日本内分泌学会雑誌
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ラット性機能分化に及ぼす出生前androgen投与の影響
(II) 性周期, 交尾能, 解剖結果について
小林 文彦
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1967 年 43 巻 1 号 p. 30-42_1,4

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抄録
Wistar系ラットを妊娠させその妊娠後期にtestosterone propionate (TP) を連続 (妊娠第15~21日;1日量0.05, 0.1, 0.5, 5.0mg/rat) 又は1回 (妊娠第15, 18, 21日;5, 10mg/rat) 皮下投与し, 出生仔性機能分化に及ぼす影響を性周期, 交尾能, 解剖所見などより調べた.得られた結果を概括すると, (1), TP1日0.05mg, 0.1mg連続投与群ラット及び妊娠第15日1回投与群ラットは対照と同様正常な性周期を示した.これに対しTP1日0.5mg連続投与i群並びに妊娠第21日1回投与群ラットは膣垢に角化細胞が連続して出現するいわゆる連続発情 (persistent estrus) を示すのが特徴的であつた.しかもこの連続発情はprogesterone投与によつても中断されなかつた. (2), 正常性周期を示した雌ラットの交尾能は対照と何ら差がないが, 連続発情が認められた雌ラットは殆んど交尾しなかつた.雄ラットの交尾能も対照に比し低下を示し, 特にTP連続投与群で著明であつた.雌ラットに於ける交尾能の低下は外性器部位の形態異常が大きな原因と考えられるが交尾例もあることより中枢性変化による原因を除去し得ない. (3), 生後130日目の雌ラット解剖結果ではTP投与群ラット下垂体重量が対照に比し減少を示したが卵巣, 子宮重量は対照と特に差がなかつた.一方生後160日目の雄ラット解剖結果では下垂体, 睾丸重量が対照に比し減少を示したが, 前立腺, 貯精のうなどの重量は投与形式との問に一定の関係がなく減少傾向を示すのみであつた. (4), 卵巣の組織所見は極めて特徴的であつた.即ちTP投与群でも正常性周期を示すラット卵巣は対照と同様種々発育段階の濾胞及び黄体によりしめられていた.これに対し膣垢に角化細胞が連続して出現した連続発情ラット並びに全く膣開口を示さなかつたラットでも, 黄体が無く大濾胞のみより成る卵巣及び濾胞と黄体の両者が存在する卵巣の2種が認められた. (5), 雌ラット下垂体中gonadotropin含量を調べたところ, TP投与群ラットのFSH活性は対照に比し増加の傾向を示したが著差はなく投与形式との関係も明確でなかつた.一方LH活性はTP連続投与群ラットでは投与量の増加につれ減少を示したが1回投与群ラットではこのような減少は認められなかつた.
以上の諸結果より妊娠ラットに投与したandrogenの影響は胎盤を介して胚仔に及び, 一方では中枢的に作用し胚仔視床下部の性機能分化に影響を及ぼしgonadotropinの周期的産生, 放出を支配している視床下部の機能発現を抑制し, 卵巣では黄体欠如, 濾胞の異常発育を生じ, 濾胞より分泌されるestrogenの作用により腔垢の連続角化を生ずるが, 又他方では末梢的に作用し外性器部位の男性化を生ずると同時に膣に直接作用し腔壁の細胞分化に不可逆的変化を生じその結果腔垢の連続角化を生ずるという2つの作用機序を有することが明らかである.
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