本稿では,第二言語(L2)習得におけるプロソディーの役割を,理論的枠組みと実証的研究の両面から考察する.発話音声におけるプロソディーは単なる感情表現にとどまらず,文の統語構造や情報の流れ,更には談話のつながりを明示し,あいまいさの解消や理解の効率化に寄与する重要な要素である.L2学習者が目標言語におけるプロソディー処理をどのように行うのか,その複雑なメカニズムを明らかにするため,まずプロソディー習得を説明する主要な理論モデルを概観する.次に,漸次的処理と予測的処理という二つの概念を中心に,プロソディーがほかの言語的情報とどのように結びつき理解を形成するのかを議論する.その中で,アイトラッキング技術を用いた二つの実証実験を通して,母語話者とL2学習者がプロソディー情報を予測的に用いる際の違いやその柔軟性を比較する.これらの知見は,L2プロソディー処理の認知メカニズムを包括的に理解するだけでなく,学習者が新しい言語システムをどのように習得し,適応するのかを解明する鍵となるだろう.本稿を通じて認知科学,脳科学,計算言語学といった学際的なアプローチにより言語理解を科学的に研究することの重要性と魅力を伝え,この分野の更なる発展につなげたい.