本稿では,筆者らが提案したLDPC符号のための近接勾配復号法について解説する.本稿に関する論文 (Wadayama and Takabe, IEICE EA, no.3, pp.359–367, 2023) は,2022年度電子情報通信学会論文賞を受賞した.凸最適化問題を解くための近接勾配法は,スパース信号再構成などの逆問題を解く技法として信号処理分野では広く利用されてきているが,LDPC符号の復号問題への適用はこの論文にて初めて議論がなされた.提案法の核となるアイデアは,通信路に対応する負対数ゆう度と符号に対応する符号ポテンシャルエネルギー関数からなる目的関数に対して,近接勾配法を適用して反復最小化を行うことにより近似的最大事後確率復号を実現する点にある.負対数ゆう度関数を適切に変更することで,広範なクラスの通信路に対して提案復号法を利用することができる.計算機実験の結果,現代の無線通信システムにおいて重要なLDPC符号化MIMO通信路においてデファクトスタンダートである既存手法 (MMSE信号検出とビリーフプロパゲーション復号法の組み合わせ手法) と比較して,提案復号法は顕著な復号性能の改善を与えることが示されている.また,有色ガウス雑音通信路や非線形性を有する通信路など,効率的な復号法の構成が困難である通信路への適用についてもその有効性が実験的に示されている.更に,提案法は,テンソル計算を中心とした実装が可能であり,GPGPU (GeneralPurpose Graphics Programming Unit) やAIアクセラレータなどの深層学習に特化したハードウェアに適した反復構造をもつ.深層展開などの機械学習技術との親和性も高く,今後,実応用に関する研究の進展が期待される.
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