学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
症例報告
粘度可変型流動食で発生した胃石が消化酵素剤投与後に消失した1例
加納 正人河村 知佳
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2025 年 7 巻 4 号 p. 207-210

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Abstract

症例は80歳代女性.パーキンソン病による嚥下機能低下で経鼻胃管による栄養管理となった.仙骨部褥瘡のため,入時間短縮を期待して粘度可変型流動食に変更した.変更後1カ月で上部消化管内視鏡検査を行ったところ,胃内に8 cm大の白色の胃石を認めた.市販の強炭酸水での洗浄を行ったがわずかな縮小にとどまった.消化酵素剤の投与を行ったところ,1週間後のCTで胃石の消失を認めた.その後の経皮的内視鏡下胃瘻造設の際には,胃石を認めなかった.胃石は柿胃石の報告例が多く,コーラで溶解したとする報告が多い.粘度可変型流動食による胃石の報告例はPubMed上で1例報告があるのみでまれな病態である.粘度可変型流動食は注入時間の短縮,逆流の防止,下痢の防止などの利点があるが,胃の排出能力が低下した症例では胃石を形成する可能性がある.消化酵素剤は安価で容易な手段であり,粘度可変型流動食で胃石形成を認めた場合には,試みる価値がある.

 はじめに

胃石は,胃内で形成された難消化性の塊であり,本邦では柿による胃石(柿胃石)の頻度が高く,コーラによる溶解療法が試みられることがある.今回,粘度可変型流動食(ハイネックスイーゲル,株式会社大塚製薬工場社,徳島)によるとみられる胃石が消化酵素剤で消失したので報告する.

 症例

80歳代,女性.

1. 既往歴

甲状腺機能低下症,左乳がん手術

2. 現病歴

60歳代からパーキンソン病を発症し,2023年秋頃から日常生活動作が低下していた.10月下旬に肺炎をきたし入院となった.肺炎は軽快したが,パーキンソン病の進行により経口摂取は困難と診断され経鼻胃管による栄養管理が開始となった(1,200 kcal/day).自宅での療養が困難となり12月に当院に転院となった.

3. 入院時現症

身長143.0 cm,体重36.8 kg,body mass index 19.8 kg/m2.日常生活動作は寝たきり.意識レベルは,声かけで薄く開眼し小声で何かをつぶやく程度[Japan Coma Scale(JCS)10].従命はできず.

4. 投薬内容

レボチロキシンナトリウム水和物,レボドパ・カルビドパ水和物,アゾセミド,酸化マグネシウム.いずれも経鼻胃管より食後に投与した.

5. 入院経過

当院に転院後は胃瘻造設の方向となり,経鼻からの1,200 kcalの注入を継続した.2024年1月初旬に仙骨部に表皮剥離をきたしたため注入時間の短縮を期待して粘度可変型の流動食に変更した.2月下旬に胃瘻造設前評価の上部消化管内視鏡検査を行ったところ,胃内に大型で白色の食物塊を認めた(図1).硬いアイスクリーム程度の硬さで大型であり内視鏡による短時間での破砕は困難とみられた.栄養剤変更前に撮影した1月初旬のplain computed tomography(以下,単純CTと略)では胃内に食物塊は認めず(図2a),2月初旬の単純CT(図2b)では横径約8 cmの塊を胃内に認めたため,粘度可変型流動食による胃石と診断した.粘度可変型流動食は継続し,内服薬も同様に継続した.胃石の溶解にはコーラが有効とする報告が多いが,炭酸水でも代用が可能との報告1)もあるため,まず炭酸水での溶解を試み,市販の強炭酸水500 mLで1日1回洗浄を行った.開始後1週間後の単純CTでは胃石は横径6 cmと軽度縮小にとどまった(図2c).次にコーラを使用する前に試みにベリチーム配合顆粒(共和薬品工業株式会社,大阪)1日3 gを毎食後に投与を開始した.1週間後に撮影した単純CTでは胃内の塊は消失しており(図2d),胃瘻造設時には胃石を認めず(図3),ベリチーム配合顆粒により消化されたと判断した.ベリチーム配合顆粒は胃瘻造設まで継続し終了した.

図1. 胃瘻造設前検査の上部消化管内視鏡検査所見

胃内に白色の大型胃石を認める.

図2. 単純CT画像

a:粘度可変型流動食に変更前のCT:胃内に胃石を認めない.

b:粘度可変型流動食に変更後のCT:胃内に直径約8 cmの胃石を認める.

c:強炭酸水で1週間洗浄後のCT:胃石は直径6 cm程度の縮小にとどまる.

d:消化酵素剤を1週間投与後のCT:胃石が消失している.

