2022 年 42 巻 p. 81-88
入会林野の境界を単なる1本の線ではなく争うべき領域が存在するとして「境界領域」と呼ぶと、入会「支配」の重要な研究テーマとなる。「山論」においても主要な話題である。本研究では、比較的境界が明確だと思われる村中入会(「内山」)を取り上げる。信州「伊那」の「手良沢山」をめぐる「山論」の論点を手掛かりに、「内山」の境界が意外にも内と外の双方向に開かれている実態を明らかにした。何より、複数の村が、「一村同然」に「内山」利用していることを主張している。「山論」文書であり実際の利用がどのような形で行われていたのかは分からない。しかし、村境はどうなったのか気になるところである。また、他村の村民が、「内山」にある「苅敷山」を「持分化」して、百年以上にわたり諸負担も払わず利用し続けていることも分かった。こうした境界を越えた往来は、田畑自体が村外者への譲渡が常態化し、入会林野も「持分化」が進むといった事態の中で、生じていた。今一度、江戸時代の村境や入会林野境を考えなおす契機としたい。