学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
症例報告
胆管ステントによる十二指腸穿孔をきたし,十二指腸減圧チューブ留置と集学的栄養療法後に根治術を施行した肝門部胆管がんの1例
田中 貴之藤村 裕子前川 美恵子松本 恵野元 美里吉村 彰剛
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2025 年 7 巻 4 号 p. 201-206

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Abstract

症例は50歳代の男性.皮膚黄染を指摘された.精査にて黄疸,肝機能異常を認め,CT,magnetic resonance cholangiopancreatography(MRCP)で肝内胆管拡張ならびに肝門部腫瘤性病変を指摘され,胆汁細胞診でClass 4が検出され,肝門部胆管がん(Bismuth IIIb型)と診断された.緊急endoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP)下に胆管ステントが留置された.黄疸,肝機能は軽快傾向であったが,炎症所見が持続した.腹部CT検査で胆管ステントによる十二指腸穿孔が判明し,穿孔部に対する大網充填,十二指腸内減圧チューブ留置,腸瘻造設術が施行された.術後2日目から経腸栄養を開始し,静脈栄養を併用しながら経腸栄養を増量した.状態が安定したのち,術後25日目に肝門部胆管がんに対して肝左葉切除および胆道再建術を行い,術後補助化学療法を完遂し,術後1年半無再発生存中である.十二指腸穿孔という早期経口摂取が困難な症例には,早期から経空腸的な栄養投与経路を確保し,集学的栄養治療を施行することが望ましいと考えられた.

 はじめに

内視鏡的胆管ステントによる十二指腸穿孔は稀ではあるが重篤な合併症であり,ときに致死的となり得る1).また,消化管瘻や閉塞・穿孔をともなう重症病態の場合に行う経腸栄養(enteral nutrition;以下,ENと略)は全身管理上非常に重要であり,投与経路としては,経空腸ルートが多く,その理由として消化管の病巣部位より遠位側に栄養投与経路を確保することで安全にEN を施行できることが挙げられる2).今回我々は,肝門部胆管がんに対する胆管ステントによる十二指腸穿孔をきたし,緊急で穿孔部に対する大網充填,十二指腸内減圧チューブ留置,腸瘻造設術を施行し,早期EN開始後,根治術施行が可能であった症例を経験した.この症例をもとに,術中の減圧チューブおよび経空腸栄養カテーテルの留置について考察した.

 症例

50歳代 男性.

1. 現病歴

皮膚黄染の精査から,単純CTで肝内胆管拡張・肝門部腫瘤性病変を指摘され,精査加療目的に当院消化器内科を紹介受診となった.精査の結果,肝門部胆管がん(Bismuth IIIb型)の診断で緊急ERCPによる胆管ステント留置が行われた.ステント留置から3日経過した後も発熱と腹痛が改善せず,CT検査にて胆管ステントによる十二指腸穿孔と判断され,消化器外科に紹介となった.

2. 既往歴

気管支喘息.

3. 家族歴

父親:膀胱がん・肺がん,母親:心疾患.

4. 喫煙歴・飲酒歴

なし.

5. 手術歴

交通外傷で頭蓋内血腫除去および鼻根部肋軟骨移植術.

6. magnetic resonance cholangiopancreatography(以下,MRCPと略)所見(胆管ステント留置前)

肝内胆管拡張と肝門部に15 mm大のdiffusion weighted image(以下,DWIと略)で高信号,T2強調画像で肝実質よりも高信号の構造物を認めた.さらに右肝管から前後区域枝の分岐部,B2,3,4の分岐部まで腫瘍進展を認めた(図1).

図1. MRCP

肝内胆管拡張を認め,肝門部には15 mm大のDWIで高信号,T2強調画像で肝実質よりも高信号の構造物を認めた.さらに右肝管から前後区域分岐部,左葉B2,3,4の分岐部まで腫瘍進展を認めた.

7. endoscopic retrograde cholangiopancreatography(以下,ERCPと略)所見(胆管ステント留置時)

前後区域枝は描出可能,左肝管からB2/3分岐部までは完全に離断された状態であった.左右肝管は拡張しており,Bismuth IIIb型の肝門部胆管がんと判断された.胆汁細胞診ではClass 4の診断であった(図2).

図2. ERCP

完全に泣き別れの状態.左右肝管は拡張し,Bismuth IIIb型を呈す.

8. 緊急手術前現症

身長:170 cm,体重:82.6 kg,Body mass index(以下,BMIと略):28.6 kg/m2,眼瞼結膜:貧血なし,眼球結膜:軽度黄染あり,腹部:圧痛あり,腹膜刺激症状なし.

