ブーリアンネットワークは,対象となる動的システムの状態を0-1あるいは等価な真と偽からなるロジック変数,状態の更新則をロジック演算によって記述する簡便なモデルである.本稿ではブーリアンネットワークの表現として近年注目されている,セミテンソル積を用いた,システム制御分野の研究者にも馴染みやすい状態方程式によるモデリング手法を概説する.加えて,最適制御やカルバック・ライブラー制御といった制御問題に対する最適化アルゴリズムを紹介する.
音空間の解析や制御に関する研究領域である空間音響処理において,音場,すなわち音圧などの音の物理量の空間的分布を推定する技術は重要な役割を果たしており,音場推定と呼ばれる.空間音響処理に関連する応用技術は広範囲にわたるが,その多くは音場推定を基盤とし,その推定精度は後段の処理の性能に大きく関わる.単純な設定において,音場推定の問題は,機械学習における関数補間の問題として定式化できるが,観測データのみに依存するような一般的な関数補間法を適用するだけでは高い推定精度は期待できない.音場の物理的な性質は強力な事前情報であり,これを推定にうまく取り入れることが重要と考えられる.本稿では,物理法則に基づく機械学習(physics-informed machine learning: PIML)に基づく音場推定,あるいは空間音響処理技術の基礎事項を解説するとともに,現在のPIMLに基づく音場推定法を概観する.
科学衛星・探査機は打上げ後の保守が不可であり,かつ苛酷な宇宙環境に曝されるため,搭載部品には初期不良を除く品質と,温度・放射線・真空といった外的要因に耐える信頼性が要求される.宇宙用部品の活用により高品質・高信頼を確保できるが,先進的な観測機器の開発などでは宇宙用部品だけでは機能要件を満たせない場合がある.このため我々は宇宙用部品と,追加の選別・評価を施した産業用部品を適切に使い分けている.本稿では部品選定の指針と判断基準を概説し,宇宙用と産業用部品の品質保証の差異や,宇宙利用特有の信頼性要求への評価・対策を解説する.更に近年進展する超小型機開発における部品適用の動向と課題にも触れる.
ソーシャルメディアの発展により,オンライン上のユーザ行動と実社会の現象との間に強い結びつきが生まれている.特に「ネット炎上」や「バズ」といった現象は,オンラインユーザダイナミクスの活性度が突発的に増大する典型的な例であり,その影響は企業活動や社会的評価,更には経済動向にまで及ぶ可能性がある.本研究では,オンライン上のユーザ間に生じる相互の影響を,局所性と因果律に基づく基礎理論として定式化し,そこから理論的に予測される現象が,実際のオンラインデータ上でも確認されることを示す.更に,この枠組みを応用した社会実装として,企業関連ニュースの早期検知を行うことで,株式市場での投資判断支援を目指したFinTech分野への応用例を示す.具体的には,基礎理論に基づく予兆検知を用いて投資シミュレーションを行うことで,高いパフォーマンスの株式投資に結びつく投資判断が可能であることを示す.加えて,この技術は流行予測,防犯対策,国家安全保障など,社会の多様な領域にも適用可能であることを指摘し,オンラインユーザダイナミクスに基づく社会リスク予測技術としての将来展望を示す.
ドローンは近年様々な用途に用いられており,災害時においても被災状況確認や通信確保に有用である.また将来実現するであろうスマートシティでも活用が期待されている.しかし,大規模災害時には公衆通信網が機能停止する可能性があるため,インフラに依存せずドローンに搭載された通信端末のみで構成する無線アドホックネットワークの利用が期待されている.本稿ではドローンで使用される無線通信システムの研究開発について述べ,更に筆者らが進めている,スマートシティにおける安全・安心に役立つアプリケーションのための経路制御プロトコルの研究開発の例について述べる.
二重選択性とは,遅延時間広がりに起因する周波数選択性とドップラーシフト広がりに起因する時間選択性が,ともに大きな伝搬環境のことをいう.一般に,電波による無線通信では,遅延時間広がりとドップラーシフト広がりの積であるspread factorは10-3以下であるといわれる.本稿では,spread factorが10-3を超える伝搬環境を,厳しい二重選択性と定義する.本稿では,厳しい二重選択性伝搬環境と厳しい二重選択性が課題となる無線通信システム,例えば,水中音響通信や単一周波数ネットワークの狭帯域同報通信,について解説する.
ソーシャルメディアの規模の拡大に伴い,コンテンツモデレーションはプラットホーム運営と表現の自由とのバランスを巡る重要課題となっている.本稿は,日本の法制度や総務省のガイドラインを前提に,違法情報対応や通信の秘密,巨大プラットホームの準公共性,透明性や受忍限度などの視点を手がかりとして,実務的および規範的論点を技術者向けに整理する.そのうえで,「許容される表現」と「保護される表現」を区別する枠組みと具体事例を示し,更に機械学習による自動モデレーションを権限委任として捉えながら,説明可能性と人の関与を含むガバナンスの重要性を述べる.
情報技術の進展は社会に大きな恩恵をもたらす一方,アルゴリズムに潜むバイアスやアクセシビリティの欠如という課題を抱えている.従来の量的研究は,大規模データの傾向を示す点で有効である.しかしその一方で,「標準」や「ディフォルト」を恣意的に定めた分類を前提とせざるを得ず,少数派の存在や経験の複雑さを周縁へと押しやる危険を伴う.本稿では,こうした課題に対しデュオエスノグラフィーを紹介する.この手法は,研究者自身の経験を平易なことばで対話的に省察し,差異を資源として新たな理解を生み出すことを重視する.そして,技術システムに埋め込まれている社会的前提や権力構造を可視化し,これらの問題に深く関与することを促す.本稿では本手法が多様性社会に向けて,社会的責任や倫理的課題を踏まえた情報技術を生み出すための有効な枠組みとなりうることを示す.
武蔵野美術大学造形学部基礎デザイン学科において,筆者は約20年にわたり,「世界をいかに新鮮に感じとるか」という着想に基づく研究を継続してきた.本研究は,人間が生み出してきた環境,すなわちヒト世界のものやことを虚心坦懐に観察することから始まる.デザインを学ぶとは,単なる表現技術や造形ノウハウの習得ではなく,環境への向き合い方や世界の成り立ち,その見方を探究することである.人間が他の生物と同様に環境の中で生きる存在であることを真摯に観察・考察する姿勢が重要である.本稿では,4年次学生と取り組んだテーマの一部とその成果を紹介する.
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