日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: O1-Y10
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ジェネラリストは変動環境下で絶滅しにくいか?
*吉田 勝彦
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抄録

 環境変動が起こったときに、どのような生物が絶滅しやすいのか、を明らかにすることは、生物の保全を考える上で重要な課題の一つである。生物には様々な種類の餌を食べるジェネラリストと特定の餌しか食べないスペシャリストが知られているが、環境変動が起こったときにどちらが絶滅しやすいかについては諸説あり、現在結論は得られていない。その原因の一つはスペシャリストの方が一般に分布が狭いため、両者を同じ条件で比較できなかったことである。もし生物群集の進化のコンピュータシミュレーションを行い、その中で進化的に出現した様々な食性を持つ生物を共存させることができれば、同じ条件での比較が可能になる。そこで本研究では、仮想的な食物網に一次生産量の変動を起こすコンピュータシミュレーションを行った。この食物網は動物種と植物種で構成され、植物は外界からのエネルギー流入を受けて一次生産を行う。モデルの中では、外界からのエネルギー流入量を変動させることによって、一次生産量を変動させる。動物種はそれぞれの好みに従って捕食する餌を選が、好みの幅が広いほど、取り入れた生物量のうち自分の成長に使えるものの割合が低くなると仮定する。シミュレーションの結果、変動がない場合はスペシャリストの方が絶滅しにくかった。しかし、規模の小さな一次生産量の変動が起こると、食物網のベースになる植物種が打撃を受けて絶滅し、その結果少数の餌しか捕食していないスペシャリストが絶滅しやすくなった。この時、多くの種類を餌としているジェネラリストはほとんど影響を受けなかった。規模の大きな変動が起こる場合、一次生産量が極端に減少するイベントが時々発生するが、この時、極端なスペシャリストと極端なジェネラリストが生き残る可能性が高く、中間的な性質を持つ生物が絶滅しやすかった。本研究の結果は、環境変動の規模によって、保全すべき種の優先順位が変わる可能性があることを示唆している。

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© 2004 日本生態学会
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