 850 mEq/日),硫酸マグネシウム10 mEq/日を点滴投与した.点滴にて血清K 2.7 mEq/L,補正血清Ca 7.24 mg/dL,血清Mg 1.4 mg/dLまで改善した.アルファカルシドールの内服を1.5 μg/日に増量とし,酸化マグネシウム330 mg/日(Mg 16.75 mEq/日)の内服を開始とした.血清K 4.1 mEq/L,補正血清Ca 8.93 mg/dLまで改善し,再入院から12日目で退院となった.退院後,血清Kは2.7–2.9 mEq/Lと低値であったが,補正血清Caは低下することなく経過した.低K血症・低Ca血症・低Mg血症を呈した要因として,在宅環境下での不適切な過量摂食が明らかとなった.これを受け,2回目の退院以降は平日のショートステイ利用を導入し,同施設においては規則的な3食体制による食事管理,間食制限の指導,および服薬管理の徹底を行った.その結果,再度の電解質異常発症を防ぐことが可能となった.

小腸広範囲切除後の患者の約40%に低Mg血症が生じる4).腸管内においてMgと脂肪酸が結合することでMgの吸収が行われなくなることが原因であると考えられている.低Mg血症を背景とした低Ca血症は,Caの補充のみでは改善しない場合がある5).それは,Mg欠乏時にはPTH合成が行われているが分泌不全状態になっていること6)や臓器のPTH抵抗性の影響が考えられている.本症例ではintact PTHは上昇していることから,臓器のPTH抵抗性が上がっていると考えられた.そのため,Caの補充のみでは血清Ca濃度は上がらなかった.そこで,Mgの静脈注射をしたところ速やかに血清Ca濃度が改善した.低Ca血症を生じた際には,必ずMg濃度を測定し,低Mg血症をきたしている時にはMgを投与する必要があると考えられた.
また,血中1,25(OH)2Dの半減期が5–8時間であることに対し,25(OH)Dの半減期は2週間である.さらに1,25(OH)2Dの基準値は18–60 pg/mLであるのに対し,25(OH)Dの基準値は10–70 ng/mLと約1,000倍の濃度である7).そのことは,25(OH)Dの濃度がビタミンDの欠乏の指標になることを意味する.本症例でも25(OH)Dが低下し,1,25(OH)2Dが正常であったことから,ビタミンDが欠乏していることが示唆された.さらに,SBSの影響でビタミンDの吸収も低下していると考えられた.
小腸広範囲切除後の経過は第I期(術直後期),第II期(回復適応期),第III期(安定期)に分類される8).第III期であっても,SBSでは食事療法に留意する必要がある.SBSで推奨される食事療法は,①少量頻回食,②十分な咀嚼,③単純糖質の制限,④食事中の水分摂取を控えること,⑤高浸透圧の飲料の制限と経口補水液の摂取である9).本症例では,術後6年4カ月経過しており,小腸広範切除後の第III期にあたり,経口摂取のみで長期間安定して経過していたことから,SBSに必要な食事療法を順守できていたと思われた.入院中は通常の分食のない3食摂取する食事療法で下痢などの問題が生じていなかったことから,入院直前の食事摂取状況に問題があったと考えられた.同居の娘に自宅での食事内容を聴取したところ,日中に一人で自宅にいる際にいつでも冷蔵庫の中の食材を取り,大量に食べ物を摂取していることが判明した.つまり,認知機能低下によりSBSで推奨される食事療法が守られず,大量の食べ物を摂取したことで下痢を生じ,消化管から十分な栄養吸収がされていないことが推測された.その結果,低K血症,低Ca血症,低Mg血症を引き起こしたと考えられた.本症例のように術後6年4カ月とSBSの第III期になってから重大な電解質異常を来した報告はなく,SBSの食事療法の重要性を再認識した.
アルツハイマー型認知症の中期に入ると,記憶障害が顕著になり,食事をしたことを忘れ食事を何回も要求することがしばしば起こる10).本症例では,HDS-R 4点と認知症が進んだことにより,食事をしたことを忘れ,SBSに必要な食事療法を守ることができなかったと考えられた.認知症を合併したSBS患者においては食事療法が守られないと,本症例のように重大な電解質異常を引き起こす事態におちいる可能性がある.初回の入院時に自宅での食事摂取状況を十分に把握していれば,再入院を回避できた可能性があり,在宅環境の確認の重要性を改めて認識した.本邦では高齢化社会が進んでおり,今後,本症例のように認知機能が低下した患者が増加すると考えられる.そのため,家族だけではなく,多職種チーム(医師,看護師,薬剤師,介護士,管理栄養士,ケアマネージャーなど)による包括的ケアに加え,地域資源(ショートステイ,デイサービスなど)を活用した生活環境整備は再入院予防の一助となりうる.
本症例の電解質補正をした経過から得られた教訓として,今後の管理上の重要な注意点は,定期的な電解質濃度(K,Ca,Mg)のモニタリングが不可欠である点が挙げられる.特に,本症例では1回目の退院後もK値が低値を示し,本質的な問題が解決されておらず,再発のリスクが高い状態であったと考えられた.このため,退院後の管理においては,外来受診時の血液検査頻度の増加に加え,手術を施行した外科医との密接な連携の強化,およびSBSでの電解質異常のリスクに対する患者および医療従事者への啓発が必要である.また,在宅訪問看護の活用により,日常的な食事摂取内容や服薬状況の確認を行うことが有用と考えられる.さらには,管理栄養士や薬剤師との連携による食事内容や服薬プランの見直しも,電解質異常の管理を安定化させる上で重要である.
テデュグルチドはSBS患者において腸管吸収を改善し,糞便排泄を減少する効果がある11).そのため,本症例のような電解質異常の予防に寄与する可能性が示唆される.しかしながら,テデュグルチドの投与による低K血症の発症が報告されており12),本症例のように電解質異常を呈する患者への投与に際しては慎重になった方が良いと考えられる.また,テデュグルチドは1日1回の皮下注射であるため,認知症患者においては自己管理の困難が想定される.このような多面的かつ継続的なモニタリング戦略を組み合わせることにより,SBS患者における電解質補正治療の長期的な安定化と再入院予防が期待されると考えられる.
認知症に伴う食行動の変化が,SBSにおける電解質異常を悪化させる可能性があることを示唆した症例であった.認知症のSBS患者に対する合併症を予防するためには,多職種チームによる包括的ケアに加え,ショートステイなど地域資源を活用して患者本人が食事療法を順守できる環境を作る必要があると考えられた.
本論文に関する著者の利益相反なし