9. 緊急手術時血液検査所見

Alb 2.7g/dL,T-Bil 4.5 mg/dL,AST 63 U/L,ALT 192 U/L,ALP 425 U/L,CRP 17.61 mg/dL,WBC:14,230/mm3(Neut 90.6%),CA19-9 200.5 ng/mLであった.

10. 緊急手術時栄養評価

Malnutrition universal screening tool(MUST)による初期栄養スクリーニング評価を行い,BMI(0点),3~6カ月以内に5~10%の体重減少(1点),急性疾患並びに5日間以上の栄養摂取無し(2点),合計3点で栄養障害高リスクと判断した.さらにGlobal Leadership Initiative on Malnutrition(GLIM)基準に従って評価すると病因基準に該当項目を認め,表現型基準では6カ月以内に5%以上の体重減少を認め,低栄養状態に該当したが,重症判定には該当せず,中等度の低栄養状態と評価した.

11. 緊急手術前腹部造影CT所見

十二指腸背側から右腎前にかけてfree airを認め(図3a,b:矢頭),胆管ステントが十二指腸壁を貫通しairと連続していた(図3b:矢印).

図3. 緊急手術直前の腹部CT

a:十二指腸背側から右腎前にかけてfree airを認める.

b:胆管ステントが十二指腸壁を貫通しairと連続.

以上から,肝門部胆管がんによる閉塞性黄疸に対して留置した胆管ステントによる十二指腸穿通による穿孔性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した.

12. 手術所見

十二指腸下行脚のVater乳頭部のほぼ対側から胆管ステントが穿通した状態であったが,完全逸脱ではなかったために,胆管チューブの留置位置を修正した.穿孔部に関しては,十二指腸穿孔部の直接縫合では,組織が脆い状態のために修復が不十分になる可能性が高いと判断し,穿孔部に対する大網充填を行った.さらに,今後の根治手術(肝左葉切除,胆道再建術)を念頭に置いて,胆道再建時のY脚作成要するトライツ靭帯から約40 cmの腸管を温存し,その地点から十二指腸内減圧チューブを口側へ向けて逆行性に留置を行い,チューブからの排液は自然落差のみで管理をすることにした.さらに犠牲腸管を約30 cm見込んで,十二指腸チューブ留置部位から30 cm肛門側から経腸栄養チューブを腸管内に40 cmほど挿入した.減圧および経腸チューブいずれもWitzel法でチューブを固定し穿孔部の背面とWinslow孔にドレーンを2本留置し,手術は終了した(図4).

図4. 術後シェーマ

13. 術後経過

胃管や十二指腸減圧チューブからの排液がほとんどないことを確認し,術後2日目より静脈栄養(parenteral nutrition;以下,PNと略)と並行して,ENを開始した.投与計画として,経管栄養チューブから1 kcal/mLの成分栄養剤(エレンタール®)を投与速度10 mL/hとし,24時間持続で投与を開始した.最終的な投与カロリーの設定はHarris Benedictの式から基礎エネルギー消費量を算出し,活動係数,ストレス係数を考慮し,総エネルギー量として1,600~1,800 kcal/日を目標とした.EN開始後も十二指腸減圧チューブからの排液が増加することはなく,少量の胆汁様排液が持続した状態であった.順調にPN + ENを増量し,術後7日目にはPN(1,040 kcal/日)+EN(30 mL/hを24時間持続:720 kcal/日)まで増量した.この時点で経腸栄養内容を成分栄養剤から消化態栄養剤(ペプタメン スタンダード)へ変更し,持続投与から間歇投与へ変更した.PNを少しずつ減量しながら,経管栄養の投与速度を徐々に上げていき100 mL/h以上で投与した時点で,軟便傾向を認め,経腸栄養は投与速度100 mL/h,投与時間は4時間で1日3回投与を上限とした.PNも段階的に減量し,最終的にはEN(1,800 kcal/日)を根治術施行時まで維持した.リハビリに関しては,術翌日からベッド上Activities of Daily Livingが確保できていたことを考慮し,栄養目的の経腸栄養チューブは抜去し,術翌日には飲水を開始し,術後2日目には経口栄養剤を開始し,術後4日目からは5分粥から1日ずつ食事を上げていき,術後7日目には常食摂取の状態まで可能であった.リハビリに関しても初回の緊急手術後同様のメニューで開始し,術後10日目には十分な自力歩行が可能となっていた.合併症として腹腔内膿瘍を併発したものの経皮的ドレナージにて改善し,その後胆管炎も発症し,血液培養陽性となったが,抗生剤投与で改善し,根治術後35日目から補助化学療法としてS-1内服(120 mg/日 4投2休)を開始し,根治術後42日目に自宅退院となった(表1).その後,S-1内服を1年間完遂し,根治術後18カ月を経て無再発生存中である.

