日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: S3-5
会議情報
知床岬の海岸草原植生の変化
*石川 幸男佐藤 謙
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

知床岬においては、1980年代半ば以降に急増したシカの採食によって植物群落が大きく変質した。岬の草原と背後の森林を越冬地として利用するとともに、植物の生育期にもこの地にとどまっているシカは、1980年代初めまではほとんど観察されなかったが、1990年代終わりには春先で600頭を超える個体数が確認されるようになった。その後、個体群の崩壊と回復が起こっている。
 1980年代初頭まで、海岸台地の縁に位置する風衝地にはガンコウラン群落とヒメエゾネギ群落が分布していた。また台地上には、エゾキスゲ、エゾノヨロイグサ、オオヨモギ、オニシモツケ、ナガボノシロワレモコウ、シレトコトリカブトやナガバキタアザミ等から構成される高茎草本群落、イネ科草本(ススキ、イワノガリヤスやクサヨシ等)群落、およびクマイザサ、チシマザサやシコタンザサからなるササ群落も分布していた。
 2000年に行った現地調査の結果、ガンコウラン群落は消滅に近く、シカが近寄れない独立した岩峰などにわずかに残っていた。ガンコウラン群落が消滅した場所にはヒメエゾネギが侵入していた。かつての高茎草本群落も激減し、エゾキスゲ、エゾノヨロイグサ、オオヨモギ、オニシモツケ、ヨブスマソウ等はほぼ消滅した。クマイザサとチシマザサも現存量が著しく減少した。一方、1980年初頭までには6種のみだった外来種、人里植物は、2000年には20種が確認された。また、シカの不食草であるハンゴンソウとトウゲブキが群落を形成し、外来種のアメリカオニアザミも急速に群落を拡大しつつある。
 失われかかっているこれらの群落の保護を目的として、2003年より防鹿柵を設置して、ガンコウラン、ヒグマの資源であるセリ科草本、シレトコトリカブトなどの亜高山性草本の回復試験を開始している。またアメリカオニアザミの駆除も開始した。

著者関連情報
© 2004 日本生態学会
前の記事 次の記事
feedback
Top