日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P2-053
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化石花粉および植物珪酸体分析からみた北大雨龍研究林泥川湿原内におけるアカエゾマツ林の分布拡大
*野村 敏江河野 樹一郎佐々木 尚子高原 光柴田 英昭植村 滋北川 浩之吉岡 崇仁
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抄録

北大雨龍研究林内に広がる泥川湿原は,針広混交林が成立する山地に囲まれ,湿原内にはササを伴うアカエゾマツ林とヤチダモを主とする落葉広葉樹林がモザイク状に分布している.本研究では,アカエゾマツ林の分布拡大の過程を検討するため,表層堆積物21点と堆積物コア4点を採取し,花粉及び植物珪酸体分析を行った.
表層堆積物から検出されたコナラ属(Quercus),トウヒ属(Picea)及びトネリコ属(Fraxinus)花粉は,それぞれ湿原外の周辺山地に生育するミズナラ,湿原内に多いアカエゾマツ及びヤチダモに由来すると考えられる.そこでコナラ属に対するトウヒ属とトネリコ属花粉の計数比(P/Q,F/Q)を求めた.その結果,アカエゾマツ林内ではP/Q=0.4以上,F/Q=0.1-0.2,アカエゾマツ林と落葉広葉樹林の移行帯ではP/Q=0.2-0.4,F/Q=0.2-0.3,落葉広葉樹林内ではP/Q=0.1-0.2,F/Q=0.3以上となった.
コア試料の分析結果では,全地点に共通して,ササ型珪酸体の出現後,マツ科型珪酸体とトウヒ属花粉が出現する傾向が見られた.次に,植生を判別する指標として,各深度におけるP/Q及びF/Qを求めたところ,アカエゾマツ林内の堆積物では,深度約20cm以深でP/Q=0.1以下,F/Q=0.1-0.2を示し,以浅でP/Q=0.7-1.1,F/Q=0.05-0.1を示した.移行帯の堆積物では,30cm以深でP/Q=0.01-0.1,F/Q=0.9-4.1を示し,以浅でP/Q=0.2-0.5,F/Q=0.3-0.6を示した.以上の結果から,当調査地ではアカエゾマツの侵入以前からササが存在し,特に移行帯ではヤチダモが優勢な落葉広葉樹林へアカエゾマツが侵入していったと推察された.

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© 2005 日本生態学会
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