表1.術後経過および栄養投与量の変遷


 考察

ERCPによる十二指腸穿孔率は0.39%であり,胆管ステントのmigrationにより腸管穿孔をきたしたのは0.056%と非常に稀な合併症である1,3,4).本症例では穿孔発症から経過していたため炎症により十二指腸壁が脆弱な状態であり,直接縫合閉鎖は困難と判断し,大網による穿孔部被覆と腹腔内ドレナージを行った.その際に,再穿孔の可能性を考え,減圧目的に十二指腸減圧チューブ留置を行った.これまで十二指腸穿孔に対する単純縫合は縫合不全の発症率が高いことが知られている.その理由に,十二指腸は幽門輪とトライツ靱帯との間に存在し,内圧が上昇しやすく,また胃液・胆汁・膵液などの消化液の影響を直接受けることが容易に想定される5).つまり,化学的暴露を受け易い十二指腸の穿孔例に対する対策の一つとして十二指腸減圧チューブ留置は有用と考えられる.実際に,長谷川らも縫合不全が危惧される場合には積極的に減圧チューブを十二指腸または空腸に留置すべきとしている6,7).減圧チューブの留置位置に関しては,肝門部胆管がん根治術時のY脚再建を考慮し,トライツ靱帯から約40 cmの位置に逆行性に留置した.経腸栄養チューブの留置に関しては,十二指腸穿孔に関する具体的な留置の位置に関する文献は確認できなかったが,胃全摘であればRoux-en Y吻合のY吻合部よりも遠位に先端を留置し,膵頭十二指腸術後のChild変法再建では,Braun吻合部より遠位に留置することが多いといわれている8).今回の症例では減圧チューブ留置部位から犠牲腸管を考慮し30 cmのところから栄養チューブを留置し,さらに40 cm遠位腸管内に先端を留置することができ,合計で穿孔部から1 m以上の十分な距離を確保し,栄養チューブを留置することができた.

栄養管理について,十二指腸減圧チューブが留置されていることを考慮すると,経口もしくは経胃的栄養摂取は十二指腸を経由するために適さない.ただ,経静脈的栄養のみでは,腸管粘膜萎縮やBacterial translocation(以下,BTと略)の発生,感染症の発生リスクが上昇するなど問題点が浮上する9,10)

2018年の欧州臨床栄養代謝学会ガイドラインでは,消化管瘻などの術後合併症を発症した場合,病巣部位より遠位側の経腸栄養経路を確保すべきと記されている1).ただ,重症患者に対し経空腸栄養カテーテルを挿入する場合は,上部消化管内視鏡や透視などが必要となり,循環動態が不安定な状況では,経空腸栄養カテーテルからのEN投与の影響による腸管虚血のリスクが経胃投与に比べて高いとの報告もあり,その適応を慎重に吟味する必要がある1113)

これまでに重症病態において早期にPN開始することで,30日死亡率が有意に改善したという報告があるものの,基本的には早期のEN開始を主軸として,早期PNを補完的に行うことが重要とされている14,15).さらに,鍋谷らは,PN中心の栄養療法対象患者においても消化吸収機能の保持や腸管免疫能の維持とそれに伴うBT抑制などの効果が期待できるため,低容量ENを併用するcombined nutritional therapyを行うべきであると述べている16).自験例は,穿孔部位である十二指腸での合併症を回避するために,術中にトライツ靱帯より約40 cm肛門側に十二指腸内に逆行性に十二指腸減圧チューブを留置し,減圧チューブ留置部位より約20 cm肛門側に40 cm挿入の上で経腸チューブを留置した.最終的に穿孔部位よりも約1 m以上遠位側に留置するという手術方針が奏効し,48時間以内にENを開始することができた.本症例において,ENは7病日までに720 kcal/日の持続投与まで増量が可能であり,最終的にENのみの単独管理とし栄養投与は1,800 kcalまで増量し,根治術へ向かうことが可能となった.つまり,術後合併症の発症リスクを見越し,術中に空腸への栄養投与経路を確保できたことは早期栄養投与を可能にし,全身状態回復に寄与した可能性が高い.したがって術後の消化管瘻や縫合不全などの重篤な合併症の発症が懸念される場合には,局所へのアプローチとともに,局所合併症の予防や発症しても重症化しないように,安全に経腸栄養を行うための適切な経腸栄養アクセスを術中に確保することが望ましいと思われる.

本症例では「症例報告を含む医学論文および学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」を遵守しており,患者家族から発表について同意を得ている.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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