日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: S6-3
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種多様性の緯度勾配:岩礁潮間帯固着生物群集のマルチスケールでの変異性
*奥田 武弘野田 隆史山本 智子伊藤 憲彦仲岡 雅裕
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抄録

地域スケールの種多様性の緯度勾配は生態学において最も普遍的なパターンのひとつである。しかし、地域スケールの多様性の空間的構成要素(α・β多様性)の緯度変異とその決定機構はよくわかっていない。また、相対的現存量を考慮した多様性尺度における緯度勾配パターンもよくわかっていない。
 そこで、岩礁潮間帯固着生物群集を対象に空間スケールを階層的に配置した調査を行い、1)地域多様性の緯度勾配は存在するのか、2)地域多様性における各多様性成分の緯度勾配とその相対貢献度は空間スケールに依存してどのように変化するのか、3)種多様性の緯度勾配は種の豊度とシンプソン多様度指数で異なるのか、について調べた。
日本列島太平洋岸(31°Nから43°N)に6地域、各地域内に5海岸、各海岸内に5個の調査プロットを設定し、固着生物を対象として被度と出現種数を2002年7月と8月に調査した。被度からシンプソン多様度指数を、出現種数から種の豊度を求め、空間スケールに応じて加法的に分解した(γ=α+β)。また、γ多様性に対するα多様性とβ多様性の貢献度の空間スケール依存性を地域間で比較するためにABRアプローチ(Gering and Crist 2002)を用いて解析を行なった。その結果、地域の種の豊度において明瞭な緯度勾配が見られた。また、海岸間の種組成の違いに緯度勾配が見られたが、その他の多様性成分には緯度勾配は見られなかった。一方、シンプソン多様度指数では全ての空間スケールで緯度に伴う明瞭なパターンは見られなかった。ABRアプローチの結果、種の豊度においては低緯度ほどβ多様性の相対的貢献度が高くなっていたが、シンプソンの多様度指数では緯度に伴うパターンは見られなかった。以上の結果から、普通種の相対的現存量には緯度に伴った変化はなく、海岸間での希少種の入れ替わりが地域の種の豊度における緯度勾配を生み出していると考えられる。

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© 2004 日本生態学会
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