新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,一本鎖(+)鎖RNAウイルスSARS-CoV-2を原因とし,肺炎や発熱等を引き起こす疾患である.現在までに,ワクチンや治療薬が開発されている一方で,3年半以上経った今もなお,感染が終息したとは言えない.
SARS-CoV-2に宿主細胞が感染すると,RNAゲノムから巨大なポリタンパク質が合成される.このポリタンパク質が切断されて生成する断片が,SARS-CoV-2の増殖に必須のタンパク質として機能する.タンパク質分解酵素のメインプロテアーゼ(M
pro)およびパパイン様プロテアーゼ(PL
pro)は,この切断反応を担う分子であり,抗ウイルス薬開発の重要標的である.M
proを標的とした抗ウイルス薬として,ニルマトレルビルとエンシトレルビルが臨床で使用されている.一方で,PL
proに対しては,実用化に至った阻害薬はない.その理由として,PL
proと生体内のヒト脱ユビキチン化酵素(DUBs)の相同性が高く,選択性を出すのが難しい点が挙げられる.しかし,M
proを標的とした抗ウイルス薬の耐性株の出現もありうるため,治療薬の選択肢を増やす観点からも,PL
pro選択な阻害薬の創出が求められている.
今回Sandersらは,SARS-CoV-2 PL
proの選択的な非共有結合性阻害薬であるGRL0617を基点として,DUBsとの選択性を維持しつつ阻害能を向上させた共有結合性阻害薬7を見いだしたので本稿にて紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Zhang L.
et al.,
Science,
368, 409–412(2020).
2) Owen D. R.
et al.,
Science,
374, 1586–1593(2021).
3) Unoh Y.
et al.,
J. Med. Chem.,
65, 6499–6512(2022).
4) Shin D.
et al.,
Nature,
587, 657–662(2020).
5) Sanders B. C.
et al.,
Nat. Commun.,
14, 1733(2023).
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