学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
委員会報告
成人短腸症候群患者の実態を調べるためのアンケート調査
千葉 正博加治 建唐沢 浩二熊谷 厚志田附 裕子藤谷 竜磨牧 宏樹米倉 竹夫佐々木 雅也JSPEN短腸症候群アンケートワーキンググループ
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電子付録

2025 年 7 巻 4 号 p. 211-215

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Abstract

【目的】成人短腸症候群患者の現状と治療実態を明らかにするためアンケート調査を行った.

【方法】本学会会員施設を対象に,2019年1月1日から2022年3月31日までに施設で治療を受けている成人短腸症候群患者のアンケート調査を実施した.

【結果】1,289施設のうち296施設(23%)から回答が得られた.患者は全国に存在し,在宅を含め幅広い施設で管理されていた.唯一の短腸症候群治療薬として本邦で認可されたテデュグルチドの使用は約半数の施設にとどまり,その理由としては,経済的理由,病態による影響などが挙げられていた.また,未解決の医療および社会的要望(以下,アンメットニーズと略)として,患者側からは外出時の問題などが,医療者からはガイドラインや診療の手引きがないことが挙げられていた.

【結論】短腸症候群は希少疾患にもかかわらず,全国の様々な施設で治療を受けている実情が見られた.必要とされるサポートも多岐にわたるため,今後は情報を共有する場が必要になるものと考えられた.

 目的

短腸症候群は,先天的あるいは後天的原因で腸管の大量切除が行われ,その結果生じる腸管機能不全の病態である.残存腸管機能に応じて生命予後に影響する重篤な病態であると同時に,患者の日常生活への負担も大きい疾患である1,2).本邦では,小児の短腸症候群患者の全国調査が2011年に行われた3).しかし,本疾患は希少疾患であることに加えて,原因疾患が多岐にわたることや診断基準が不明確なことなどから,既に認定されている炎症性腸疾患などを除き指定難病にはなっておらず,また食事制限や補助食品などの治療のみをしている患者では障害認定もされない.そのため,成人患者の全国の横断的な調査データは存在せず,どのような患者がどこでどのような治療を受けているのか,実態は不明のままである.

本研究では,全国の成人短腸症候群症例の現状と治療実態を明らかにし,アンメットニーズの集積を行うとともに,2021年に新たな短腸症候群治療薬として本邦で認可されたテデュグルチドの使用実態についても同時に検討することとした.

 対象および方法

日本栄養治療学会(以下,JSPENと略)の栄養サポートチーム稼働認定施設を対象として代表者(医師)に,2019年1月1日から2022年3月31日までに施設で治療を受けている成人短腸症候群症例のアンケート調査を実施した.なお,本研究では原因疾患や発症時期は問わず,残存小腸が3分の1以下,あるいは150 cm以下となった現在20歳以上の症例を対象とした.一次調査では,各施設で治療を受けている症例の有無と詳細な二次調査への参加の意思を,二次調査では治療を受けている症例の背景,病態,障害者認定の有無,日常生活自立度,栄養管理の状況,テデュグルチドの使用の有無,テデュグルチドを使用していない施設ではその理由,アンメットニーズを調査した.なお,テデュグルチドを使用していない理由およびアンメットニーズに関しては自由記載とした(Supplement 1,2).

本研究は,昭和大学における「人を対象とする研究等に関する倫理委員会」での一括審査で承認を得て(22-172-B)行われた.

 結果

アンケート送付時点で施設数は1,289施設であり,うち296施設(23%)から回答が得られた.

1. 一次調査結果

解答の得られた296施設の内50施設(17%)で短腸症候群症例の診療が行われていた.施設の内訳は,高度急性期病院18(36%),急性期病院28(56%),慢性期病院2(4%),回復期病院1(2%),介護施設0,その他1施設(2%)であり,これらの施設に計301症例が存在した.これらの症例を地域別に見ると,多い順に関東地方76症例(25%),近畿地方66症例(22%),中部地方57症例(19%),九州地方39症例(13%),東北地方24症例(8%),中国地方22症例(7%),北海道11症例(4%),四国地方6症例(2%)であった.地域ごとの施設別患者数の割合を表1に示す.主に急性期病院で診療されているものの,全ての地域で慢性期病院やクリニックなどの幅広い施設でも診療されていた.

表1.地域ごとの施設別患者数の割合

(%) 高度急性期病院 急性期病院 慢性期病院 回復期病院 その他
北海道 18 45 18 0 18
東北 13 63 0 17 8
関東 22 55 5 3 14
中部 16 61 12 5 5
近畿 17 74 3 3 3
中国 5 77 9 9 0
四国 17 67 0 17 0
九州 15 67 5 10 3

2. 二次調査結果

二次調査への参加を承諾した50施設のうち,18施設(36%)から計70症例の回答が得られた.施設の内訳は,高度急性期病院8(44%),急性期病院9(50%),その他1施設(6%)であった.70症例の背景を表2に示す.年齢は20歳代が少ないものの,他の年代では同程度の人数であった.原因疾患は,多い順に先天性28%,炎症性疾患28%,上腸管脈動脈閉塞症11%などであった.残存腸管長は約半数が150~75 cmであり,ほぼ半数で回盲部は切除されていた.また,73%の症例の日常生活はほぼ自立していた.しかし,24%の症例では何らかの介助が必要であり,内71%の症例は外出も困難な状況であった.一方,小腸機能障害認定を受けている症例は,22症例(31%)であった.

