抄録
日本各地でアライグマの侵入による生態系への影響が危惧されており、アライグマの侵入が進行している北海道においては、ニホンザリガニやエゾサンショウウオといった在来希少種の捕食やアオサギの営巣放棄などの影響が確認されてきた。しかし、在来中型哺乳類との競合関係については、在来種目撃の減少などといった状況証拠は寄せられてはいるものの、具体的な影響評価は課題として残されてきた。そこで、本研究では、札幌市近郊の野幌森林公園においてラジオテレメトリー法を用いた行動解析を行い、在来種エゾタヌキと外来種アライグマの種間関係の解明を試みた。
野幌森林公園には1990年代半ばよりアライグマが侵入し、現在は北海道の試験的駆除が継続されているが、アライグマ駆除作業が進むにつれて在来種エゾタヌキの生息数が回復を示すデータが得られている。本研究では、同所的に生息するアライグマとエゾタヌキの両種に電波発信機を装着し、位置関係を追跡することから両者の環境利用及び行動圏の配置について分析を行った。2003年春に捕獲したアライグマ9頭(♂1/♀8)及びエゾタヌキ5頭(♂1/♀4)に首輪式小型電波発信機を装着し、基本的に毎日日中の休息場所の記録、および6月・7月には各月4回、行動圏の重複するアライグマとエゾタヌキについて1時間ごとの位置を24時間連続で記録した。途中、疥癬症の蔓延のために死亡するタヌキ個体もあり、調査個体数が減少する事態に見舞われたが、得られたデータからは、本来タヌキが好んで利用していたと考えられる人家周辺領域はアライグマによって占有され、タヌキは森林内部を利用している傾向が示された。また、調査地周辺農家などの聞き込み調査においては、この地域にタヌキが生息していることすら認知していない農民も多く、このことからも人家周辺地域はアライグマによって占有されていることが裏付けられた。