日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: P2-015c
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シロアリと卵擬態菌核菌の共生
*松浦 健二
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抄録

擬態は幅広い分類群に見られる戦術であり、「だます側」と「見破る側」の軍拡競争の好例として、進化生態学の分野では盛んに研究されてきた。高等動植物による巧みな擬態の例は無数に知られているが、菌類による擬態をご存知だろうか。ここで、世界初の「シロアリの卵に擬態するカビ」について発表する。シロアリのワーカーは、女王の産んだ卵を運んで山積みにし、世話をする習性がある。このようにしてできる卵塊の中に、シロアリの卵とは異なる褐色の球体(ターマイトボール)が見られる。この球体のリボソームRNA遺伝子を分析した結果、Athelia属の新種の糸状菌がつくる菌核であることが判明した。菌核とは菌糸が柔組織状に固く結合したもので、このかたちで休眠状態を保つことができる。卵塊中に菌核が存在する現象は、ヤマトシロアリ属のシロアリにきわめて普遍的にみられる。日本のReticulitermes speratusと同様に、米国東部に広く分布するR. flavipesおよび米国東南部に生息するR. virginicusも、卵塊中にAthelia属菌の菌核を保有することが判明した。シロアリは卵の形状とサイズ、および卵認識物質によって卵を認識する。この菌核菌はシロアリの卵の短径と同じサイズの菌核をつくり、さらに化学擬態することによって、シロアリに運搬、保護させている。シロアリは抗菌活性のある糞や唾液を巣の内壁に塗って、様々な微生物の侵入から巣を守っている。卵に擬態することによって巣内に入り込んだ菌核菌は、一部が巣内で繁殖し、新たに形成された菌核はさらに卵塊中に運ばれる。卵塊中の卵よりも菌核の数の方が多いこともしばしばある。シロアリのコロニーが他の場所に移動する際や、分裂増殖する際には、菌核菌もそれに乗じて移動分散することができる。日本および米国におけるシロアリと卵擬態菌核菌の相互作用について議論する。

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