日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: S7-8
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野生サクラソウの連鎖地図作成と保全への応用
*上野 真義田口 由利子永井 美穂子大澤 良津村 義彦鷲谷 いづみ
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抄録

個体の適応度は個体群の存続に大きく影響することから、適応度に関する情報は個体群の存続についてモデル構築を行う際には重要である。適応度を減少させる近交弱勢と他殖弱勢は絶滅危惧種個体群の保全や復元に際して考慮すべき事項である。近交弱勢は個体数の減少にともない表面化し、致死因子や弱有害遺伝子がホモ接合体になる確率の増加が原因と考えられている。一方で他殖弱勢は局所的環境に適応した個体群間に由来する個体の交配後代で表れることがあり、適応した対立遺伝子や共適応遺伝子複合体(coadapted gene complex)との関係が示唆されている。しかしながらこれらの遺伝的機構は完全に解明されているわけではない。従って近交弱勢と他殖弱勢に関してその機構を明らかにすることにより、個体群の持つ遺伝的変異や遺伝構造と絶滅確率の関係をより正確に定量化することができる可能性がある。
適応度に関連する形質は一般に複数の遺伝子座(Quantitative Trait Loci: QTL)が関与し環境の影響も受けて量的な変異を示す。このようなQTLを解析するにはDNAマーカーでゲノム全体の連鎖地図を構築し、対象とする量的形質に連鎖したマーカーを解析する方法(QTL解析)が有効である。個々のDNAマーカーは自然選択に対して中立であるが、連鎖を利用することによって単独のDNAマーカーでは困難な量的形質に関する十分な洞察を得ることが可能となる。
本研究ではサクラソウ保全の観点から適応度に関連する諸形質を連鎖地図上に把握することを目標にしている。そのための家系を育成し、両親間で多くの多型が期待できるマイクロサテライトマーカーを主に用いて連鎖地図の構築を行っている。本発表では現在までの進歩状況を報告し連鎖地図を用いることにより得られる知見と保全への応用に関して議論する。

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© 2004 日本生態学会
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