表2.症例の背景

男女比(人) 36:34
年齢(人)
 20代 2(3)
 30代 9(13)
 40代 11(16)
 50代 12(17)
 60代 15(22)
 70代 12(16)
 80代 9(13)
原因疾患(人)
 先天性 20(28)
 炎症性腸疾患 20(28)
 上腸管脈動脈閉塞症 8(11)
 放射性腸炎 2(2)
 悪性腫瘍 2(2)
 腹部外傷 1(1)
 その他 20(28)
残存腸管長(人)
 150~75 cm 37(53)
 75 cm≥ 20(29)
 不明 13(18)
残存腸管長別の回盲部無しの割合(%)
 150~75 cm 54
 75 cm≥ 45
 不明 不明
日常生活自律度(人)
 完全自立 43(61)
 ランクJ(ほぼ自立し外出も可) 8(12)
 ランクA(屋内生活自立,外出は介助) 5(7)
 ランクB(屋内生活も介助) 9(13)
 ランクC(寝たきり) 3(4)
 不明 2(3)

括弧内は割合(%)を示す.また,その他には原因が不明なものを含む.

なお,原因疾患に関しては重複症例を含む.

栄養管理に関しては,52症例(74%)で静脈栄養法(parenteral nutrition;以下,PNと略)あるいは経腸栄養法(enteral nutrition;以下,ENと略)によるサポートが必要であった.52症例の内,41例(79%)でPNが必要であり,その56%で脂肪乳剤の投与が行われていた.また,ENが必要であった症例は26症例(50%)で,82%は経口より経腸栄養剤を摂取していた.なお,PNあるいはENによるサポートが必要であった症例数は両治療を必要とした15症例の重複を含む.一方,二次調査への参加を承諾した18施設の内,12施設(67%)で食事指導が行われていた.全ての施設で少量頻回・低残渣食を基本としていたが,一部の施設では患者の生活スタイルや嗜好に合わせた調整も行われていた.

テデュグルチドを使用している,あるいは予定している施設は18施設中,高度急性期病院5施設,急性期病院3施設,その他1施設の計9施設(50%)であった.テデュグルチドを使用しない理由としては,適応患者がいない(4施設),新薬であり使用に不安がある(2施設),患者の経済的理由から(2施設),連日注射による投与が必要であり在宅での支援困難(1施設)が挙げられていた.参考としてテデュグルチドの適応,投与方法,薬価などを表3に示す.

表3.テデュグルチドの適応,投与方法,薬価

適応 投与方法 薬価
腸管の順応期間を経て,経静脈栄養量および補液量が安定した,あるいはそれ以上低減することが困難と判断された短腸症候群患者 1日1回0.05 mg/kgを皮下注射 73,683円/瓶(3.8 mg)

アンメットニーズに関しては,患者からの訴えとして,外出時に物品や食事の管理に難渋する,夜間睡眠時に心配で眠りが浅い,連日の点滴や注射が難しいということが挙げられていた.一方,医療者側からは,ガイドラインや診療の手引きがない,モニタリング方法などに悩んでいる,他院での治療経過の詳細が無く評価が難しい,中枢血管の閉塞のため中心静脈栄養法の導入が出来ず難渋している,細かな食事指導が難しいことが挙げられていた.

 考察

2014年に小児から成人まで含む短腸症候群患者に関する全国調査がドイツから報告された.規模別に無作為に抽出された478施設に対して行われ,有病率は100万人あたり34人と推定されている4).このことから推測すると,現在の日本には少なくとも4,200人前後の患者がいると推定され,5万人未満であることから希少疾患であることは自明の事実である.これらの患者の治療は,残存腸管長や腸管の残存部位によっても異なるが,その治療は非常に長期に及ぶ5).その間は栄養不良の他,腹痛・腹満などの消化器症状や排便回数の増加に伴う行動の制限などの身体的負担に加えて,成人では心理社会的負担が増加し,無力感から社会生活,家族生活などに影響し睡眠障害や慢性疲労に多くの患者が悩むこととなるとされている2).また,10年生存率は約52%と生命予後にも影響する重篤な疾患でもある1).しかし,原因疾患が多岐にわたることや診断基準が不明確なことなどから,既に認定されている炎症性腸疾患などを除き指定難病にはなっていない.また,小腸機能障害認定では,「随時中心静脈栄養法又は成分栄養剤を使用する必要があるもの」とされており,食事制限や補助食品などの治療のみをしている患者は認定されない.本邦では全数調査ではないものの,2011年に小児の全国調査が行われ良性疾患による腸管不全354例が集計され,年間200例前後の新規発症が考えられ,5年間のPN離脱率は35%,死亡率は12%であった3).しかし,成人患者の全国の横断的な調査データは存在せず,今回JSPEN会員施設を対象にアンケート調査を実施した.なお,短腸症候群の定義に関しては,残存腸管長が200 cm以下をとする報告もあるが6),本邦での小腸機能障がい1級および2級の認定要項を考慮して,今回のアンケートでは150 cm以下と比較的重症度の高い患者を対象とした.

