日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: E208
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八ヶ岳高山帯のシャクナゲ亜属2種に見られる競争関係と分布変動
*長沼 慶拓名取 俊樹増沢 武弘
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抄録

ツツジ科シャクナゲ亜属のキバナシャクナゲとハクサンシャクナゲは最終氷期以降、標高に沿って帯状分布を形成してきたとされている。しかし近年、ハクサンシャクナゲの分布域が上昇し、キバナシャクナゲの分布域が狭まっているという現象が観察される。本研究では八ヶ岳において両種間の光獲得競争を定量的に明らかにし、今後の両種の動態について考察する。
八ヶ岳連峰硫黄岳の北西斜面(標高2680m)では、両種は斜面中部の幅0.5mの範囲でわずかに混生していた。生産構造図を比較した結果、ハクサンシャクナゲの葉群は、より上層に位置し、シュート、葉ともに、より水平に展開することで光を効率よく吸収できることがわかった。また、ハクサンシャクナゲはC/F比(非光合成器官/光合成器官)が純群落で6.52と高く、混生地においても5.99とほぼ同じであったのに対し、キバナシャクナゲは純群落で2.50と低く、混生地では0.77に低下した。このことから混生地のキバナシャクナゲは、光を十分に獲得できないために非同化器官への投資が減少し、純群落と同じような群落構造を保てないと考えられる。また、混生地における10年間の年輪幅についてみると、キバナシャクナゲは純群落の約1/2程度で、葉数も明らかに少ないが、ハクサンシャクナゲは純群落とほぼ同じ程度を保っていた。このような結果からもハクサンシャクナゲが物質生産において優勢であると言える。
しかし、春期の調査で、ハクサンシャクナゲの方が群落上層の葉の褐変率が高かったことから、積雪に覆われない当年シュートがダメージを受けていると予想された。今後の分布変化は、平均気温の上昇に加えて、変動が大きくなると予想される積雪量や融雪時期と密接な関係があると考えられる。

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