2026 年 8 巻 1 号 p. 11-14
今回,膀胱がんを契機とした小腸膀胱瘻により空腸人工肛門造設を行った患者に対してテデュグルチドを使用した1例を経験したので報告する.
70代,女性.人工肛門造設後に自宅退院していた.退院1カ月後に人工肛門排液の増加,体重減少,低ナトリウム血症を認め近医で輸液管理されていたが,増悪したため当院入院となった.入院後も人工肛門排液量のコントロール不良であり,第16病日に栄養サポートチームの介入を開始し,食事の調整と静脈栄養にて人工肛門排液量と尿量はともに安定した.第60病日に,退院に向けて腸管からの吸収改善を目的にテデュグルチドを開始した.便性状は固形化し,血中シトルリン値の増加を認めたため,静脈栄養を減量した.テデュグルチドの投与は便性の改善と静脈栄養の減量に有効であった.
成人短腸症候群は大量腸管切除・残存腸管の機能障害を認め,残存小腸150 cm以下になった状態と定義されている.栄養管理は経腸栄養と静脈栄養(parenteral nutrition;以下,PNと略)の併用を主体とするが,PN管理による肝障害1)や,Quality of lifeの低下2)をきたすことが問題となる.
Glucagon-like peptide-2(以下,GLP-2と略)は腸管内の栄養素に反応して回腸末端から結腸にかけて存在するL細胞より産生されるホルモンであり,腸管の延長や絨毛高の延長,陰窩細胞の増殖を促す作用があると報告されている3).テデュグルチド(レベスティブ®;武田薬品工業株式会社,東京)はGLP-2のジペプチジルペプチターゼIVによる分解耐性を持ち半減期を延長させたアナログ製剤である.近年,短腸症候群に対するテデュグルチド使用が本邦で可能となり,その有効性が報告されている.
今回,膀胱がんを契機とした難治性小腸膀胱瘻により,上部空腸人工肛門造設を行った短腸症候群の患者に対して栄養サポートチーム(nutrition support team;以下,NSTと略)の介入中にテデュグルチドを用いて症状が改善した成人短腸症候群の1例を経験した.
70歳代女性.
2. 主訴ふらつき.
3. 既往歴骨粗鬆症,子宮頸がん術後,甲状腺機能低下症.
4. 内服薬ロペラミド塩酸塩,酪酸菌.
5. 病歴X – 3年12月:膀胱がん,多発リンパ節転移に対して経尿道的膀胱切除術施行後,ポート型中心静脈カテーテルを造設し化学療法を施行した.
X – 2年12月:膀胱がんの局所再発を認め,経尿道的膀胱切除術を施行後,化学放射線療法を施行した.
X年3月:腸閉塞および糞尿を認めるようになり,小腸膀胱瘻が認められたことから開腹術を施行したが,腸管の癒着により根治術が困難であったため,トライツ靭帯から120 cm部に双孔式小腸人工肛門を造設し,自宅退院となった.
X年4月:近医にて外来通院を継続するも,脱水,低ナトリウム血症のため輸液管理を継続した.
X年7月:体重減少および低ナトリウム血症の増悪を認めたため当院入院となった.
6. 来院時現症【身長】150.8 cm【体重】34.6 kg(人工肛門造設時は42 kg)【Body mass index】15.2 kg/m2
7. 来院時血液生化学検査所見表1.
| AST | 82 U/L |
| ALT | 118 U/L |
| アルブミン | 4.5 g/dL |
| 尿素窒素 | 41 mg/dL |
| クレアチニン | 1.59 mg/dL |
| eGFR | 25.4 mL/分/1.73 |
| ナトリウム | 120 mmol/L |
| カリウム | 3.7 mmol/L |
| クロール | 74 mmol/L |
| マグネシウム | 1.14 mg/dL |
| 血清亜鉛 | 61 μg/dL |
| 赤血球数 | 4.20 × 106/μL |
| ヘモグロビン濃度 | 14.3 g/dL |
| ヘマトクリット値 | 39.8% |
| 白血球数 | 4.7 × 103/μL |
| 好中球数 | 70.7 × 103/μL |
| リンパ球数 | 21.6% |
入院後,食事摂取は良好であり常食(エネルギー1,600 kcal,蛋白質65 g,脂質50 g)を全量摂取されていた.栄養状態の改善を目的に半消化態経腸栄養剤(エネルギー1,050 kcal,蛋白質39.9 g;エンシュア®,エネーボ®;アボットジャパン合同会社,東京)の経口摂取を開始したが,人工肛門排液量が5,000 mL/日まで増加し,尿量減少と体重減少を認めた.第16病日にNST介入依頼があり,腸蠕動亢進による腸液量の増加に伴った水分・電解質・栄養管理が必要と判断し,半消化態経腸栄養剤を中止し,PNを開始(エルネオパ®NF1号輸液1,000 mL/日;株式会社大塚製薬工場,徳島)した.排液量は2,000 mL/日まで減少し,尿量も安定した.その後,PNの増量(エルネオパ®NF2号輸液1,500 mL/日;株式会社大塚製薬工場,徳島)に伴って浮腫による急激な体重増加を認めたが,利尿剤を併用し標準時体重で安定した.脱水が改善したことを確認し,腸管からの吸収改善を目的に,第60病日にテデュグルチド1日1回0.05 mg/kgの皮下注射を開始した.同日のクレアチニンクリアランスは50.97 mL/minであり,投与量は1日1回0.05 mg/kgとした.便性は人工肛門造設後から水様便であったが,テデュグルチド開始後は泥状便であった.PNの減量(エルネオパ®NF2号輸液1,000 mL/日)を行い,排液量や尿量の変化がないことを確認し,第74病日に退院した.NSTは第16病日から退院まで介入し,週1回,回診を行った.第16病日以降の排液量の確認やPNの増減,テデュグルチド開始等はNSTの提案のもと行われた.

