植物の高CO2濃度応答の実験はこれまでに数多く行われてきている。この結果、高CO2の影響は光や土壌条件によって異なることがわかってきた。しかし、これらの実験期間はせいぜい数年から数十年にすぎない。実際に長期間にわたって高CO2濃度にさらされた植物では選択圧がかかり、遺伝的に変化する可能性がある。このため、将来の高CO2濃度に適応した植物の応答は、現生の植物を対象とした短期間の実験の結果とは異なるかもしれない。以上の問題に答えるために、当研究では、長期間にわたり高CO2濃度にさらされてきたと考えられる、八甲田山系田代平の天然CO2噴出地およびその周辺に優占するオオイタドリ群落22カ所を対象として、光、土壌条件および、大気CO2濃度を正確に査定することにより、これらの環境要因が総合的にオオイタドリの葉の光合成特性に与える影響を調べた。 この結果、オオイタドリの葉は、光条件が良いほどLMA(葉面積あたりの質量), Narea(葉面積あたりの窒素量), Vcmax(最大反応速度), Jmax (電子伝達速度)は大きくなっていたものの、高CO2の影響はLMAのみでしか見られなかった。また、これらの性質には土壌条件による差はみられなかった。光条件が良いほどChl/N(窒素あたりのクロロフィル量)は減少し、Vcmax/chlとJmax/chlは増加していた。また、Vcmax/chlとJmax/chlには光とCO2の交互作用が見られ、光条件が良いほど高CO2で値が大きくなっていた。さらに、Jmax/Vcmaxは高CO2で大きくなっていた。以上の結果に基づき、高CO2濃度が光、土壌条件とともにオオイタドリの葉の光合成特性に及ぼす影響を議論する。