2018 年 55 巻 2 号 p. 113-124
沿岸海域における海水中の栄養塩濃度低下と栄養塩循環に係る海底堆積物の役割について,主に著者のグループが得た知見を総合して考察した.瀬戸内海は高度経済成長期には著しく富栄養化が進行したが,1973年の瀬戸内法の施行以降には,栄養塩濃度は徐々に減少している.特に無機三態窒素(DIN)濃度の減少は主には瀬戸内法の効果と考えられるが,それだけでは説明できない.著者らのこれまでの研究結果を総合して考えると,沿岸海域では,海底堆積物からの栄養塩溶出が水柱の栄養塩濃度に大きく影響していると考えられた.さらに,堆積物からの栄養塩溶出量測定には問題が残されているものの,栄養塩の溶出が水温や表層堆積物の有機物含量に制御されている事や,ベントスの影響は少ない事が明らかとなった.