退院後もテデュグルチドは継続し,月に1度外来診察時に尿量や排液量,検査所見を確認しPNの調節を行った.経口摂取は特に制限なく行うこととした.退院4カ月後にはPNをさらに減量(ワンパル®1号輸液800 mLを隔日投与;エイワイファーマ株式会社,東京)することが可能であった.テデュグルチド投与前および投与後3カ月に血中シトルリン値(基準値17~51 nmol/mL;株式会社SRL,東京)の測定を液体クロマトグラフィー法で質量分析を行った.血中シトルリン値の20.7 nmol/mLであったが,投与後3カ月には35.4 nmol/mLまで上昇した.便性は普通便まで改善する日もみられた.投与経過中にテデュグルチド投与による既知の合併症である小腸人工肛門のサイズ増大を認めたが,その他に腸閉塞や人工肛門の閉塞等の重大な合併症を疑う所見は認めなかった.
退院4カ月後は,尿量は1,300 mL/日前後,体重は43 kg前後で安定した.血液学的検査所見を表2に示す.肝・腎機能に異常はなく,貧血の所見もなく,血清亜鉛値,電解質濃度も基準値内であった.また,画像評価において腫瘍の増悪は認めず,血清腫瘍マーカーの上昇も認められなかった.現在,使用後1年が経過し,テデュグルチド投与を継続している.
| AST | 24 U/L |
| ALT | 18 U/L |
| アルブミン | 4.0 g/dL |
| 尿素窒素 | 19 mg/dL |
| クレアチニン | 0.79 mg/dL |
| eGFR | 54.4 mL/分/1.73 |
| ナトリウム | 139 mmol/L |
| カリウム | 4.5 mmol/L |
| クロール | 101 mmol/L |
| マグネシウム | 2.07 mg/dL |
| 血清亜鉛 | 106 μg/dL |
| 赤血球数 | 3.92 × 106/μL |
| ヘモグロビン濃度 | 11.8 g/dL |
| ヘマトクリット値 | 36.6% |
| 白血球数 | 4.2 × 103/μL |
| 好中球数 | 46.4 × 103/μL |
| リンパ球数 | 43.0% |
成人短腸症候群において,小腸人工肛門の場合は適切な尿量,排液量管理は重要な要素と言える.適切な食事・薬物療法を行っても排便量が3,000 mL/日を超える場合は少量の食事に留めるなどの食事管理が必要となる4).特に腸液の漏出が原因となる電解質漏出はモニタリングが必要である5).小腸人工肛門の場合,排液のナトリウム濃度が高いため,低ナトリウム血症をきたしやすい.
短腸症候群患者の栄養量および水分量の不足は,腸切除によって吸収のための表面積が減少していることだけではなく,消化管上皮細胞から分泌される様々なホルモンによる消化管機能の変化が関与すると考えられている6).短腸症候群ではどの程度の尿量が最適であるかのエビデンスは乏しいが,尿路結石予防としては1,200 mL/日以上,尿路結石再発予防としては1,500 mL/日以上が目安とされている7).テデュグルチドの主な目的は腸管吸収を増大し,排液量を減少させ,PN依存の軽減さらには離脱することにある.Jeppesenらの成人治験では静脈栄養量を開始前より20%以上減量した症例が45.7%であったと報告している8).本症の経験ではテデュグルチドの投与開始後は排液量,尿量は安定しており,PNは最大投与量から約70%減量できた.
テデュグルチドの投与期間や輸液減量方法は確立しておらず,本症もPNの増減は体重をみながら検討してきた.十二指腸以下残存小腸の長さと脂肪の消化吸収量に相関するとされる血中シトルリン値9)の血中濃度は上昇を認め,便も水様から泥状に変化していることから,小腸の消化吸収効率が改善していると考えられた.
テデュグルチドは胃,小腸,肝胆道系および膵臓にポリープや増殖性変化が認められる可能性があるため,同部位に悪性腫瘍を有する患者は原則禁忌である.本症は膀胱がんであったことから,腫瘍への影響は認めないと判断し治療を行った.テデュグルチドの悪性腫瘍への影響については,24週の長期投与を行った試験の報告では原発不明がんの肝転移が報告されており,因果関係の可能性が示唆されている10).本症においては9カ月と短期的ではあるが,明らかな腫瘍の増悪は認められていない.長期的使用報告はまだ乏しく,今後も観察が必要である.
NSTの介入とテデュグルチド投与により安定した経過となり便性の改善とPNの減量に有効であった.
本論文の執筆にあたり,久留米大学医学部 泌尿器科学講座 井川掌教授,築井克聡先生には終始適切なご指導を賜りました.ここに深謝の意を表します.
本論文は「症例報告を含む医学論文および学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」を遵守しており,患者からの同意を得ている.
本論文に関する著者の利益相反なし