抄録
植物や動物の生活史は多様であり,種に特有な生活史段階を形成している.個体のサイズ成長や変態による生活史段階の変化は,そのニッチに変化をもたらすため,多種相互作用系における個体群動態に大きな影響を与えると考えられる.本発表では一年草,二年草,多回繁殖多年草といった生活史の異なる3種競争系のモデリングと,3種が共存しうる条件についての解析結果を報告し,3種共存のメカニズムについて考察する.モデルには二年草,多回繁殖多年草の2種に関してjuvenileとadultの二つの生活史段階を導入し,種や生活史段階ごとに密度依存的な生存率が異なり得るものとした.解析はモデルの平衡状態に関して,数理解析と有限パラメータ空間についての数値計算の双方を行った.解析の結果,初期状態によらず2種,3種が共存するパラメータ条件の他に,初期状態によって3種のうちいずれかが他種を排除して安定となる,三安定なパラメータ領域の存在が示された.後者の条件における3種共存のメカニズムに関しては,さらに空間構造が与える影響を検証した.モデルに空間構造を導入し,上記の条件のもとでモデルを数値シミュレーションした結果,個体の拡散率が低い場合において,3種がパッチ状に分かれて共存することが示された.