ファルマシア
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最前線
リードスルー機能に着目した遺伝性疾患治療薬の創製研究
田口 晃弘濵田 圭佑林 良雄
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2014 年 50 巻 10 号 p. 953-957

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抄録

遺伝性疾患は,遺伝子の異常を原因とする疾患の総称である.最近のゲノム科学の発展に伴い,それぞれの遺伝性疾患の原因の5~20%がナンセンス変異によることが明らかになってきた.このナンセンス変異型遺伝性疾患(ナンセンス変異疾患)は,点突然変異により構造遺伝子上に未熟終止コドン(premature termination codon:PTC)が形成され,機能を有するタンパク質の発現が妨げられることに起因する(図1).ナンセンス変異により失われたタンパク質を再生させる根本的な治療法には,ウイルスベクターを用いる遺伝子導入あるいは幹細胞治療などが挙げられる.しかし,現状では薬物療法を含むナンセンス変異疾患の根本的治療法は確立されていない.一方で,1,800種類以上もあるヒト遺伝性疾患の克服に向け,ナンセンス変異疾患の治療薬開発には大きな期待が寄せられている.
遺伝性疾患の化学療法剤開発では,種々の難病を含む各遺伝性疾患の患者数がとても少ないために,疾患毎の治療薬開発は経済的観点からハードルが高い.疾患横断的に適用できる薬剤開発が理想的である.このような薬剤の候補として,最近,翻訳過程においてPTCを読み飛ばし(リードスルー),完全長のタンパク質を発現させる作用を持つ低分子化合物(リードスルー化合物)が注目されている.ここから「リードスルー薬※1」の概念が提案され,ナンセンス変異疾患克服の一手段として期待されている(図1).ただし,リードスルー作用のメカニズムは未だ十分に解明されていない.リードスルー薬の実現には,より詳細な基礎研究と精力的な創薬研究が必要である.
本稿では,代表的なナンセンス変異疾患と既知のリードスルー化合物を紹介すると共に,我々が挑戦している(+)-ネガマイシンを基盤としたリードスルー薬の創薬研究について述べる.

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© 2014 The Pharmaceutical Society of Japan
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