日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: O2-X05
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知床半島におけるヒグマの冬眠穴の構造と立地条件の特性
*山中 正実岡田 秀明
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抄録

クマ類は中型以上の哺乳類で唯一冬眠を行うことが知られており、しかも、妊娠したメスは冬眠中に出産と育児も行う特異な生態を持っている。冬眠はクマ類の生活史の中で極めて重要な位置を占めるが、北海道に生息するエゾヒグマでは冬眠穴の立地する環境やその構造について十分な研究は行われていない。
本研究では、1989年から2004年の間、知床半島において46例のヒグマの冬眠穴の位置を特定し、内21例について計測を行った。
ヒグマの冬眠穴は、樹木の根張りを利用してその下に掘り込むタイプ(ST型)と樹木に依存することなく地面に掘る土穴(S型)に分けられる。また、自然の穴を利用するものは岩穴と樹洞に分けることができる。本研究では冬眠穴のタイプを確認できた25例中20例(80%)がS型であった。また、構造は入り口が一つで、その奧に寝床がある単純な構造であった。入り口から寝床まで直線的は位置されたものが13例(62%)で最多であった。奥行きは平均2.14m、最大幅は平均1.32mであった。
知床半島では、冬眠穴は海岸段丘斜面など低標高の海岸部から高山帯のハイマツ帯まで幅広い環境に存在しており、46例中半数の23例は高木層を欠く高山・亜高山植生の地域や海岸段丘斜面にも立地していた。これらはダケカンバを中心とする高木層を持つ上部広葉樹林帯の森林内に冬眠穴が集中的に分布するとした大河(1980)による支笏湖周辺での立地条件と大きく異なっていた。また、知床半島では支笏湖周辺では確認されなかった人間の活動域に近接した場所の冬眠穴や平坦地に掘られた冬眠穴も見られた。
また、海外の研究例では、一定の地域に冬眠穴が集中的に分布する事例が報告されており、その要因として個体毎の地域選択性や特定の年の個体群の分布特性があげられている。知床半島でも3ヶ所以上の冬眠穴を確認できた個体について、一定の場所を選択的に使う傾向が見られた。

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© 2004 日本生態学会
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