図3. 胃瘻造設時の上部消化管内視鏡検査所見

胃内に胃石を認めない.

胃瘻造設後は半固形流動食を使用し,半年後の胃瘻交換時の造影所見では胃内に食物塊の形成は認めなかった.

 考察

胃石とは,胃内に形成された難消化性の塊を指し,様々な物質によって形成される1).本邦では柿胃石の頻度が高い.スクラルファートや酸化マグネシウム1,2)やアルギン酸アトリウム3)などの薬剤(薬物胃石)が報告されている.本症例では酸化マグネシウムを投与しているが,胃石は単純CTで高吸収を示しておらず,関与は少ないと考えられる.胃瘻からの半固形栄養剤でも胃石を形成したとの報告もある4).胃石形成のリスク因子としては,胃内排泄遅延が関与するとされており,高齢者や糖尿病,胃酸分泌低下などが挙げられている1)

胃石症の症状は,約84%で腹痛,血便,膨満感,不快感などの症状を認めた5)とのことであるが,特異的な症状はない.胃潰瘍,胃穿孔6),胃の流出路の閉塞7,8),や小腸内に移動して落下胃石となり腸閉塞をきたすこともある9)

胃石症の治療は,コーラでの溶解がよく知られている10).Ladasらは植物胃石の91.3%がコカ・コーラ投与で溶解されたと報告しており11),Iwamuroらは植物胃石の治療の第一選択として考慮しうると述べるとともに,炭酸飲料でも溶解を促すことも示している5).岡川らの報告では,胃石溶解までのコーラの平均総投与量は3.9 Lで平均投与日数は3.9日であったとしている6).溶解療法以外では,内視鏡的治療として鉗子などによる破砕,電気水圧衝撃波結石破砕術および腹腔鏡・内視鏡合同手術(laparoscopy and endoscopy cooperative surgery;LECS)で治療したとの報告がある12).小腸に落下した落下胃石は,イレウス管からのコーラ投与で溶解したとの報告13)もあるが,外科的手術となる場合が多い.

粘度可変型流動食は胃酸の影響下で固形化する流動食である.経鼻胃管などの細径チューブからの投与が可能であり,胃内で固形化することにより誤嚥性肺炎や下痢の減少および注入時間の短縮による離床時間の確保,看護業務の軽減など様々な効果が期待されている14,15).本稿執筆時点で本邦で使用できる粘度可変型流動食はハネックスイーゲルのほかにマーメッドシリーズ(ニュートリー株式会社,三重)があるが,粘度可変の仕組みは前者がカルシウムを介したペクチンの重合,後者がアルギン酸の凝集と異なっている.本症例においては,胃内で固形化した食物塊が臥床状態やパーキンソン病による胃の蠕動不良で胃から排出しきれずに胃内で留まり胃石化したものと推測される.同製品(旧称 ハイネイーゲル)による胃石形成はPubMed上で1例報告があり,コカ・コーラにより溶解したと報告されている16)

今回使用したベリチーム配合顆粒は,1967年に販売が開始された消化酵素剤である.濃厚パンクレアチン,ビオヂアスターゼ1000,リパーゼ,セルラーゼを主成分としている.濃厚パンクレアチンは腸溶性顆粒であり胃石溶解に関与したのは後三者と考えられる.いずれも酸性環境下で活性を示し,ビオヂアスターゼ1000とリパーゼは,それぞれデンプン,蛋白質および脂肪を基質とし,セルラーゼは繊維素を基質とする.ペクチンは繊維素であるので,本症例の胃石消失に関与したのはセルラーゼと考えられる.胃石症治療の選択肢としてのセルラーゼはIwamuroらが紹介している17)

 結語

粘度可変型流動食は今後も使用が広がっていくことが予測される.臥床やパーキンソン病などで胃の排泄遅延を伴う高齢者では,胃石を形成するリスクがある.そのような患者では胃石症の可能性も念頭に置きつつ診療する必要がある.胃石症のコーラ溶解療法は柿胃石を基本とした治療であり,粘度可変型流動食により形成された胃石では,本症例のように消化酵素剤で容易に溶解されることもあるので試してみる価値がある.今後も経験した症例を集積し,有効な治療法を検討していく必要がある.

本論文は医学研究における倫理的問題に関する見解および勧告,症例報告を含む医学論文および学会研究発表における患者プライバシー保護に関する指針を遵守している.本論文の内容に関しては,患者・家族からの同意を得ている.

 

本論文に関する著者の利益相反なし

 

なお,本論文の要旨は第40回日本栄養治療学会学術集会で報告した.

引用文献
 
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