雌雄異株植物では雌雄間に性差(性的二型)が存在することが知られている。有性繁殖では雄は比較的低コストの花粉を生産し、一方雌はよりコストの高い種子、さらに果実を生産する。このような雌雄間の異なる資源配分がさまざまな性差を引き起こす要因と考えられている。木本植物は分節構造(モジュール)を形成するため、性的二型性の有無を調査する場合、調査対象とするモジュールレベルを決定する必要がある。生活史が他の植物よりも長期間におよぶ樹木では、葉、枝、花、果実など下位のモジュールの動態は、ラメートやジェネットなど上位のモジュールの動態よりもずっと短い期間で推移する。したがって、短期間の調査では、下位のモジュールではしばしば性差が認められるが、上位のモジュールでは性差が認められない場合が考えられる。本研究では、大山ブナ老齢林の林床に生育し、クローンを形成する常緑低木で雌雄異株のヒメモチを用いて、異なるモジュールレベルにおける性的二型性の有無を明らかにすることを目的とした。まずヒメモチのラメート(開花雄、開花雌、結果雌)を採取し、葉、枝、花、果実の幹重を測定した。次に、パッチを形成しているヒメモチを6個選定し、RAPD(random amplified polymorphic DNA)解析によってジェネットを識別した。その後、ジェネットあたりの葉、非同化部分(枝+幹)、花のバイオマスを推定した。そして、ヒメモチのシュート、ラメート、ジェネットの各モジュールレベルにおける繁殖投資(花と果実)と同化部分(葉)への投資に関する性的二型性の有無を調査した。今回の発表では、各モジュールの繁殖投資を明らかにした上で、有性繁殖とモジュール形成の関連性について議論する。