日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S1-1
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ツバキ果皮とシギゾウムシ口吻: 軍拡競走の時空間動態
*東樹 宏和曽田 貞滋
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抄録

共進化系では生物間の相乗的な適応により、時として極端に発達した形質が生じる。特に敵対的な関係において「軍拡競走」と比喩されるこの過程について、1970年代以降に理論面での著しい発展が見られたが、軍拡的な共進化が始まるメカニズムや形質進化の速度、また、時間・空間軸上における動態に関して、野外における実証研究は発展してこなかった。そこで我々は、明解な軍拡競走を示すヤブツバキ‐ツバキシギゾウムシ系を対象に、相互作用の地理的な変異を元にして、地質学的な時間スケールにおける軍拡競走の進行過程を再現した。この系では、ツバキの防衛形質(果皮)とシギゾウムシの攻撃形質(口吻)が軍拡的な進化を遂げており、最も形質が発達した屋久島の集団では、握り拳大のツバキ果実(別名リンゴツバキ)と体長の2倍に達する口吻長を持つシギゾウムシが観察される。一方で、本州の各地で調査を行ったところ、形態形質の極端な発達は見られず、また、シギゾウムシの口吻長がツバキ果皮の厚さを大きく上回っていることが明らかになった。そこで、本州_から_屋久島の16集団でツバキの防衛形質にかかる自然選択を定量化したところ、南の地域で厚い果皮への強い方向性選択が検出される一方で北の集団ではそうした傾向が見られず、共進化形質の地理変異パターンをよく説明していた。シギゾウムシのmtDNAを用いた解析から、最終氷期以降の急速な分布域拡大が示唆されたため、現在見られる軍拡競走の地理勾配は後氷期に形成されたものであると推定される。後氷期にかつての避難所に残った南の集団で、温暖化とともにツバキの防衛形質にかかる資源コストが緩和され、急速な共進化が進行した一方、北に分布を拡げた集団では生産性の低さから防衛形質への投資が進化していないと考えられる。

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© 2005 日本生態学会
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