こころの科学とエピステモロジー
Online ISSN : 2436-2131
原著論文
間身体性から見た対面とオンラインの会話の質的差異
田中 彰吾 森 直久
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研究報告書・技術報告書 オープンアクセス

2022 年 4 巻 1 号 p. 2-17

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抄録

新型コロナウイルスの感染拡大にともなって、オンライン会議システムを利用する機会が増え、テレワークや遠隔授業を通じて社会に定着しつつある。オンラインでの会話と対面での会話に違いがあることはすでに広く認知されているが、具体的にどのような質的差異があるのかは必ずしも明らかにされていない。本稿は、現象学者メルロ゠ポンティの「間身体性」の観点を応用して、この差異を解明することに取り組む。間身体性は、自己の身体と他者の身体とのあいだに潜在する相互的・循環的な関係性であり、非言語的コミュニケーションの同期と同調を通じて表出する。対面での会話場面とオンラインでの会話場面の観察データを間身体性の観点にもとづいて比較・分析すると、両者には、視線・姿勢・距離など、非言語の身体的相互作用において大きな違いが見られる。対面での会話は、自他間の身体的相互作用から創発する「あいだ」(または「間(ま)」、「場」)によって会話の過程と内容が左右され、情動や気分が参加者間で共有されやすい。これに対して、オンラインでの会話は身体的相互作用が貧弱になるものの、参加者間で創発する「あいだ」による拘束を受けにくく、明示的な言語的メッセージのやり取りや、個人的な見解に踏み込んだ意見の交換を促進しやすい。

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© 心の科学の基礎論研究会
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