抄録
高CO2環境に対する光合成の適応を探るために、3箇所の長い歴史をもつ天然のCO2噴出地(500-1000 umol mol-1)と近くのコントロール区(370 umol mol-1)に自生していた植物を移植し、実験的に2つのCO2濃度で栽培した(370, 700 umol mol-1)。私たちの仮説は、「高CO2環境で高い資源利用効率を示す植物が、天然のCO2噴出地周辺でより大きな適応度を示し、選択されてきただろう」というものである。この仮説を光合成の窒素利用効率(PNUE)、水利用効率(WUE)、デンプン蓄積から検証した。高CO2条件で栽培すると、全ての個体で、PNUE、WUE、デンプン蓄積が増加した。しかし、CO2噴出地由来の植物において、コントロール由来よりも高いPNUEは見られなかった。この結果は、理論的な予測から示される選択的なルビスコ量の低下(高CO2環境で適応的であるとされる)が容易には起こらないことを示している。さらに、3箇所のうち1つのCO2噴出地由来の植物では、逆にPNUEの低下、そして付随してLMA(面積あたりの葉重)の増大が観察された。このLMAの増大は、高CO2で促進された PNUEを物理的に維持することに役立っているかもしれない。WUEの増加は1箇所のCO2噴出地由来の植物で見られた。このWUEの増加は気孔コンダクタンスの低下が原因であった。デンプン蓄積の減少は、1箇所のCO2噴出地由来の植物で見られた。デンプン蓄積の減少は、高CO2による光合成のダウンレギュレーションを緩和し、高い光合成速度の維持に貢献したと示唆された。総括すると、3箇所の天然のCO2噴出地に共通する光合成特性の変化は見られなかったものの、高CO2環境に適応的であると予想される応答がいくつか観察された。これらの結果を踏まえ、大気CO2濃度上昇に対する植物の進化を議論する。