抄録
食虫目であるスンクスの鋤鼻器の微細構造を観察し, 比較解剖学的観点から考察を加えた。スンクスの鋤鼻器は鼻中隔基部に横たわる全長約6mmの一対の管状構造で, 吻側端では小孔によって鼻腔に開口し, 尾側では盲端に終わっていた。鋤鼻器管腔の内側壁は感覚細胞, 支持細胞, 基底細胞より成る感覚上皮で被われるのに対し, 外側壁を覆う呼吸上皮は微絨毛に被われた多列上皮であった。ヤコブソン腺は鋤鼻器の背外側部から腹外側部に分布し, 感覚上皮と呼吸上皮の移行部で鋤鼻器管腔内に開口していた。その分泌物はPAS陽性, アルシアンプルー陰性であった。微細構造的には感覚上皮の感覚細胞は双極性ニューロンの形態を呈し, 遊離縁を著しく長い微絨毛で被われていた。それ以外の感覚細胞, 支持細胞, および基底細胞の微細構造は, 他の動物種で従来報告された所見とほぼ同様であった。呼吸上皮の微細構造も, 自由縁が線毛でなく微絨毛で被われていることを除けば, 従来の所見とほぼ同様であった。また, 感覚上皮および呼吸上皮内にはしばしば各種の遊走細胞が観察された。一方, ヤコブソン腺の腺細胞は円形ないし楕円形の核を有し, 細胞質内には直径約1, 000nmの大型の分泌顆粒を多数含み, 粗面小胞体, ゴルジ装置などがよく発達していた。スンクス鋤鼻器感覚上皮の特徴である著しく長い微絨毛は, 系統発生の途上で鋤鼻器の全長が短縮したため, 減少した感覚上皮の表面積を代償的に補うために発達したものと考えられた。