抄録
(1) カタノールOを用ふるヴィスコース人絹の媒染に關し,媒染浴温度・中性監の添加・施媒時聞・添加陽イオン原子價等がヴィスコース人絹に依るカタノールO吸着量に及ぼす影響に就いて研究した。
(2) カタノールOの使用量を普通に推奬されてゐる工業的用量範圍とし,その解膠剤として1/2量の無水炭酸ソーダを用ひ,媒染浴に食監・硫酸ソーダの如き中性監を添加しない場合には,媒染浴温度如何に拘らず,カタノールOはヴィスコース人絹に殆ど吸着されない。
(3) 適量の食監を添加した場合に就いて見るに,媒染浴温度はカタノールOの吸漬量に顯著なる影響を及ぼし, 40 °C以上に於ける吸着極限量は浴温が高い程小である。而して各その平衡吸着量に到達するに要する施媒時間は媒染浴温度に著しい關係を有し,一般に浴温が低い程長時間を要する。
(4) 浴温を20°C及び30°Cに保つた場合に於ける吸着極限量は40°Cのそれと大差ないが,この極限量に到達する爲には40°Cのそれに比べて著しく長時間を要する。要するにカタノールの媒染適温に關し, 40°Cを一種の臨界温度と考へることが出來る。但しこの臨界温度は媒染液の濃度,助劑の添加量等條件の如何によつて移動すべきものである。
(5) 普通に實施せらるゝ媒染浴調製條件下に於て比較的短時間 (2~3hr) に効果的媒染を行はんには浴温を50~60°Cに保つべく, 40°C以下に放冷することは不得策である。
(6) 食監・硫酸ソーダの如き中性監の添加はカタノールOの吸着量に顯著なる影響を及ぼし,その添加量の増加に伴ひ吸着量を増進する。而して兩監共その當量の添加はカタノールOの吸着量に及ぼす影響は等しい。
(7) 2價の陽イオン添加は1價の陽イオンに比ベカタールOの吸着量に對し極めて顯著なる影響を及ぼす。
(8) 以上の實驗結果を齎すべき理由に就き膠質化學的見地より考察論議した。