2017 年 53 巻 1 号 p. 66
ヒト・動物が抗生物質を摂取することで出現した薬剤耐性は,大気や水を通じて環境中に排出され自然界に伝搬していく.例えば,都市下水や病院廃水が環境中への薬剤耐性菌の排出源となっていることが多く報告されている.一方で,A. Flemingが青カビからペニシリンを発見したように,自然界にも抗生物質を産生する微生物が存在し,それに対する耐性を野生の微生物が自然淘汰の中で獲得することもある.これら環境中の薬剤耐性菌は,何らかの経路を通じてヒトに曝露され健康を害する脅威と成り得る.多種多様な薬剤耐性のうち,どのような薬剤に対するどのような耐性機構が,自然界に伝搬し優占しやすいかを知ることは,薬剤耐性菌の蔓延を防止するために重要と言える.
最近,FitzpatrickとWalshは,ショットガンメタゲノム配列データの解析ツールであるMG-RASTに登録されているメタゲノム解析データから,薬剤耐性データベース(ARDB)に登録されている薬剤耐性遺伝子の配列データを照合・抽出し,自然界の多種の試料における薬剤耐性遺伝子の多様性を明らかにしたので紹介する.
なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.
1) Fitzpatrick D., Walsh F., FEMS Microbiol. Ecol., 92, fiv168 (2016).
2) Martinez J. L. et al., Nat. Rev. Microbiol., 13, 116-123 (2015).