ファルマシア
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50年後の薬学
医薬品開発の今後
ベンチャー企業
藤田 芳司
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2014 年 50 巻 12 号 p. 1220-1221

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抄録

医薬品開発で大切なことは,製品が世の中に出る頃に世界市場がどのように変貌するか予測することである.世界の医薬品市場約90兆円を疾患別に眺めると,2015年時点で,がん領域(急拡大:8兆円),呼吸器系疾患(喘息・COPD)および糖尿病(微増:各4兆円),高血圧(変化なし:3兆円),高脂血症(縮小:3兆円)と推定されている.日米欧の医薬品市場は既に飽和状態で,今後の市場拡大はない.先進国のブランド薬市場規模を維持してきたのがアンメット・ニーズの高額医薬品である.一方,中国やインドなどの発展途上国では,安価な大衆薬やジェネリック薬が原動力となって市場が急拡大している.過去20年間に膨大な数の主要医薬品が安価なジェネリック薬に置き換わった.さらに,13兆円以上ものブランド薬の特許が切れる「2015年問題」が迫っている.代表的なバイオ医薬品4品目の累積売上高をみると,リツキサン(6兆円),ハーセプチン(4.6兆円),アバスチン(4.3兆円),アービタックス(1.4兆円)と,総額約17兆円にも上る.なかでもバイオ医薬品のジェネリック薬(バイオシミラー)が注目される.
多くの製薬企業は,ジェネリック薬が充実した疾患の創薬研究から撤退する動きを加速させている.製薬企業が疾患領域を絞り込めば,ベンチャー企業が導出した化合物が突然開発中止になり,経営基盤が揺らぐ.企業の大規模吸収合併(M&A)が起これば,通常100個以上の開発化合物の優先順位が下がるか不要となって ”For Sale”になる.メガファーマが放出するパイプラインと同じ作用メカニズムの化合物を持つベンチャー企業は導出するのに苦労する.今後求められる薬を知るには世界の臨床試験数を調べるといい.①腫瘍(4,840),②中枢性疾患(2,000),③感染症(1,920),④自己免疫疾患(1,100),⑤代謝性疾患(1,060),⑥呼吸器系疾患(650),⑦循環器系疾患(630)などに集中している.がん,アルツハイマー病,パーキンソン病,HIV,自己免疫疾患,稀少病などに創薬対象がシフトしていることが分かる.
資金が潤沢でないベンチャー企業にとって,抗体医薬品は大きなビジネスチャンスといえる.2013年度の抗体医薬品のライセンス契約を研究開発ステージ別に見ると,探索研究(22件),非臨床研究(20件),第I 相および第Ⅱ相臨床試験(各6件),第Ⅲ相臨床試験(2件)である.低分子医薬品の場合,第Ⅱ相臨床試験で有効性が検証されてから導出交渉の対象となるため資金集めに苦労する.一方,抗体医薬品は多額の費用を要する臨床試験なしに研究初期段階で導出できる.さらにライセンス契約金は,低分子医薬品では想像できないほど巨額である.例えば,2008年設立の CytoX 社は2013年にファイザーとの共同研究でアップフロントフィー25億円およびマイルストーンフィー610億円で契約した.2014年にはブリストルマイヤーズ・スクイブと4品目の共同研究でアップフロントフィー50億円とマイルストーンフィー総額1,200億円で契約した.他の追随を許さない抗体作成技術を保有することが成功の鍵といえる.
稀少病薬もベンチャー企業にとって注目すべき領域である.ありふれた病気が全世界で数百万人,数千万人以上の患者数がいるのに対し,稀少病の患者数は通常数万人以下である.稀少病は7,000種類以上ある.約400種類の新薬が承認されているが,わずか2%の稀少病をカバーしているにすぎない.患者数が少ないため開発コストの低い小規模臨床試験で承認申請できる.しかも稀少病であるので優先審査により短期間で承認されるメリットもある.創薬の宝庫といわれるゆえんである.ヨーロッパ27か国だけでも稀少病患者は総人口の約6%(2,600万人)もいる.しかし高額の稀少病薬が急増すれば,将来医療費抑制の影響を受けるリスクがある.
稀少病と関連するのがドラッグ・リポジショニング(リプロファイリング)である.臨床試験で開発中断になる新規化合物は年間150~200個あり,今までに2,000個以上の化合物が有効活用できずに眠っている.安全性データがあるので新規適応症を探せば開発期間は短くて済む.アメリカ国立衛生研究所は10社以上のメガファーマと連携して,開発中断された化合物から新しい適応症を探索するプロジェクトを開始した.これからの創薬手法の1つといえる.

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© 2014 The Pharmaceutical Society of Japan
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