抄録
Wistar系ラットを妊娠させその妊娠後期にtestosterone propionate (TP) を連続 (妊娠第15~21日;1日量0.05, 0.1, 0.5, 5.Omg/rat) 又は1回 (妊娠第15, 18, 21日;5, 10mg/rat) 皮下投与し, 出生仔性機能分化に対する影響を調べた.得られた結果を概括すると,
(1).TP連続投与群妊娠ラットの分娩は5mg投与の1例を除き正常であつたが, 1回投与群ラットでは妊娠第18日, 第15日と妊娠中期に近く投与されるほど分娩遅延が著しかつた.
(2).胚仔再吸収はTP連続投与の場合は投与量の増加につれ, 又1回投与の場合は妊娠中期に近く投与されるほど著明であつた.
(3).TP連続投与群では投与量の増加につれ, 又1回投与群では妊娠第18日投与により雌新生仔肛門-外性器間距離 (AGD) の伸長即ち男性化 (masculinization) が認められた.一方雄新生仔AGDは対照と著差を示さなかつた。このAGDに出現する変化は仔体重の変動と特に一定の関係がなく, 胚仔発育と独立した変化である.
(4).TPl日0.5mg以上連続投与並びに妊娠第18日1回投与により出現した雌ラットAGDの伸長は生育につれ対照との差がより著明となり何ら正常への回復傾向を示さなかつた.さらに出生時AGDの伸長がなかつた妊娠第21日1回投与群雌ラットも生育につれ男性化を示した.一方雄ラットAGDは生育につれ短縮の傾向を示したが投与量, 投与時期との間に一定の関係を認め得なかつた.
(5).腔開口を指標とする雌ラット性成熟, penis形態変化を指標とする雄ラット性成熟ともにTP投与群ラットは対照に比し遅延を示した.又TP1日5mg連続投与群並びに妊娠第18日1回投与群雌ラットは全く腔開口を示さず, TPO.5mg連続投与群, 妊娠第21日1回投与群雌ラットの外性器部位は形態的に異常を示した.
以上の諸結果は胎生期に投与したandrogenが末梢的に外性器部位に作用し雌胚仔男性化を生ずる以外に, 性成熟遅延現象に明らかなように中枢的に作用し性機能発現に影響している可能性を示唆するものである.