抄録
妊娠チャイニーズハムスターの腟粘液分泌について観察し, 次の結果を得た。
交尾後, 妊娠が成立した場合, 交尾後7日目より腟に希薄な粘液の分泌が認められるようになり, その出現率は, 交尾後7日目の10.8%から, 11日目の82.6%まで急速に増加した。そして, 交尾後12日目には, 19.5%の妊娠例で, 透明な粘液にかわって溶血性粘液が認められるようになった。溶血性粘液は, 多くの場合, 2~4日間持続するが, 交尾後14日目には89.1%の高率で検出されるようになり, その後急速に消失して17日目には6.5%の低率となった。そして, 溶血性粘液の消失した後は, 非常に粘稠な半透明の粘液がほぼ全例において出現した。
また, 偽妊娠の場合には, やはり, 交尾後7日目頃から希薄な粘液が腟に認められ交尾後12日目頃まで持続した。しかし, 交尾後11日目には, 不明瞭ながら腟垢像が発情前期像 (1) を示し, 12日目には発情後期像 (III~IV) が認められ, 発情周期が再開した。
交尾後9日目以前には, 腟粘液, 腟垢像, および, 母体重のいつれの観察によっても妊娠を判定することはできない。ただし, 体重変化, 腟垢像変化, さらに, 腟粘液分泌などを合わせ検討するならば, 交尾後10日目頃から妊娠診断が可能と思われる。
終りに臨み, チャイニーズハムスターを御恵与いただいた国立遺伝学研究所吉田俊秀博士に深謝するとともに, 本研究の機会を与えられ, 種々御援助賜った川崎医科大学中央研究部柴田進部長および有益な討論をいただいた, 同解剖学教室顔政坤助手にお礼申し上げる。