一次アンケートの結果では,人口の多い地域で症例数も多い傾向が見られたが,対人口比で比較すると全国で明らかな偏在は見られなかった(データ未提示).地域別・施設別に見ると,どの地域でも主に急性期病院で診療されているものの,治療が非常に長期となるため,慢性期病院からクリニックまで幅広い施設でも診療されていた.二次アンケートの結果である症例背景をみると,原因疾患に関しては,一般的にクローン病,腸管膜動脈閉塞症,手術合併症などが多い疾患とされているが7),今回は炎症性腸疾患と同程度に先天性疾患が多く見られていたことは非常に興味深い.本結果からは,小児期に短腸症候群となり成人まで治療が継続されている患者が一定数存在することが推測される.栄養療法に関しては,150 cm以下と残存腸管長が短いことに加えて,腸管馴化に大きく影響する回盲部が半数の症例で切除されており,比較的重症度の高い患者を対象とした5).そのため,74%で栄養補助療法が必要であり,その内79%でPNの補助が行われていた.注目すべきは,PNが必要な患者の56%と比較的多い患者に,脂肪乳剤の投与が行われていたことである.在宅で脂肪乳剤を使用する場合,投与に数時間の時間が必要となること,中心静脈カテーテルから投与する場合には,投与後のカテーテルの交換,フィルターや輸注用のポンプの使用などが問題となる.これらには,入院中の患者や例え在宅であっても非定期的に投与されている症例も当然含まれると考えられるが,その投与法の情報の共有は,今後の在宅治療に有用と思われた.また,食事指導に関しては67%と,ある程度の症例が指導を受けられてはいるものの,管理栄養士が常駐していない,あるいは短腸症候群の管理に精通した管理栄養士がいない施設などでは指導が難しい場合もある.在宅患者訪問栄養食事指導や居宅療養管理指導が進み始めたとはいえ,その広がりには地域差もあり,保険内で行うためには指導頻度の制限も大きな問題となっているであろう.

一方,残存腸管長が,1級相当の75 cm以下が半数以上を占めており,かつ74%で経静脈あるいは経腸栄養の補助が必要であったにも関わらず,小腸機能障害の障がい者認定を受けていたのは約31%と予想より少なかった.これには,指定難病の患者が含まれていないことも一因と考えるが,高齢者が一定数存在することに加えて,24%の患者は生活をする上で何らかの介助が必要なことからも,介護保険を利用している可能性が考えられる.

一方,従来は薬物療法としては,止痢剤やプロトンポンプ阻害剤等が主に用いられていたが,腸管粘膜増殖作用に加え,粘膜バリア機能および吸収促進作用により,小腸切除後の残存腸管の機能的な改善をもたらすテデュグルチド(ヒトグルカゴン様増殖因子-2類縁体)が2021年に短腸症候群の唯一の治療薬として本邦で承認された.その効果は,国際共同第III相臨床試験では,24週の投与で静脈栄養投与量が20%以上減少あるいは2 L以上減少した患者の割合は約70%と非常に高いものであった8).しかしながら,その使用は,本邦では未だ限定的であった.短腸症候群は,特定疾患にも長期高額疾病にも該当しないため高額療養費制度を利用しても,テデュグルチドを使用するためには,ある程度の経済的負担が問題となってくる可能性がある.

今回は,JSPEN栄養サポートチーム稼働認定施設に限定した探索的な調査であり診療所や小規模施設などが一部を除いて網羅されていないため,本邦の現状の一面を見ているに過ぎない.とは言え,さまざまな有用な意見も確認することができた.短腸症候群の治療には,ガイドラインや診療の手引きがないなど,必要なサポートは多岐にわたって存在する.問題は,治療に精通した医療者が必ずしも常駐していないさまざまな施設で,個別に診療されている点であろう.ただし,希少疾患とはいえ全国に普遍的に存在する疾患であり,今後は情報を共有し治療を均一化する対策が必要となるものと考えられた.

 結論

短腸症候群は希少疾患にもかかわらず,全国の様々な施設で治療を受けている実情がみられた.必要とされるサポートも多岐にわたり,今後は情報を共有し,対策を相談する場が必要になるものと考える.

 謝辞

アンケートにご回答くださったJSPEN会員の皆様,ならびに多大なるご協力をいただいた丸山道夫先生,JSPEN事務局 四方康之様に深謝申し上げます.

 

筆頭著者は,過去3年間に武田薬品工業株式会社から,共著者の加治建は武田薬品工業株式会社および株式会社大塚製薬工場から講演謝礼を受理している.

 

以下の資料はJ-STAGEにおいては電子付録として掲載している.

Supplement 1 一次アンケート調査書

Supplement 2 二次アンケート調査書

引用文献
 
© 2025 一般社団法人日本栄養治療学会
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