沿岸海洋研究
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2011年東北地方太平洋沖地震以降5年間の 三陸沿岸大槌湾における栄養塩環境の変化
福田 秀樹楊 燕輝高巣 裕之西部 裕一郎立花 愛子津田 敦永田 俊
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2017 年 54 巻 2 号 p. 105-116

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抄録

2011年3月11日の2011年東北地方太平洋沖地震に伴う大津波の襲来により,三陸沿岸の内湾域では海岸地形の変化や堆積物の流出といった物理的な攪乱が生じたほか,藻場や干潟の流出,漁業施設や都市機能の損壊など,湾内の物質循環系を取り巻く環境に変化が生じた.我々は震災以降,五年間にわたって岩手県のリアス海岸の中ほどにある大槌湾を対象に栄養塩類の分布に対する大津波の影響を検討してきたが,本論文では,既に結果を報告している三年目に続く,2014年5月から2016年3月までの二年間の調査結果を報告する.大槌湾では2011年11月から2012年3月までの期間に顕著なリン酸塩の蓄積が見られ,全無機態窒素(TIN)とリン酸塩のモル比(TIN/P 比)は震災前には約10であったが6程度まで減少した.これらの低TIN/P 比は陸起源有機物や堆積物からの相対的にリンの寄与が高い栄養塩類の放出による可能性が考えられる.一方で,以降の2014年3月までの期間では,特に鉛直混合が強まる時期にTIN/P 比の平均値は12-13と震災前よりも高くなっていた.2014年5月以降の混合期におけるTIN/P 比の平均値は,それ以前の二年間の同時期よりも低くなったものの,2016年の初頭でも依然として震災前よりも高い状態が続いていた.

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© 2017 日本海洋学会 沿岸海洋研究会
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