日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: S6-7
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生態系保全のためのランドスケープアプローチ
*三橋 弘宗
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抄録

保全に関連した研究の到達点の一つは、野生生物の生息可能性とこれに寄与する環境要因や生物間相互作用の影響を定式化して、空間的に評価することにある。端的に言えば、地図として生息可能性の濃淡を塗り分けることだ。地図化を行うことで、異なる分野の地図とのオーバーレイが可能となり、コンフリクトが生じている地域を視覚的に検出することが可能となる。土木工事や大規模開発による環境の改変による生物種の分布動態を予測することを念頭をおけば、単に生物の分布リストから分布図を作成するだけでなく、生物と環境との関係性から評価しなければ、環境改変による影響を定量化することが出来ない。さらに言えば、比較的小スケールの生息場所評価だけでなく、隣接する生息場所の状況も検討しなければ、環境改変による周辺への波及効果を予測できない。周辺に良好な生息場所が広がっている場合と孤立化している場合では同じ面積の開発でも影響が異なると予想される。つまり、生態系保全という目的を掲げる限り、隣接関係の記述は避けて通れない。多くの生物が、移動分散を繰り返して生息することを考えれば当然のことであるが、問題は、隣接関係を参照する空間スケールをどのように設定するか、という点にある。
今回の講演では、カスミサンショウウオとタガメ等のいくつかの材料を取りあげ、隣接関係の空間スケールの設定に関する方法論を検討し、地図として生息場所評価を試みた事例を紹介する。また、材料となる生物種によって影響する隣接関係の範囲が極めて異なること、解析する空間範囲によっても影響する環境要因が変化することを具体的な事例から紹介し、比較的小スケールでの生態学的な研究成果を広域的に敷衍する方法を示す。

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© 2004 日本生態学会
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